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俺のLevel!  作者: aki
3/10

朝の風物詩

 学園へと続く坂を登りきり校門前へとたどり着いた。

 俺は何時ものごとく制服の内ポケットから生徒手帳を取り出し、校門を通り抜ける準備をする。

 ウチの学園は校門が駅の改札口仕様で、いちいち生徒手帳のコードを読み込ませないと通り抜けることが出来ないからだ。安全の為とはいえ少々面倒に思うこともある。

 

 無事校門を通り抜けるとそこはだだっ広い校庭だ。すでに朝練に精を出す武芸科の生徒や普通科の運動部に所属する生徒たちが大勢いた。ちなみに校門付近に多いのは武芸科の生徒たちだ。

 基本、校庭は外側と内側に分けて使いうことになっており、武芸科は外、普通科運動部は内と決まっている。これは純粋に安全上の問題で、外敵に襲われたとき即座に武芸科の生徒たちが対応するためだ。


 俺は「ホントご苦労さん」などと思いながら、その場を通り過ぎた…



 俺の通う高等部の校舎は、実を言うと校門から一番近い。

 ただ滅多に起きることではないが、外敵の襲撃があり校庭の武芸科の生徒や教官が蹴散らされた場合、真っ先に矢面にさらされるのが高等部の校舎だ。

 ま、今言ったことを武芸科の中でも血の気の多い連中に聞かれたら「真っ先に矢面にさらされるのは校内にいる武芸科だ」とドヤされてしまうけどね。…くわばらくわばら。


 校内に入るとそのまま教室へと向かう。一年の俺の教室は三階。また登りだ。山間育ちの俺に言わせりゃ屁でもないけどな。

 途中、知り合いや先輩方に挨拶しつつ上の階を目指す。すでに蛮族オーク出現の報が広がっているらしく、よく話題に登った。反応はまちまちで、武芸科の先輩方は好奇心を覗かせているが、その他の生徒には不安のほうが先立っていようだ。


 俺はと言うとあんまり気にしてない。

 どうせ武芸科の教官が狩るか、それがダメでも警察か軍の山岳部隊がなんとかするだろう。

 もちろん警戒心を完全に解くのは拙いと思うが、かと言って不安に怯えているのも趣味じゃねぇ。そうだな… 警戒を心に留めつつも普通にしてる。うん、それがいい。それでいこう!


