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俺のLevel!  作者: aki
8/10

普通科? 太郎、初めての死線 中編 

今回は太郎の高校デビューのお話です。

ただし、死線的な意味で。

「太郎っ、本当にこの道であっているんでしょうねっ」


 〈くノ一〉先輩こと刃隠先輩が、苛立ち混じりの言葉を俺に投げかけた。

 それもその筈、共生派の里に辿る道は、獣道ですらない。舗装どころか、獣の足跡ですら均されていない。 魔物に追われながら、俺の指示の元、薮を突き抜けながら走り続けるのは、相当ストレスになっているのだろう。

 俺が腕の中で、ケガの痛みに耐えている〈僧侶〉先輩も顔色が悪い。


「合ってますよ。もう俺の散策コースに入ってます!」

「ホントでしょうねっ」


「ホントですよっ。第一、この道を教えてくれたのは共生派の里の住人なんですからっ」


 彼女らの表情は、あの場を〈餓狼〉に任せて以来、険しいままだ。

 中等部から迷宮攻略で凌ぎを削ってきた仲の筈… にも関わらず、片や絶望的な殿、片や生かされ撤退している。

 心中穏やかではいられないだろう…



「皆っ、距離を縮められてるよっ!」


 〈呪禁道士〉先輩が警告を発した。

 〈呪禁道士〉先輩は呪いを使った領域の変質を得意とし、その場に獲物がかかれば察知する事ができるらしい。

 授業で習ったことはあったが、目にしたことは今回が初めてだ。

 中々、面白い力だと思うけど、惜しむらくはじっくりと呪いをかける時間がないと言ったところか。


「凄く速いっ。コレ、ホントにゴブやオークだったの!」

「コボルトもいたわよっ」


「それよりも速いわよ、今来るヤツラ!」

「黒犬〈ブラックドック〉じゃないの!?」


「もっとデカいよっ!」


 〈くノ一〉と〈呪禁道士〉が言い合った。

 俺は「で、どーすんの?」などと思いつつ神楽先輩を見るが、冷静に考えていると言うよりも苛立ちが先に出ているようだ。

 だって、走りながら爪噛んでるし。


「冥子! 敵は何体くらいっ!」

「25っ! でも、その後にオークとホブゴブっぽい集団も来るわよ!」


 〈呪禁道士〉先輩改め冥子先輩の報告を聞き、神楽先輩はとうとう爪を噛み切ってしまった。

 不安にならざるを得ない行動は止めてほしいが、彼女が背負うプレッシャーを考えれば仕方がないと諦める。

 神楽先輩と目が合うと、この先の地形を問われた。

 冥子先輩は、あと五分もない内に追いつかれると言っているし、神楽先輩の望みとしては開けてない場所が良いらしい。

 俺は、木々の背が高く薄暗い場所か、滝と沢のある窪み状の場所に案内出来ると伝えた。

 どちらも足場は悪い。

 鬱蒼と生える木々のため大立ち回りが出来ず、薄暗い傾斜になっている場所。

 大小不規則な石だらけという足場で、しかも湿気のため滑りやすいような場所。

 どちらを選ぶのか――


 神楽先輩は一瞬眉間に皺を寄せたあと、滝と沢のある窪み状の場所を選んだ。




 ドドドドドド――


 目の前には、三十五メートル級の分岐瀑の滝。

 霧状の水飛沫を撒き散らし、一帯の温度を下げ、過ごしやすい環境を作り出していた。休日に来れば、マイナスイオンに溢れるこの場所は、心と体を癒す素敵パワースポットだ。

 今日、俺の死に場所になるのかもしれないが――



「山田君。分かっていると思うけど指示には従って。じゃないと、味方の魔法で死ぬわよ」


 とっても怖い忠告を受けた。

 着いていきますよ、神楽先輩。共生派の里までは。

 怖々と頷く俺を、ただ一人、刃隠先輩が微笑ましそうに見ていた。


「冥子〈めいこ〉」

「準備出来てる」


「礼子。悪いけど、戦いが終わるまでもって…」

「分かってる… 〈戦士〉職じゃなくても、このくらいじゃ死なない」


「煌羅〈きらら〉」

「……ん」


