バレンタイン
『バレンタイン』
それは女の子が勇気を出して好きな男の子にチョコを渡す運命の日。
……なぜ運命の日なのかって?
それは今後の人生を大きく左右させる行為だからです。
チョコをプレゼントしたのをキッカケに、幸せになる可能性があります。
その人らを仮に成功者としましょう。
逆にチョコをプレゼントしたのをキッカケに、不幸になる可能性があります。
その人らを仮に失敗者としましょう。
今回はその失敗者の方のお話をあなたに届けましょう…………。
まだ雪がチラチラ降り、息が白い季節。
私、なつきは高校生活3度目のバレンタインの日を明日迎えます。
しかし、まだ1度もチョコを渡したことがありません。
い、一応、好きな人は1年生の頃からいるけど……。
チョコを作り、包み紙で包むところまでは普通に出来ます。
しかし、いざ渡そうとしたら、心臓がバクバクと鼓動を早くして、膝はガクガクに震えて渡せずいます。
……ハハハ……。
そして渡せなかったチョコは、捨てるのは勿体無いので、机の引き出しに閉まっています。
その結果、現在2個包み紙に包まれたプレゼントがあります。
今年も、もし渡せなければ3個目が出来るけど、今年は捨てようと思います。
今までのチョコも……。
理由は来年度からバカな私は就職。
私が好きな彼、来希君は、最近なぜか、頻繁に体育を休むけど運動は出来て、勉強も出来るので頭の良い大学に進学。
……会う機会がありません。
つまり、明日のバレンタインが人生最後のチャレンジになるので、失敗したら捨てようと思います。
翌朝。
ピピッピピッという目覚ましの音が部屋にうるさく鳴り響いた。
私はその音で強制に起こされました。と、言っても昨日自分でセットしたことなので、しかたないか……。
そして私は部屋のカーテンを開けて、いつも通りに制服に着替え始めた。
「はぁ~今日も授業がある、嫌だな」
と、いつも通りにブツブツと文句を言っていると、ふとした瞬間に壁に掛けているカレンダーが目に入った。
そこには、2月14日に赤でグルグルと丸で囲まれていた。
その瞬間、やばい、今日はバレンタイン……気合いを入れないと……。と思っていると、急に体温が上昇して顔が真っ赤になった。
どうしよう、今からとても緊張してきた。
でも今年こそは。
でも、もしかしたら嫌われるかもしれないからやめていた方が……。
そんな議論をしている間に着替え終わった。
そして、私は一階に下りて、作り置きしてある朝食を一人で食べて家を出た。
私の家は、共働きなので一人での朝食はよくあった。
登校中は、歩きながら朝の着替えの時の議論をまだ続けていた。
もちろん議論をするまでもなく答えは『渡す』。
けど、現実逃避をしたくて私は考え続けた。
そして学校に到着して、まだ議論を続けながら教室に入った。
すると、関西弁が時々でる話し方をする唖李鬼と、私の好きな人、来希君が窓際の席で話しているのが目に入った。
唖李鬼が邪魔だけど、来希君とおしゃべりしたいな。
けど、距離がありすぎて急に近付くと変に思われちゃうな。
私はそう思って、いつも通りに席に座った。
すると、何の前触れもなく突然、
「おい、なつき!」
私の名前を唖李鬼が呼んだ。
私はふいをつかれたので、背筋に真っ直ぐ指でなぞられた時の様にビクッと反応した。
「ちょっとコッチに来て」
「え?」
私は突然のお願いに驚いた。
けど、来希君に近付くチャンスだった。
だから、私は席をたって、来希君達がいるところに向かった。
そして、来希君達のところに行くと、
「あんな~今日俺用事があって来希と一緒に帰れなくなってしまったんや。だから、お前が来希の家まで送ってくれへんか? お前も知っての通りに最近、調子が悪いねん。だからもし、来希が途中で倒れたりするかもしれへんから、今日は俺の代わりに一緒に帰ってくれへんか?」
唖李鬼は、笑顔で質問してきた。
私は迷うこともなく、
「良いよ」