 そんな風に考えていたら目の前に教室の戸があった。

 考え事をしている間に我がクラス、普通科一年D組に到着していたらしい。

 教室の中からはクラスメイトの声がかなりの音量で漏れていて、「相変わらず喧しいクラスだな」と思いつつ俺は教室の戸を開けた――



「お、主役の登場だ。タロー、コッチに来て今朝の話を聞かせろよ」


 教室に入るなりコレか。

 俺としてはもうこの話はいいよってかんじだが、クラスメイトにとっては新鮮な特ダネだ。逃がしては貰えんだろ。

 あ、そうそう。今、俺に話しかけてきたコイツはタクロー。仲の良い友達だ。腐れ縁でもある。


「タクロー。俺がココに来るまで何回その話したと思ってんだよ」

「知らね。ソレはソレ、コレはコレだ」


 俺とタクローが言葉を交わし合う間にも、周囲の期待という名の同調圧力が高まっていく。

 仕方ねぇーな。コレも付き合いだ。

 そう思って話だそうとしたところ、タクローがとんでもないことを言い放った。


「大活躍だったんだってな。嫁が熱く語りまくってたぞ」

「嫁じゃねぇーよ。何回言ったら分かるんだお前は」


「あんな可愛い幼馴染は嫁でしかない」

「あのな。世の中お前の頭の中みたいに都合よく出来てねぇーんだよ」


 タクローは重度の二次元愛を持っている男だ。

 二次元世界における戯言をよくほざく。悪い奴ではないが残念なヤツではある。


「そうか… それは残念。ところで我らが誇る一年D組の人間凶器こと、山田太郎の武勇伝を聞かせてくれないか? クラスの皆も待ってるぞ」

「…誰が人間凶器だ」


「そんなのタローしかいないだろ? 一体どこの普通科生徒が初見の魔物からカウンターを取れると言うんだ? しかも拳で。タロー、言ってみ。お前以外に誰かいるのか」

「ぐぬぬ…」


 反論出来ん。「現実は無情」とは、よく言ったものだと思う。


「諦めろタロー。お前の嫁が語ったお前の武勇伝をお前の口から聞かせて欲しいっ」

「喧しい!」


 悪乗りしすぎだ。タクローめ。

 まあお前のことだから皆の不安を和らげようって魂胆なんだろうが。


「あ゛ぁ~も~分かった。話せばいいんだろ。話せば」

「おお友よ。話してくれるか!」


 態とらしすぎだ、この馬鹿は。


「じゃあ話すぞ」


 そう言うと、俺とタクローの会話を遠巻きに聞いてた生徒がドッと押し寄せてきた。

 俺は若干引つりながらも、クラスメイトたちに通学途中の出来事をできるだけ丁寧に話してやった。



「――という訳だ」

「「……」」


 一通り話し終え、一旦静まり返る教室。誰かが生唾を飲む音までよく響く。


「猟友会と武芸科の生徒を軽くあしらうオークか… ユニーク個体っぽくね」

「そうだなぁ… 確かに頭と装備は良かったな」

「絶対ユニークだよ! ウヒョォォ」


 タクローはユニークってことにしたいらしい。コイツはユニークだとかレアって言葉に浪漫を感じる男だ。クラスでただ一人喜んでいる。タクローの中二病は治りそうもない。


「ねぇ山田君。私は使役されていた犬のほうが気になるのだけれど。実体化する前に動き出すって、コレかなり異常なことよ。不安だわ」

「まー委員長が不安になるのは分かるけどさ。何とかなるよ、多分」

「なんともならないわよ……はぁ。いつもそうなんだから。なんとかなるのは山田君だけ」


 普段知的な委員長の瞳は、俺に対する諦めに満ちていた。

 このクラスが始まって以来、俺を含め問題児のお目付け役たる彼女の責任は重い。このクラスをまとめていけるのは委員長だけだ。「諦めるな。まだ早い」の精神で頑張って欲しい。俺は生暖かい眼差しで見つめ返した。

 委員長がまた一つため息を漏らす中、クラスメイトの質問はまだまだ続く。


「でもよぉ~タロー。これから通学の時、俺らどーすりゃいいんだ?」

「武芸科上位ランカーの通学時間に合わせりゃいいだろ」

「それマジで嫌なんだけど。ハーレム状態じゃん、あんなの」

「我慢しろ」


「ねぇタロー? アンタまさか幼馴染はキョーコだけとか思ってないわよね!?」

「思ってねぇーよ」

「そ、分かってるならそれでいいのよ。…私の時も守ってよね」

「あいあーい」


「謎の犬って何食うのかな?」

「知らねぇーよ」


「タロー君。今日から一緒に帰らない?」

「武芸科の彼氏に頼め」


「じゃあ、私たちと帰ろうか?」「待て俺たちを忘れるな」

「面倒だろ。オイ武芸科、何静かにしてんだ。こういう時こそお前らの出番だろうが」

「馬鹿、タロー、テメー、武芸科生徒が皆強いなんて思ってんじゃねぇーぞ」

「そうよ。ユニーク個体なんてそう簡単に勝てる相手じゃないのよ」

「でも、お前ら非戦闘員保護義務とかあんだろ」

「「イヤアアァァーー!」」


「なんで俺〈戦士〉なんかに目覚めちまったんだよぉ~。戦いたくねぇ~。俺、弱ぇ~のにぃ~」

「私なんて〈戦巫女〉よ。家が神社で薙刀やってたからって安易すぎない!? ファンタジーなんて嫌いよ」

「ドンマイ♪」

「「ノオオォォーー!!」」


 質疑応答を繰り返すだび、教室の仲の混沌が増していく。

 だが、ぶっちゃけ飽きてきた俺は、武芸科生徒の嘆きを聞き流し「いい加減、担任来ねぇかな」などと考え出していた。


 