「魔美〈まみ〉。盛大に頼むわよ」

「ド派手にね」


「芳子〈ほうこ〉」

「はいはい」


「忍〈しのぶ〉」

「任せて」


 そして、女たちが覚悟を決めるなか、俺は空気だった。

 まあ、仕方がない。付き合いの年季も濃密さも違うからなぁ。

 戦友がいるっていいな。こんな時には…


 迫って来ているであろう死を前に、少しだけ寂しく感じた。

 そんな中、冥子先輩と魔美先輩の集中が高まり、厳かにも感じれる詠唱が始まった――



「「来た」」


 偶然にも、俺と刃隠先輩の声がハモる。

 俺より前に出ている先輩が態々コチラを振り向くことはないが、何だか笑ったような気がした。

 多分俺と同じで刃隠先輩の聴覚は、かなりの速度で近づく謎の蹄の音を捉えているはずだ。


 

「何……あれ……?」


 多分、芳子先輩の声だと思う。

 未知の何かを初めて見ましたって声音だ。その気持ちは痛いほど分かる。

 姿を現し突撃してくる魔物は、有名なアレに似ていると言って良いのか悪いのか、よく分からない連中だった。

 端的に言うと、巨大な猪の背にオークの上半身が生えてる半豚人猪。

 俺の心の中で「そこは半人馬ケンタウロスでいいだろっ」と思わずツッコミを入れた。


半人馬ケンタウロスと違う。猪の頭もオークの頭ある。合成魔獣キメラ?」


 芳子先輩がまだ呆けた声音で喋る。


「…芳子。殺せばただの死んだ魔物だ」


 驚異の殺伐理論を煌羅先輩が語った。

 煌羅先輩は前衛の〈女武者〉。〈武者〉と言えば、我が学園で有名なのは剣持先輩だが、煌羅先輩もかなり強い。

 前衛職としては軽装だが、それは彼女の攻撃能力を最大限に生かす為。

 朱色の柄をもつ薙刀を小枝の如く振り回し、組み打ち、投げ、極めと何でもござれで戦う姿は勇ましい。まだ見たことはないが、腰に差す野太刀、脇差共に通常より大きなもので、彼女の膂力が並ではないと示している。今までの戦闘でも危うさを感じたことはなかった。

 それに〈女武者〉など〈女〉がつく職業は、自身の活躍によって味方を〈鼓舞〉し、通常以上の能力を発揮させるという補助能力が高い。今から始まる戦いにおいても期待せざるをえない。


 俺が煌羅先輩のプロフィールを思い浮かべている内、足場の悪さをモノともせずに近づいてくるオークボア(仮)。

 どうするのか? と神楽先輩を見ると、何かを待っているようで「ジッ」としたまま動かない。


 そして、オークボア(仮)を睨みつけたまま言い放つ――


「冥子、今よっ!」

「目覚めよ。忘れえぬ怨嗟よ。いまこそ業火となりて辛苦を晴らせっ。鉄火極苦処!」


 冥子先輩の魔法が発動っ……したはずなんだけど、何か飛んでったりという事はない。

 俺が勝手に「失敗したのか?」などと早とちりしそうになった瞬間、威勢のいい奇声を上げ突っ込んでくるオークボアの身につけた武具から炎が巻き上がった。

 突然の怪奇現象と炎に焼かれる痛みをでパニクるオークボアども、そして俺。


「一気に畳み掛けるわよっ!」


 神楽先輩がオークボアの集団に向かって疾走した。

 続いて煌羅先輩も駆ける。おや、刃隠先輩は?……気配が消えてる。いつの間に!?

 そして、芳子先輩によるボウガンによる援護射撃が始まった。


 ヤバっ、完全に出遅れた。

 俺は慌てて拳銃くろゆめを構え、いつでもブッ放せるよに準備した。

 〈魔法〉職のお姉さま方には指一本触れさせるわけにはいかない。


 冥子先輩はまた詠唱を始めたし、すでに詠唱を終えた〈魔道士〉魔美先輩は、魔法を放つその時に備え高い集中を維持している。

 すでに満身創痍の〈僧侶〉礼子先輩は、詠唱というより念仏に近いものを、休むことなく唱え続けていた。突き刺さった槍の一部が肉に絡まり抜くことが出来ず、治療が出来なかった事が惜しまれる。俺に出来ることは、そうまでして礼子先輩が唱える念仏を誰にも邪魔させないってことだけだ。