と答えた。
そして、唖李鬼が「ありがとうな」と言っているのを無視して、
「よろしくね」
と私は笑顔で来希の顔を見ながら言うと、
「こちらこそ、よろしく」
と来希君も笑顔で答えてくれた。
その後、私は席に着くと、やった~一緒に下校できる。
でも、何を話したら良いのだろう? スポーツの話? 勉強の話? と考えていました。
その結果、授業は上の空。
休み時間もただ席に座って、下校中に何を話すのか、いつチョコを渡すのかを考えていました。
そして、気が付くと全ての授業が終わっていた。
つまり、待ちに待った来希君と一緒に下校する時がきた。
私はクラスの半分ぐらいが、教室を出たのを見計らって、来希君の席に近づいて、
「帰ろう」
私は明るい声で、来希君に声をかけた。
「あ、あぁ、帰ろうか?」
来希君は笑顔で応えてくれた。
その笑顔はまるで太陽のように明るかった。
私はその太陽に熱せられたように、顔を赤くしてしまった。
そして私達は教室を出た。
その後、私は廊下や校門までの道のり、ずっと来希君の斜め後ろを歩いた。
そして、校門をくぐり登下校道に出ても、恥ずかしさや緊張のあまりにずっと後ろを歩いていた。
その間、私の心の中では恥ずかしさの克服、緊張をのり越えよと勇気を振り絞っていた。
するといきなり、
「な、なぁ今日の英語の授業。難しかったなぁ~」
来希君が頭をかきながら、話しかけてきてくれた。
「え!? そ、そうだね。確かに難しかった」
突然のことで、私はてきとうに答えた。
その後も、来希君が質問して、私が答えるということを繰り返していたら、いつの間にか自然と会話をしていた。
そして、来希君の家をいつの間にか通り越し、太陽が西側からオレンジ色の光を出す時間帯になった。
来希君は笑いながら、手首につけている腕時計をわ見た。
「あれ? もうこんな時間か……。そろそろ帰るか?」
来希君はそういうと、来た道を引き返した。
私も来希君に釣られて、引き返した。
すると、引き返した時に見えたのは、寂しそうに夕日に向かって歩こうとしている来希君。
それはまるで、私の手の届かない所にでも進もうとしている様に見えた。
それを見て、急にとても不安になった。
来希君がどっかに行ってしまうような不安が……。
しかし、どうしたら良いか分らなかった。
……いや、分かっていたけど、それをする勇気が私には無かった。
でも、今それをしないと絶対に後悔する。
後悔するのは嫌だ。
えぇ~い、当たって砕けろ!
「あ、あ、あの、ちょっと、待って。来希君に渡したいモノがあるから」
私はそういうと、手に持っていた鞄の中を探り始めた。
その間、来希君はただ呆然と待っていた。
そして、毎年作っては机の引き出しの中に眠っていたモノ。
そう、バレンタインのチョコ。
私はそれを取り出すと、
「受け取って下さい!」
一生に一度の勇気で声を出し、チョコを差し出した。
すると、来希君は、驚いた顔をしてから少し微笑みながら、
「ありがとう。とっても嬉しい。……けど、それは受け取れない。好きでもない子から、そういうのを貰うのは、相手にわるいと思う。だから、受け取れない。ゴメン」
と言った。
その瞬間、目頭が熱くなり、自分の意志とは関係なく、嬉しい時に流れる涙とは反対の涙が流れ始めた。
分かっていた……分かっていた。
けど、チョコだけでも貰ってほしい。
私は流れ始めた涙を拭くことをしないで、来希君の顔を見ながら、今できる満面の笑顔を作った。
そして、
「……せめぇて、チョコだけでもぉ……もらってぇ……く……れないかな?」
と泣きながら言った。
来希君は依然として微笑んだ顔のまま、私の質問に答えた。
「ゴメン」
たった一言で。
そして、来希君は満面の笑顔で、
「時間だから、先に帰るな。じゃあ、また明日。学校で」
と言って先に帰ってしまった。
私は今年も渡せなかったチョコを持ったまま、意味もなく立って見送った。
私振られた?
