表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Sweet Chocolate.  作者: 勉強から全力で逃亡したかったので、訳あって小説を書く事 を決意した人達。
本編
8/10

バレンタイン

1


ボクは夕方に誕生した。

最初に聞こえたのは……

「今度こそは……」

何度もつぶやくかわいい女の子の声だった。

今度こそ?

今度っていう事は

ボクが誕生する前に

ボク以外も誕生する予定だった?

けど、ボク以外の誰かが誕生しなかったから

だからボクが誕生したらしい

なんだか嬉しいな。

かわいい女の子はボクを優しく、

ゆっくりなで始め、そして、

ミルクをくれた。

うん、うん。このミルク、クリーミーでおいしい!!

「よし、これでいいよね」

弾んだ女の子の声がする。

するとそこに……

「ひかり、どう? うまくいってる?」

「ママ、おかえり~。

うん、今日は大丈夫みたい」

ボクを誕生させてくれた女の子は

どうやら「ひかり」という名前らしい。

そしてその「ひかり」のママが

帰宅したみたい。

「ちゃんと後片づけまでしてね」

ママはそういって、ボクらのいる所から

離れていった。

「わかってるって」

ひかりはそう言うと

ボクをベットの中に……

「さぁ、今度は完璧だから

しばらくゆっくり休んでね」

そういうと、ボクは暗いちょっと涼しい

部屋に移動させられた。


休め、と言われても

ボクはひかりの事がもっともっと

知りたくて外の声を探した

すると……

ひかりの声がすぐに部屋の向こうからした。

「あ、夏美?

私!そっちはどう?

私?

私はバッチリよ

昨日みたいな失敗はしてない、してない」

どうやらひかりは、

「夏美」という友達としゃべっている。

「先輩たくさんもらうんだろうな~

けど今年は渡さないと

先輩、大学生になっちゃって、

もっともっと遠い存在になっちゃうもんね」

夏美という子の声は聞こえないけれど

ひかりの言葉で

ボクは色々とわかってきた。

「先輩、大学に行っても

陸上しに学校来る、って言ってくれたけど

本当かな?

それよりメッセージって

書いた方がいいと思う?

何もいらない?」

ひかりの言葉は

弾んだり落ちたりとっても楽しい。

夏美としばらくしゃべっていたひかり。

「じゃ明日!

お互い頑張ろうね」

そういった後、

ガチャガチャという音とともに

水が流れる音がした。

ボクはだんだん眠くなって寝てしまった。


2


私の名前はひかり。

高校二年のどこにでもいる普通の女の子。

飛び抜けてスポーツが出来るわけでもなく、

得意な教科があるわけでもなく、

そしてもてる程のかわいさも

モデルのようなプロポーションも背もない.....

本当に平凡な女の子。

「いってきまぁ~す」

私は元気に家を出た。

自転車通学の私。

今日はいつも以上に息が白く、

マフラーで口元を隠す。

風が冷たくてスカートから出た足や

耳・ほっぺが一瞬にして凍るようだ。

いつもの私なら急いでこいで強い風に

当たるのは避けるのだが、

今日は特別だ!!


今日は体は寒くても

心は緊張しっ放しで

ペダルをこぐ足にも力が入る。

今日は女の子が一番輝ける日!

バレンタインの日!!

二月に入ってから親友の夏美と

チョコを作るか買うかで悩み

作るなら何にするか……

ラッピングは? メッセージは?

どうやって渡す? 何って言う?

きのう……正確には今朝まで

シュミレーションしていた。

自転車のかごの中の鞄に入ったチョコ……

ガタガタと揺れて壊れないかな?

そして今年こそはちゃんと渡せるかな?


   3


ふわぁぁぁ。よく寝た。

ボクは誕生してから寝たり、起きたりを繰り返していた。

朝から色んな声が聞いてきた。ほら、今も……

「ひかりはいつ渡すの?」

「一応、放課後に……」

夏美はもう渡せたんだもんなーー。

いいな……

私、昨日から緊張しっ放しで……」

ふぅーーとため息が出る。

「ダメだ! お弁当食べれない! 夏美、残り食べて」

「いいよ~。ひかりのママ、料理が上手だから

いつでも手伝うよ。私も昨日から

緊張してご飯が食べれなかったから

安心した今、すっごくお腹減っているの!!」

「よかったね。夏美、渡せて」

「うん♪

ひかりもがんばれ」

「ありがとう」


ひかりや夏美の会話や他の声を聞いていると、色々分かってきた。

今日はバレンタインデーという日らしく

女の子から好きな男の子にチョコを渡すみたい。

で、ボク。

ボクはひかりが作ってくれたチョコのようだ。

ひかりが好きな先輩ってどんな人なんだろう。



   4


いよいよ決戦だ。

チョコを渡す。ただそれだけの事が

女の子には年に一度の戦なのだ。


あ~、もうすぐ。七限目が終わってしまう。

私、今日の授業全く覚えていない。

授業より、テストより大事なモノ。

この世には絶対ある!!

チャイムが学校中に響く……。

クラスのみんなに負けないスピードで帰り仕度をする。

覚悟しなきゃ、

よし、行くぞ!!

