学園案内【入口】
「ねぇ、さっきの……」
「椋ちゃん?」
「うん。いつもあんな感じなの?」
紗和ちゃんは思い出すように少し考えて、『そうだね』と笑った。
結局彼女が一言も声発した所を聞いていない。
(初対面の人にそんな態度取れる? 普通)
昔から人見知りもなく愛想良く育った自分にはない感覚に、驚く事しか出来ない。
「大丈夫。椋ちゃん照れてるだけだからー」
「そんな様子少しも見えなかったけど……」
「アハハ! それに案外優しいし」
確かに、何も言わずに荷物は運んでくれた。でも。
(先行き不安だ……)
「こっちが校舎だよー」
「あ、うん」
(だからといって彼女みたいな人ばかりじゃないだろう。うん。きっと大丈夫)
そう自分に言い聞かせて、私は紗和ちゃんの後について行った。
校舎に入ると古風な木造の廊下が続き、窓からは日本庭園が見え、鹿威し(ししおどし)のカコーンという音が響いた。
そしてどこからか三味線の音色も聞こえてくる。
「うわぁ……」
到底学校とは思えない異世界のような空間に、私は感嘆の声を上げた。
「今日は日曜日だから、みんな自主練中だと思うんだよね。授業になるともっと色んな音色聞こえてきて面白いよ」
「へぇ~」
「どこから行こっか?」
そう弾んだ声で紗和ちゃんは、ワクワクしたような目を向けた。
学園の中にいると案外休日の学校を回る事はないようで、実は今日一緒に回れる事を楽しみにしていてくれたようだ。
(紗和ちゃん、本当に可愛くていい子だなぁ)
一緒にいて思わず笑顔になってしまう。それだけでこれからの学校生活への不安が少しかき消された。
「とりあえず教室見たい!」
「おっけー」
私達は探検するみたいな気持ちで、歩みを進めた。