 そんなこんなで十数分後――

 ガラガラピシャッと戸が開かれ、よく通る男前な声が教室に響いた。


「お前ら喧しいぞ席に付け! 今からホームルームを始めるぞ!」


 我らが担任にしてESP開発担当教官、轟響子のお出ましだ。

 俺たちは「わっ」と蜘蛛の子蹴散らしたように自分たちの席に付いた。


 この女教師は強力なESP保有者で、生徒がヤンチャすると力尽くで鎮圧してくるため、今では誰も逆らわない学園屈指の女傑だ。見たくれはキツイ印象を与える美人女教師と言ったところか。黒髪のオカッパロングヘアでいつも私服の上に白衣を着込んでいる。スカートはタイトなものを愛用し豊かな腰と尻のラインを表現しているが、エロい目で見すぎると物言わぬ物体へと変えられてしまう。ちなみに、まったく見ないと不機嫌になる。難しい女だ。

 最近、キョーコが「名前の読みが同じだし…」という安易な理由で、何やら興味を深めているらしい。何かの間違えで憧れを持ってしまうといけないので、俺はこの女の話題が出るたびに何気に話題を逸らす努力をしている。


「まずは点呼だ。ハキハキ返事しろーっ」


 名前を呼ばれた生徒は大きな声で「ハイ!」と返事を返していく。軍隊のようだ。


「鬼塚ぁ!」

「……」

「ん、どうした返事しろ!」

「先生、鬼塚君は今日も来ていません」

「そうか… どうしたんだろうなぁアイツは。まあ良い、次」


 鬼塚君はアンタが教育的指導して以来、学園に来ていませんとは誰も言わない。

 

「宝徳寺… コイツはまだ迷宮の中っと」


 本来、異常事態発生の際、クラスの女子が頼るべき存在は俺ではなくコイツだ。

 先日、迷宮50階層で〈剣豪〉に目覚めたとの報告があり、学園に目出度い報せもたらした我がクラスのエースオブエース。父方の祖父が剣術を含めた古武術道場を。母方の祖父が香港で拳法道場を経営し、その二つの技を受け継いだ東アジアのハイブリット野郎だ。

 185cmの長身にモデルのように長い手足、大陸特有の切れ長な瞳に宿る怜悧な眼差しが女子には堪らないらしい。実力も一学年の中じゃ断トツだしな。


「最後に山田ぁ!」

「ハイ!」


 名前を呼ばれたので俺もハキハキ応えておく。


「お前、朝から活躍だったそうじゃないか? 私も鼻が高いぞ。どいつもこいつも扱いに困ってたお前の面倒を見てきた甲斐があったというものだ」


 はっきり言うねセンセ。嫌いじゃなけどな。


「宝徳寺がいない間は山田に頼っとけよぉお前らぁー。返事!」

「「「ハイ先生!」」」


 口元をニヤリと歪め俺を面白そうに見る轟響子。

 センセ、俺アンタのそういうトコ大っ嫌いだよ。


「よぉーし! じゃあ解散だ。各自、所属の科に移動しろぉー」


 轟響子がまるで追い立てるかのように移動を急かす。我がクラスの朝の風物詩だ。誰も文句は言わない。大事なことだから重ねていう。「そんなことしたら物理的に黙らされるぞ」と。単位が無駄に取れなくなるのは勿体無いしな。


 さて、俺もドヤされる前にさっさと移動しますかっと……



 次回へ続く。


 



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