一人の男のハーレム事情
題名<一人の男のハーレム事情>
今日は、バレンタインデー。
バレンタインデーと言えば、社会人や学生がいろいろなことを思い(想い)ながら、学校や職場にgo toする日である。
この物語は、青春を満喫するとある女子たちと、非リア充からリア充へと転換した男子の話である。
*
――時は遡り、バレンタインデー4日前――
昼休み。授業という“精神的苦痛及び睡魔の襲来”から解放され、食事を食べながらいろいろなことを話す時間。
その中に、とある2人が弁当を食べながらバレンタインデーの話をしていた。
「バレンタインデーまであと5日だね。麻梨は、本命、渡すの?」
「ええぇっ!? ほ、ほほほほ、本命っっっ!!???」
内心思っていたことをズバッと言われ、あたふたする坂江 麻梨。
その様子を見て、麻梨の親友である佐倉 実奈は必死に笑いをこらえている。
「麻梨の様子を見ていると、今好きな人がいるっていうことが一発で分かるね」
「そそそ、そんなわけないじゃん!!」
「そんな言い訳したって、この普通じゃない慌てようを見たら、誰だって分かるって」
「うう~~~~……」
好きな人がいるって、実奈に一発でばれた。 しょんぼり。
「ところで本命は、誰に渡すの?」
「ええええええぇぇっっっっ!!!!!」
実奈、展開が早すぎるって!!
「え~っ、えっと~……」
そう言いながら、とある一人の男子の方へと視線を向ける。
その男子は、真城 遼太。
彼は、いたって普通のモテそうにない男子である。
顔は、イケメンというよりも、少し中性的な顔立ちである。
気が付くと彼に恋心を抱いていたんだなぁ……。
と、麻梨が遼太の事ばかりを見つめている様子を見て、実奈はひらめいたような顔をした。
「つ・ま・り、麻梨が好きな人は、真城くんでしょ」
うわーーー、ここまでばれちゃった!! 長い間、真城くんを見すぎたっっっ!!!
「ま、真城くんの事なんて……な、何とも思ってないわよっっっっ!?」
「麻梨って、いろいろなことが得意なんだけど、隠し事だけは苦手なんだよね」
慌てふためく麻梨。その横で、実奈は冷静に麻梨を分析していた。
石田 萌衣は、麻梨と同じクラスである1年2組の女子の中でも一番大きなグループの中で昼休みを過ごしていた。
その中の一人、坂本 亜美が唐突に話を切り出してきた。
「みんな、好きな人いる?」
という話になった。
「いるよ。名前は教えられないけど」
多くが上記のような回答だった。
そのまま萌衣のところまで順番が回ってくる。
「萌衣は好きな人いる?」
萌衣は、アニメやマンガみたいに、絶対にこの学年にいたらおかしいだろというくらいのロリキャラではない
が、そこそこのロリっぽさを醸し出している。
そのため、学年ではなかなかの人気度を誇っていて、告白してくる男子もいる。
「好きな人は……」
そこまで言って俯いてしまった。
「あれれれぇぇ? 萌衣にも好きな人いるんだ。意外~~~」
「いー、い、いないよっ」
ひとまず危機は逃れた。
が、みんなの目線が疑惑の色をしていた。
相見 遥香は、友達は少ない方である。
とても優等生タイプで、勉強は得意。
そして、運動は苦手である。
メガネは付けていないが、優等生っぽさがにじみ出ている、高貴で清涼な印象を受ける女子であった。
昼休みは素早く弁当を食べ終え、本を読みながらチラリと想い人の顔を見るのだった。
*
――バレンタインデー3日前――
「どのチョコがいいかな? やっぱ手作りのほうがいいのかな?」
萌衣は、そう思いながら隣町のデパートの中の、バレンタインチョコを販売しているエリアを眺めて独り言をつぶやいていた。
「でも、家族には知られたくないし……。どうしよっ?」
と考えていると、後ろから突然、同じクラスの女子の声が聞こえた。
「萌衣って、やっぱり好きな人……いたんだぁぁぁ!!!」
「えええぇぇっっ!!! なんでここにいんの?」
「これは大スクープだっ!!! クラスの誰かに伝えよっと」
「ちょっっ、、ちょっと待ってよぉぉぉぉ!!」
みんなに知られたくないから隣町のデパートにまで行ってたのに……。
*
――バレンタインデー2日前――
麻梨は買ってきたチョコを作っている。
学校から帰ってきてすぐに作業に取り掛かった。
今は、家族は誰もいない。
今は、今は大丈夫、誰にもばれない。今は、今ならっ……。
そう思い、材料を準備してチョコレートを溶かしきったところで、ドアの鍵が開いた音がした。
「ただいまぁ~~」
ああああっ!! 弟が帰ってきてしまった。よりにもよって家族の中で一番知られたくないやつに……!
