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闇を愛して  作者: 冴島月ノ助
すみれの花咲くころ
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学園案内【四天王:逢】

 大和学園の選択科目には大きく分けて四つのクラスがある。

 その一つが日本舞踊を基本として、剣舞や殺陣、そして能から狂言、歌舞伎に至るまで多岐に渡る日本の伝統芸能を中心に学ぶ舞踊クラス――通称:華の舞クラ――である。

 素人から各流派の後継者をも含む、幅広い層の生徒が混在しているのも特徴だ。

 中でも流派を背負い名実ともに優れた四人を、人は四天王と呼んだ。



 ***



 大きく開け放たれた稽古場の仕切りから、日本舞踊の音楽が漏れ聞こえている。

 部屋を覗くと、その中心に目を疑う程美しい天女が静かに立っていた。

 吸い寄せられるように自然と足が向かい、『わぁ……』と感嘆の声をあげた紗和ちゃんの声をぼんやりと聞いた。


「…………」


 走って、息が切れているはずなのに、呼吸をするのも忘れてしまうくらい。一つ一つの動きに圧倒される。

 真っ白な着物から伸びたうなじが、女である私から見ても美しい。

 不意に振り向いた天女と、目が合った。


「……っ!」


 頭の上から電撃が走るような衝撃。

 天女は妖艶な笑みをたたえて、艶めかしく身体を一捻りすると、シャランと大ぶりな簪が音を立てた。


(…………綺麗)


 私は音楽が止まった事にも気付かずに、しばらく立ち尽くしていた。

 そんな経験は生まれて初めてだった。



「あー! マジ女形なんかやってらんねー!」


(……!?)


 突然背中から聞こえた声に驚き振り向く。

 するとそこには眉間に皺を寄せて、女物の着物をバサバサと乱雑に引きずりながら、がに股で歩く男子がいた。

 淡い水色の着物が彼の白い肌によく似合っているのに、着ている物と態度のギャップが少し滑稽に見える。


「もう、蓮は……」


 隣にいた男子――ちなみに彼も女物のオレンジ色の着物を纏っている――が苦笑しながら、溜め息をついた。

 ストレートの黒髪から覗く黒目がちな切れ長の目が揺れ、溜め息をつく姿もどこか色っぽい。


「何だよ」

「ちゃんとしたら綺麗なのに」

「ねぇ?」


 溜め息交じりの言葉に、その後ろからやって来たピンクの着物の男子も激しく同意する。

 いかにも和風な薄い顔立ちながら、意志の強そうな目が印象的だ。

 そんな二人の会話を聞いていた水色の男子が、ニヤリと口角を上げ……。


「あったりめーだろ! 元がいいんだから」


 そう、鼻で笑った。


(元がいいっていうか……)


 胸の鼓動がだんだんと速くなるのが自分でも分かる。


(……何なの!? このイケメンパラダイスは!!)


「すみれちゃん? 大丈夫?」


 黙ったまま動かない私を心配した紗和ちゃんに顔を覗き込まれた。

 大丈夫と頷きたい気持ちと、ドクンドクンと煩く響く心音が反比例して。


「ぜんぜん、だいじょばない……」


 私はこれからの学園生活に、また別の不安を抱えるのだった。


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