学園案内【出会いはスローモーション】
身体が宙に浮いたと理解した時には、既に視界は天地が逆転していた。
「すみれちゃんっ!?」
(――ッ!)
紗和ちゃんの名前を呼ぶ声を認識する間もなく、足を引っ張られた感覚がなくなると、重力に抗う事なく身体は地面に吸い込まれていく。
事故に遭う瞬間、世界がスローモーションみたいになるなんて聞いた事あるけれど。
(あれって、ホントだったんだ……)
何が起きているか全く分からなかったけど、スローに動く世界の中で、反射的に落ちると思った。
――ドサッ!
「…………」
(案外痛みも感じないものなんだな)
ぼんやりとした頭で、そんな事を考えていた。
「大丈夫ですか?」
頭の上で耳に響く低い声。
「どうした? 迅?」
「いや、なんか女が降ってきた」
「はぁ?」
頭上の声がどんどん増えていく。
「大丈夫!? すみれちゃん!?」
紗和ちゃんの声に反応して目を開ける。
「あ……」
「あ……」
目を開けた瞬間、見知らぬクールそうな男の子と目が合って、綺麗に声が重なる。
重なった耳に心地良く響くその声は、最初に聞いた低い声だと確信した。
「あの、大丈夫すか?」
だんだんと視界がクリアになると共に、意識もハッキリしてきて、ようやく自分がその人に抱き締められている事に気付いた。
「わっ! あの、すみません!」
慌てて謝りながら立ち上がる。
「いや、俺は全然」
そう否定しながら笑う。するとクールで冷たそうな印象の目が、無くなりそうな程細くつり上がり、ふわりと人懐っこい印象へと変わった。
(うわぁ……何このギャップ)
ギャップにどぎまぎしながら改めてよく見ると、捲られた袖から覗く腕は、鍛えられて程よく理想的な筋肉の付き方をしている。
(さっきまであの腕の中にいたの……?)
そう思ったら急に身体が火照ってきた。
(あー……)
「…………」
(もう一度抱き締められたい……)
「…………」
(って何考えてんの私!?)
「すみれちゃん、大丈夫?」
黙って突っ立ったままの私の顔を紗和ちゃんが心配そうに覗き込む。
「う、うん。大丈夫……」
胸の鼓動を無理やり押さえ込んで、何とかそれだけ答えた。