静かな人
大和学園には普通科と日本伝統文化学科がある。一般的な高校と何ら変わらない普通科と違い、日本伝統文化学科――通称、日伝科は独特な校風と、全寮制で都内から少し離れた……というより、隠れ家のようにひっそりと立地されている事から、その全貌は謎に包まれている。
「ここが女子寮。ちなみに男子寮は反対側なんだけど、お互いの寮は出入り禁止ね?」
学園を真ん中に女子寮と男子寮が左右に分かれている。出入口は小さな戸口が一つあるだけで、周りはぐるりと高い壁に覆われていて、出入り禁止と言われている通りそう簡単に部外者が入れそうにない。
「えーと、すみれちゃんの部屋は……っと」
紗和ちゃんが一緒に荷物を持って寮の玄関に入ろうとした所で、黒装束に身を包んだ人と鉢合わせした。
(何? 忍者!?)
「あ、椋ちゃん!」
紗和ちゃんは何の疑問も持たずに慣れた様子でその人に話し掛けている。
(ショートカットだから思わず男の子かと思ったけど、女子寮から出てきたって事は女の子なんだよね……?)
長い前髪が目にかかって、表情が上手く読み取れない。
しかしそんな事より、その風貌があまりに浮世離れしていてとてつもなく気に掛かり、上から下までジロジロと見つめてしまう。
「これから自主練?」
紗和ちゃんの問いに、その人は小さく頷いた。
「あの……」
私が遠慮がちに声を掛けると、紗和ちゃんは思い出したように私の横に並んだ。
「あ、そうそう! 彼女が昨日話した黒木すみれちゃん」
「初めまして。すみれです」
「…………」
「で、こちらが橘椋ちゃん」
「よろしくね。橘さん」
私の言葉に、橘さんは少しも表情を変えずに小さく会釈する。
(……愛想なっ!)
「それでね、これから学園の案内しようと思うんだけど」
紗和ちゃんがそこまで言うと、橘さんは何も言わずに軽々と私の荷物を持って寮の中へ消えていった。
「え?」
「わぁ! ありがとー椋ちゃん。じゃあ行こっか?」
「え? え、ちょっと待って! いいの? あれ」
「ん? 大丈夫。椋ちゃん部屋に運んでおいてくれるってー」
「え? え?」
(いつそんな会話した!?)
先に行ってしまう紗和ちゃんに慌ててついて行きながらも、気になって何度も振り返った。