 前線では、すでに神楽先輩、そして煌羅先輩によって三体のオークボアが切り捨てられていた。

 神楽先輩が変幻自在の剣舞で自ら流れを作り出し、オークボアどもにペースを決して握らず、掴みかけたとしても煌羅先輩の豪快な薙刀さばきがそれを粉砕した。

 時折、乱戦の中で刃隠先輩の気配を感じることもあったが、その時にはすでにその場にはおらず、首を刈られたオークボアの残骸が存在するだけだった。


 このまま押し切れるのか……そう思った矢先――

 三匹の一際大きなオークボアが前線を抜け出し、俺たちの方に突っ込んで来た。


「拙いっ! タロー、私たちで食い止めるわよっ」

「当然っ!」


 芳子先輩は先頭、俺は二番手のオークボアに狙いを付け、黒夢のトリガーを引き弾丸を吐き出した。

 下半身を狙った弾丸は、鎧や胡散臭い毛皮に守られていないヤツの膝を破壊し地べたに這い蹲らせ、芳子先輩のボウガンの矢は、撃った内の何本かの矢が妖しげな軌道を描き、オークボアに防がれることなく対象の体に突き刺さった。

 俺は「魔法でも掛かってんのかあの矢は?」と思わんでもなかったが、今の状況では便利でしかないので放置。もう一匹に黒夢の銃口を向けた。

 

 連続で吐き出される弾丸。その後を追い不可思議な軌道で敵に迫るボーガンの魔矢。

 しかし――


 その全てが直撃寸前で粉砕された!


「ユニーク個体! タロっ、飛び道具は効かないわよっ!」


 チッ、仕方ねぇーなぁっ。

 俺は腰の剣鉈を二本とも抜き去り、敵に向かって疾走する。手抜き無しの全力全開だ。

 とりあえず、俺の名前を短縮しすぎる先輩のことは置きざりにして、オークボアに踊りかかった。


 オークボアの武器は、斧槍ハルバードだ。

 山羊っぽい角の付いた頭蓋骨を兜変わりに被り、謎の毛皮を着込むまごう事なき蛮族スタイル。

 そして並の戦士級オークを遥かに凌ぐ筋肉。……コイツは強そうだ。


 オークボアは俺を斧槍ハルバードの間合いに捉え、振りかぶった。

 直撃すれば、例え〈戦士〉職でも粉砕されてしまうだろう。ましてや、俺の耐久力では話にならない。

 俺はサイドステップで斧槍ハルバードの間合いから逃れ、ノロマに振り下ろされるのを見送った。〈俺Level5〉の動体視力に感謝しつつ、間合いを一気に詰める。


 まずは、ヤツの手首だ。

 その重そうなモノを振れなくしてやるぜ!


 俺の剣鉈の軌道がヤツの手首を捉えた――


 と俺が思った瞬間、俺の右横で爆砕音。

 凄まじい衝撃と何か硬いモノが無数に俺を襲い、重力を感じられなくなった。


 ブッ飛ばされたのか! クソ痛ぇぇっ!


 俺は感を頼りに身を捻り、体を丸めると、運良く地面に着地することに成功した。

 爆砕され粉塵が舞い上がる方を見ると、斧槍ハルバードを肩にかずき余裕の表情を見せるオークボアがいた。


「コラッ、タロ! 重量級武器を振り下ろしてくる時に、紙一重でかわすバカがドコにいるの!」


 サーセン… ココにいるっス。

 芳子先輩に叱られた。


「大丈夫、そのくらいじゃまだ死なないよっ。早く立って!」


 意外とスパルタな礼子先輩。

 相当重症だって… めちゃくちゃ痛ぇーし。手だって動かせな……あれ? 痛くない。


「礼子のケガに反応する回復魔法が掛かってるから、即死じゃなかったらそこそこイケるよ!」


 そう言った芳子先輩は、近づくオークボアを警戒し、厚めのナイフを構えた。

 芳子先輩にガチンコの肉弾戦なんてさせてちゃダメだ。

 俺は、オークボアの背後を強襲すべく、駆け出した。


 一本目の剣鉈はどっかに飛ばされ見当たらない。俺は二本目の剣鉈を、疾走したまま抜き放ち、オークボアの背後から首筋を狙う。

 オークボアは、振り向き様に斧槍ハルバードで背後を払い俺を刈り取ろうするが、そんな事は想定済みだ。首筋を狙う一連の動作はフェイク、実際は深く体を沈めオークボアの後ろ足を狙った。