ど、どうする? どうする私っ!?
「あっ、た、卓也。おかえり。……えーっと、今日は部活は休みだったの?」
とっさに冷蔵庫に作り掛けチョコを隠したんだ、けど……大丈夫だったっけ……? 全然大丈夫じゃないじゃんっ!! よく考えたら、弟は家に帰ったらまず、牛乳を飲むために冷蔵庫を開けるんだったっっっっ!!!
「母さん牛乳買ってきてくれてるかな?」
そう言いながら、弟は、ついに、冷蔵庫を、開ける……。
「させないっ!!」
麻梨は弟の股に向かって豪快な蹴りを入れた。
「ぐぶふぉぉっ!!!」
そういいながら弟は股間に両手を押さえながらうずくまる。
「きゅ……急に……どうしたんだよっ…………?」
「いや……真城くんのために、チチョコを…………って……」
麻梨は、その場の空気につられて言ってしまい、赤面した。そして、
「何言わせてんのよっ!!!!」
「いや、俺は、ただ、お、お前の様子がおかしいから聞いただけで……」
「うるさいっ!!!」
麻梨はさらに、弟の股に全力で蹴りを3発、ぶち込んだ。
遥香はあたふたしていた。
なぜあたふたしていたかというと、お菓子作りなんて初めてで、お母さんに聞いてみても、
「自分でやってみなさい」
と、受け流されてしまったからである。
なので、家にあったお菓子作りの本を見ながらひとりで作ることにした。
かれこれ2時間はチョコレートに費やしている。もう少しで完成しそうだ。
そして、ついに……
「出来たっ!!!」
後はこのチョコを渡すだけっ!! なんか、すべてがうまくいくような気がしてきたっっ!!!
「よーし、2日間冷凍庫で保存しておきましょうっ!!!」
そして、チョコを冷凍庫に入れた。
後は後片付けだけだ。
そう思って、遥香はまず砂糖を片付けた。
つもりだったが、本当は砂糖などではなく、塩であった。
チョコレートに塩を砂糖と間違えて入れてしまったということを、遥香は全く知らなかった。
*
――バレンタインデー1日前――
放課後は推薦入試の関係で部活が無いため、部活で忙しい八賀 海斗と共に家に帰りながら
真城 遼太は雑談をしていた。
「明日、推薦の関係で学校が休みだけど、2月14日だから、バレンタインデーだよな」
「あっ! バレンタインデー明日だった!! 忘れてた」
本当は忘れるはずがない、広告チラシやCMで何度も何度も聞いているからだ。だが、どうせチョコもらえないんだったら、フリだけでも忘れようと思うんだ。つまり、忘れたフリ。
みんなも、何か都合の悪いことがあったら、忘れて現実逃避しようとするだろ? そんな感じなんだ。
「そういえば、俺も真城も、親以外にチョコもらったことないよね。悲しいことだ」
「過去の出来事を掘り返すなよ。悲しくなるだろ?」
そうなのだ。毎年毎年、チョコを貰える、貰えると思い込む。
でも、期待はするけど、結局チョコもらえないじゃん?
……。くそっ! ダメだ、現実を見すぎて少し涙が出てきそうだ。
ダメだダメだ、マイナス思考はダメだ、ポジティブシンキングだ。
「八賀、今年こそはもらえるといいな、お互い」
自分の思考を転換しようと我が友に語りかける。
「ああ、真城」
我が友はそれに応じた。
「「今年こそはやるぞぉぉ!」」
うおおおおっ!!! はやり友達はいたほうがいいな!
遠くからこの光景を眺めている人にとっては、非リアの男二人が、ありえもしない妄想を見て切なく盛り上が
っているという、とても悲しい絵図に見えたことだろう。
*
――そして迎えた、バレンタインデー当日――
「実奈の言ったことが本当なら、真城くんの家はここのはず」
麻梨は今、真城の家の前にいる。
が、あと一歩踏み出せない。チャイムを鳴らすだけなのに――――。
と思いながら、かれこれ30分は経過したところに、遠くから一人の人影が見えた。
「あれ? 坂江さん、何してるの?」
張本人がまさかの外からやってくるとは! 突然の登場に、ドキドキしてついつい手を後ろにやって、もじもじしてしまう。
ハート形に作ったチョコレートを体の後ろに隠し、緊張のためそのチョコレートを強く握りしめていた。
今日は、いつも通り、寒い日であった。いつになったら春になるのだろうか。春が待ち遠しい。
「いってきます」
家族に挨拶をして家を出た。
土日祝は、いつも朝8時から9時30分までジョギングをする。
なぜか分からないが、いつの間にか習慣になっている。
何も考えずにただジョギングにひた走ること1時間30分後。
「よし、今日の分はこれで終わりだ、今日も一日がんばるぞ」
と、家の前に誰かがいる。
あれ? 坂江さんじゃないか。何してるんだろう?