いや、そもそも告白はしてない。
つまり、私の恋は始まる前に終わってしまったのか。
私のバカ。私のバカ。来希君のバカ。
そして私は、力が抜けるように地面に倒れて、うつぶせのまま泣きまくった。
一方、来希は……。
僕は彼女と別れてから、
僕はなんて最低な男だ。
もっと違う言い方があったのでは?
と考えながら歩いていた。
「来希は馬鹿か? 人生で初めてのチョコを……そして最後のチョコを」
すると突然、後ろから唖李鬼に声をかけられた。
僕は足取りをとめた。
「そこにいるのは唖李鬼君か? ……どうしてそんな事を聞くん? 僕はこれが一番良い選択肢を選んだつもりだよ。もし、あのままチョコを貰ってたら、彼女をもっと悲しく、つらい思いをさせてしまう」
僕は後ろを振り向かず、そのまま唖李鬼の質問に答えた。
その答えには、ついさっきまで考えていたことに対する答えにもなった。
あの時チョコを貰わないことが正しいと。
「そうか。まぁ~どうせ、俺がこうしろ、ああやれて言っても聞かないだろう? 来希の性格上。お前は自分が決めたことは曲げなぇ~からな。それでも、『来希の命が後もう少し』ってことぐらいは言ってやれば?」
唖李鬼はヘラヘラしながら言った。
「いや、そのことを言ったら、多分彼女は、もっと早く告白すれば良かったと後悔する。男性がリードしてやらないといけないのに、それをしなかった俺が悪いのに彼女は自分を責めると思う」
「そこまでなつきのことをみる程、好きなんだな?」
唖李鬼は笑いながら言った。
「マジヒク~」
棒読みで、僕に言った。
僕はその言葉に少し頭にきて、勢いよく振り向き、
「笑うな! そして、それが死に行く人へ言う言葉か?」
「おいおい、マジで怒るなって。それに逆に聞くけど、さっきのシュチエーションを用意してやった友人に対する態度か~?」
「そ、それはとても感謝している。ありがとう」
「おう!」
唖李鬼は笑顔で返事した。
それにして、アイツの「おう!」っていろんな時に使っていたな。
あれ、どういう意味だろう?
……今から死ぬ人が、そんなことを知っても意味ないか。
それより、ヤッパリ……。
「なぁ~、最後にお願いがある。聞いてくれないか?」
「ん?なんや?」
唖李鬼は鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして聞いた。
「後で彼女のところに行ってチョコを代わりに貰ってきてくれ」
僕は真剣な顔にして頼んだ。
「了解! それだけか?」
唖李鬼は笑いながら、返事と質問をしてきた。
まるで、僕が次に何を言いたいのか分っているかのように。
「いや、今から言うことをチョコを貰うついでに、彼女に伝えてほしい」
「なんや?」
「じゃあ、言うぞ。……僕もなつきさんのことが好きでした。男である僕から、なつきさんのことをリードさせてあげれなくて、ごめんなさい。決して、自分を責めないでください。そして本音を言えば、なつきさんからのチョコはとてもほしかったです。後、なつきさんをあんな風に泣かせたくなかった、ごめんなさい。また、出会えたら、今度は僕からなつきさんに声をかけて、なつきさんに告白するから、それまで待っていてください。僕は何十年、何百年でも待ち続けるから。それでは、また会うまで……」
はぁ~疲れた。
少し長くなってしまった。
ちゃんと、アイツ伝えてくれるかな?
……大丈夫だろう。
アイツとは小学からの付き合いだ。
約束は守る男と僕は知っている。
頼んだぞ。
「……それでいいのか?」
「……」
「分かった。責任を持って伝えておこう。じゃあな、俺の一番の親友よ!」