「夏美、お先に!!」

私はそう言うと、教室を飛び出した。

先輩は帰る前に必ず立ち寄る場所がある。

そこに誰よりも先に行って待ち伏せにするんだ。

廊下には他のクラスの生徒も出てきて

その間を縫うように急いだ。


校庭のすみの大きな桜の木。

先輩はここの場所が大好きで

陸上の練習の休憩は必ずこの木の下だった。

引退した後も必ず下校の前にここに寄っているのだ。

一度、先輩に聞いたことがある。

なぜ、ここに寄るのですか? と

そしたら先輩は

「ここに、オレの高校時代があるから」

照れながら言った、先輩。そして先輩は私に

「恥ずかしいから内緒な」

小さな声で耳元で言われた私は、

胸がきゅーんとなったちゃった。

それまでは、憧れだったんだけど。

どうしても気持ちを伝えたくて、今日に至っている。


階段を慌てて降りていると、

「ひかり!! ひかり!!」

私、急に呼び止められて足を踏み外しそうになる。

振り向くと

「ひかり!! 忘れ物だよ」

同じクラスの委員長がマフラーを届けてくれた。首にマフラーが無いのを確認する。

「ごめん。ありがとう」

委員長から受け取り、下駄箱へ。

私、急げ! 急げ!

先輩が帰っちゃうよ!

北風がぴゅーと吹いて、思わず足がすくむ。

鞄から、チョコの入った箱を取り出す。

よし、校庭に……

あ、先輩いる!!

けど…… もう一人。

あれは長澤先輩……

もしかして、長澤先輩も……

思わず建物の陰に隠れた。

そして、そっと二人を見る。

う~ん、どう見ても告白シーンだよ。

どうする? 私……

とりあえず、見つからないように隠れた。

あんなに素敵な先輩だもん。

私だけが好きなんてあり得無いよ。

仕方ない。仕方ない。

チョコの箱を見つめ

「ちゃんと受け取ってくれるかな?」

思わず口にだしてしまった。

あ~、本当にどうしよう……

心臓が凄い音で鳴ってる。

口から飛び出すって、きっとこんな感じなんだろうな。

陸上の大会、スタート位置に立った時も

緊張するけど、今日はそれ以上だ!

「頑張れ、頑張れ!!」

「何をがんばるの?」

えっ?

「せ、先輩……!!」

突然、目の前に現れた先輩にビックリした私、凄い顔だと思う。


  5


ボクはドキドキするひかりが

ボクを持つ手が震えているを知っている。

「どうしたの?」

先輩がひかりに尋ねた。

ひかりがゴクンと唾を飲み込む。

がんばれ! ひかり!

「先輩! これ、貰って下さい。

ずっと好きでした」

やった、ひかり!! 言えた!!

ちゃんと言えたじゃん!!

ボクを持つ指が今日一番の震えで

ガタガタする。

「ありがとう。

お前から貰えるなんて思わなかった。

正直嬉しいよ。けど……」

「いいんです、チョコ貰ってくれるだけで

いいので!」

ひかりがボクをより一層

先輩の方へ差し出した。

ボクを持つ指先がもう冷たくなっている。

ひかり……

「ありがとう。

じゃあ、頂くよ」

ひかりの手からボクは先輩の手へと渡された。

「先輩、ありがとうございます。

大学行っても、頑張って下さい。

失礼します」

ひかりは涙声になりながら、そう言うと

ボクから離れていった。

ひかりの足音……

もう、聞こえない。

ひかり、一人で大丈夫かな?


先輩はボクを鞄の中に入れた。

ボクの箱が他の箱とぶつかる。

先輩は少し歩くと立ち止まった。

そして、鞄の中に手を入れて、

ボクの箱に触れた先輩は、

そのままボクを鞄から出した。

「来週には卒業かぁ~」

ひとりつぶやく先輩。

「本当にこの木には思い出が沢山だな」

えっと、この箱は……

ひかりからだったよな」


せっかく、ひかりが想いを伝えたのに

あんなにひかりはいい子なのに

この先輩のどこが良かったんだろう。

リボンをほどく音がする。

よし、もうすぐ先輩の顔が見れる

悪い奴ならうんと苦いチョコになってやるんだ。

「ひかり、可愛い後輩だった。

いつも陸上、一生懸命で大会の時も

いつも大きな声で応援してくれたもんな」

そう言ってふたを開けた先輩。

やっと見れたひかりの好きな先輩の顔は、

とても優しく、でもどこか悲しそうだった。

「お、美味そう。

あいつ、手作りしてくれたんだ」

先輩はボクを指でそっと取った。

ひかり……

君が好きになった先輩は本当に良い人だったよ。

指先の体温、ボクに語った言葉に

嘘は無いよ。

ボクもこの先輩が好きだ。

うんと、おいしい味になって

先輩にひかりの事を覚えて貰うんだ。

「このチョコ、本当にうまい」



ひかり……

ボクは君の役に立ったかな?

最後まで読んでくれてありがとう

今回初参加の樹海 星河といいます。

実は誰かの母だったりするんですよね(笑)

子供が書く小説を読ませてもらって、

実は自分も中・高と書いてたんで

DNAは受け継がれている? とびっくり!

今回は子供から編集の『螺旋 螺子』さんにお願いして20数年ぶりに書いてみました。


読んでいて、30+αの年の

おばちゃんの作品って気付いた日といた?

一応、10代に気持ちだけ戻ってみました。


こんな機会を与えて下さった『螺旋 螺子』さん、ありがとうございました。




追伸

このペンネームは

20数年前に使っていたのを

そのまま使用しました(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