 鈍い感触だった。

 刃先はなんとか通したものの、切断には到底至らず、それどころかもう片方の後ろ足で蹴り上げられてしまう。

 ギリギリ顔面を粉砕されることは避けたが、肩の骨が砕かれてしまった。

 被ダメージ反応起動型の回復魔法が発動したのか、肩の骨が即座に元の位置に戻ろとする、有り難くも不気味な音が若干耳障り。

 周りを彷徨く目障りであろう俺を、先に殺すべきと判断したのか、オークボアのボア頭がけたたましく奇声を上げた。咆哮ハウリングの一種だったのか、腹に響き物理的な重さを持っているかの如く、俺の足を重くさせた。

 体を萎縮させる俺に、オークボアの斧槍ハルバードが唸りを上げる。絶対絶命だ。


「喝っ!!!」


 煌羅先輩の凄まじい音量を持った一喝が、戦場に鳴り響く。

 俺の萎縮が解け、逆にオークボアの動きが一瞬止まる。俺は慌てて一旦距離をあけ、冷たい冷や汗を流した。普通に死ぬところだった。


「山田ァァッ!!」


 煌羅先輩が俺の名前を呼び、その直後、俺とオークボアの間に何かが凄まじい勢いで突き刺さった。

 土煙の中、現れたそれは打刀……ではなく、煌羅先輩仕様の脇差だった。

 使えということか…

 即座にそれを手に取ろうとするも、オークボアはそれを許さず、地面に突き刺さった脇差を払おうとフルスイング。俺は、遥か彼方に飛んでいく脇差を幻視した。


 直後――


 淡い光を放ち、斧槍ハルバードの一撃を受け止めた脇差が、地面に突き刺さったまま鎮座していた。

 慄くオークボア。奇声をあげたボア頭も余裕ヅラだったオーク頭もまとめて慄き、一歩、また一歩と後退する。

 おそらくコレが、俺がオークボアに勝てるラストチャンス。

 俺は大きく踏み出すと、脇差を乱暴に掴み強引に引き抜いた。

 脇差の淡い光は失われず、俺は腰だめに構えると、オークボアに突貫。

 オークボアは脇差の力に慄きつつも、俺の動きに対応し斧槍ハルバードの穂先で俺を串刺しにしようとした。

 俺はギリギリまで穂先を引きつけ、背中の肉を削られながらもそれをかわす。

 オークボアの懐に入り込んだ俺に、反り返った獰猛な牙を持つボア頭が出迎えるが、もう遅い。俺は既に抜刀の構え。抜き放った脇差は、ボア頭の顎から侵入しヤツの左側頭部へと抜けた。

 俺の視界が赤に染まる。

 赤の向こうからはボア頭の嘆きが聞こえ、斧槍ハルバードが引き戻される。俺は即座に身を屈め、斧刃をやり過ごし、オークボアの前足を払った。

 業物の剣鉈の刃を緩和するヤツの毛皮は、紙のような手応えで切り裂かれ、オークボアは片足を失い、ヤツはバランスを崩す。


 チャンス――


 俺は止めとばかりに、オークボアに最後の攻撃を仕掛けた。

 俺は、オークボアの胸まで最短の攻撃行動、突きを放つ。

 切っ先がオークボアの胸に届くほんの数cm。俺の時間間隔がギューッと凝縮され、異常なスローモーションの世界に囚われた。


 決して俺は切っ先から目を逸らしてなどいない。

 だが、俺の視界の外で何が起きているかが手に取るように分かった。

 オークボアが、咄嗟にボア頭の牙を強引にへし折り、それをもって俺と刺し違えてきたって事がだ。


 そして、時間は戻る――


 確かな手応え…

 そして確かに命が流れ出ていく間隔…


 俺はユニーク個体のオークボアに勝利し、そして敗北した。

 

 俺の足元には、俺とオークボアの血溜りが出来ている。

 腹は切腹したかのように横に切り裂かれ、その終着点にはまだ獰猛な牙が残っていた…



 次回へ続く。




戦闘が続く中、致命的なダメージを負ってしまった太郎。

果たしてその運命は…

次回、〈覚醒の時〉………………嘘です・゜・(ノД`)・゜・


『鉄火極苦処』

〈呪禁道士〉が使う魔法。

対象の所持する武器《鉱物を使ったもの》に宿る、今までに殺してきた者たちの恨みや辛みを業火に変え、対象を攻撃する魔法。



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