10.そういうことなら・・・あ、愛人になってやるわよっ。
一区切りしました…。
次の投稿は間話的な感じになります。
「そういうことなら・・・あ、愛人になってやるわよっ。ええ、ギルバートの為なら。でも、あんたもギルも私のこと随分気の強い強引な女だとか思ってるわよね・・・実際そうかもだけど・・・。私だってねぇ、女なのよ!気持ち悪いのよ愛人なんて。」
ギロリと睨むルイッツァにミカエルは愛想笑いを返す。
マルクスが手を打った。
「・・・ん、なんか納得。頭いいな、ミカエル。皆、俺を見てみろ。これでも俺、悪ガキだったって自覚はあるんだぜ?たいして上品に育てられて来てないのは分かるだろう?まさに過去の出来事を映す鏡が今って訳だ。・・・そんな俺が近所の兄ちゃんの影響で詩を作るようになったのがマジで不思議だよなぁ。」
おどけたように自分を指差すマルクスに皆が笑う。
フンッと鼻を鳴らしたのはヴェーラだ。
「・・・蔑んだ目をすんじゃねぇ、この男女が。おめぇだってバリッバリの庶民派だっつうことを忘れんな。たいしてお嬢様みてぇな教育受けてねぇだろうが。得意なものなんてバレエ意外ねぇだろうが。あぁ、それにしても・・・なんでこんな男女がヒラヒラ踊ってるんだか。お前には力仕事がお似合いだぜ。勝気で生意気、イヤミな女・・・それがお前ってわけ。」
ヴェーラはマルクスの髪をひっつかんだ。
痛ぇよ、止めろ!このアマッ!と喚いているマルクスは口はなかなかに乱暴だがその割に体は細い・・・詩人だけあって。
体力面でヴェーラに押されている。
「・・・後で袋叩きにしてやる。」
高笑いしながらバレエ仕込みの柔軟さでもって踵落としをするヴェーラを見てベルナールをはじめ、皆が溜息をついた。
「・・・彼の言葉をまんま証明したな。」
彼女は踵落としの次は髪をひっつかんでいる方とは逆の腕で鳩尾に肘をのめり込ませる。
傍観していた一同は一方的にいたぶられるマルクスを哀れみ抑えにかかる。
ヴェーラから解放されたマルクスは忌々しげに歯を剥いた。
「・・・ん、はぁ、ゲホホッ・・・てめぇ、後で覚えていやがれ!チクショウ!」
「・・・憎まれ口を叩くなよ・・・お前も・・・。ヴェーラの方が強いんだからさ・・・。」
ベルナールは呆れたように呟く。なんだと、てめぇと喘ぎながら反駁しようとするマルクスの根性は立派なものだが結局その先は喘ぐ音に消えた。
「マルクス、ヴェーラ。そこらへんにしてくれ。
ところでギルバートのことを兎に角、今日いないアデリーヌ達に伝えねば・・・。」
ミカエルは呟いた。
「じゃあさ、今から見にいきましょう!アデリーヌ達の劇を。
さっきから湿っぽいのよ、元気出しましょ。」
マルクスを先刻までいたぶっていたとは思えない笑顔でヴェーラが提案する。
「うーん、でも今金持ってないし?」
ダフネンは恥ずかしそうに俯く。
ミカエルとマルクスも若干顔を赤らめた。
はぁぁ、とヴェーラは溜息をついた。
「ダフネン・・・私達は友達なのよ?そんなに他人行儀にならなくてもいいわ。例え少し位金が無くても入れてくれるわよ、あの二人なら。むしろ、友人が見に来てくれるってのは喜ばれるわよ・・・でも悪いから無料チケット探してみるけど。無ければ、ジョセッペにねだってみるのもあり・・・私、女ってだけで結構気に入られているから。」
彼女は部屋に設えてある棚をガサゴソ探り出す。
『芸術家クラブ』の会員は自分が関わっている見世物の無料チケットやチラシを棚に入れていることがある。それは宣伝であり、親愛を示すためでもある。
「ギルバートのことも緊急事態だしさっさと伝えないとねぇ・・・そうよね、ルイッツァ?」
ガサゴソやりながらヴェーラはルイッツァに同意を求める。
「まあね。アデリーヌとも・・・ギルは仲良いから。」
言葉に若干の嫉妬が含まれているのは気のせいではなかろう。
「お前、ギルのことダシにしてねぇ?」
マルクスはヴェーラのウキウキした横顔に苦笑するが、決して嫌では無さそうだ。
ミカエルとダフネンの表情も若干和らいだものになっている。
そんなこんなで彼女は探し物を掘り当てた様だ。
「・・・あったぁ!アントニオとアデリーヌ気が利くぅ!!ありがとよ、ゲヘヘへへ・・・。
私、この劇少し見てみたかったんだよ・・・。」
喜びのあまり下卑た笑いを浮かべた彼女に若干ドン引いた一同である。
「何見てんのよ?」
「別に・・・いいんじゃねぇか・・・もう期待しない。」
マルクスは疲れたように言った。
「決まりよ!さぁ行きましょう!グダグダしてると私たちだけで行くわよ!」
鼻歌を歌いながら外套を身にまとうヴェーラは同性の気安さでルイッツァの手を引いて部屋を出る。彼女らが出た後、残された四人の男達はお互いの顔を見た。
「彼女が隣ならルイッツァもおしとやかに見えるな。」
ミカエルが帽子をかぶりながらぼやく。
「・・・なんせ男女だからな。天下無双の暴力人間さ。」
マルクスがソファーからとって来た外套のボタンを留めながら相槌を打つ。
「お前も彼女に突っかかるのを止めたらどうだ?
からかいすぎだぞ・・・本当にお前が殺されるんじゃないかっていつも心配だ。」
真剣な声音で諭すベルナール。彼は手袋を嵌める。
「女に殺される…ないない、俺様に限っては。
てか、あいつからかうの超楽しいよな。あいつだから楽しいんだ。
普通他の女だったら泣き出すセリフでもあいつは怒り出すからな・・・。
それが、楽しくて、止められねぇんだ。」
「・・・傍から聞いていると・・・それ、好きな子を苛めている初心な男子の発言ですよ?」
鏡に向かって髪を整えるダフネンはクスリと笑った。確かになぁ、と面白げにミカエルとベルナールもマルクスを眺める。
「うるさい、生意気言うな。このひよっこのガキ。
ちょっと思ったんだが、侯爵があいつを抱いて冷たくなったのってあいつだからじゃないのか?」
「それ、本人に言うなよ。半殺しの目に合うからな。
それに・・・侯爵が女に冷たくなるのは噂になっている。
・・・ヴェーラだけではないさ。」
ミカエルはクツクツと笑いながらマルクスを諭した。
そのまま彼は部屋を出る。
後の三人もそれに続く。
途端に階下から声が響く。
「おーい!男共!早くしなさい。何やってるの?」
「へいへい、今行きますよ女王様。ケッ。」
「今行くよ、ちょっと待って!」
四人は騒がしく返事をした。
読んでくださってありがとうございます。
奴らの作戦始動は少し先になりますが…。