「あれ? 坂江さん、何してるの?」
といった途端、包装紙で包んだ赤い物体を後ろに隠したのが見えた。
いやいや、そんなわけがあるかいな。幻覚だ、幻覚。
「えっっっ……と、えっと……こっ、このあたりをうろうろしてたのっ!!」
とても早口に言いながら、体をもじもじさせる、坂江さん。なんかかわいいな。
男女二人っきりで対面するのって、あまりないことだから、とても緊張する。
「そう、か。じゃあ、今度学校で」
恥ずかしさに耐え切れなくなって、遼太は家に戻ろうとした。
「ちょ………………ちょっと待ってっ!!!!!!」
「何?」
「あ……あの、その……」
もじもじしながら、先ほど幻覚だと思っていた赤い物体を差し出してきた。
こ……これは……ま、まさか……。
「あ、、余りものだからねっ!! あなたのためを思ったわけじゃないんだからっ!!!」
“あなたのためを思ったわけじゃない”という割には、とても丁寧に包装されているぞ、このチョコ。
「そ……、それじゃあっ!!!!!」
そういって、お礼を言おうとする前に、坂江さんは逃げるように去って行った。
僕はしばらく足が動かなかった。というより、動けなかった。
もらったチョコを呆然と見つめる。思考回路が働かない。
心臓がばくばくいっている。坂江さんが去った後なのに、だ。
日頃はリーダーシップを発揮して、みんなに厳しい坂江さん。そんな坂江さんのかわいい一面を知って、とてもドキドキする。
そのまま数分は、動けなかった。
家に帰って遼太は、チョコレートを食べようと丁寧に包装されていたチョコを開けた。すると、
「うわあああ。これじゃ、食べれないじゃん」
チョコレートがドロドロに溶けていた。
麻梨が真城家の家の前に来たときから遼太にチョコを差し出すまで、ずっとチョコを力強く握りっぱなしだっ
た。そりゃ、溶けるはずである。
結局、遼太はそれをコップに流し、ストローを刺して、チョコレートをごくごくと飲むはめになった。
そして、遼太は思った。
チョコレートは固形が一番――――と。
*
午後3時ごろ、遼太はテレビを見ていた。
と言っても、午後3時にいいテレビなどあるはずも無いので、録画しているテレビを見ている。
すると、
――ぴんぽーん――
遼太の家のチャイムが鳴った。誰か来たのだろうか? 宅急便かな?
遼太の両親は共働きかつ、遼太は一人っ子なので、今はこの家には遼太しかいない。
そうなると、録画しているテレビを途中で止めなければならなくなる。
「今、とてもいい所なのに」
そう独り言をつぶやきながら遼太は不満そうに一時停止ボタンを押して、ソファから立ち上がり、玄関へと赴
く。
と、そこにいたのは……。
「こっ、こんにちは、真城くん……」
「こ、こんにちは……」
相見さん……? どうしたのかな? 相見さんが僕の家にわざわざ来るなんて。
「あの……チョ、チョコを渡しに来ましたよ」
「へ? チョコ? ……って、ええええぇぇぇ!!! それって、全員に配っているやつ?」
「……本命……です」
「ええええええっっ!!」
初の本命じゃないか。坂江さんのアレは本命かどうか不明だけど、これは正真正銘の本命なのか。
相見さんは、美しすぎて、かつ、あまりしゃべる方ではないので、高嶺の花のような存在と認識していた。
そんな相見さんが、僕に本命だなんて。
顔が真っ赤になってるのが自分でもわかる。
「は……はい、どうぞ……」
そんな僕などお構いなしに、相見さんは僕にチョコを渡す。
「あ、ありがとう……」
僕は、詰まった返事で相見さんのチョコを受け取った。
そのチョコは少し小さかったので、ポケットには入る大きさだった。
なので、そのままポケットの中にチョコを突っ込む。
「ええっと……それでは、お邪魔しました。っ、また明日、学校でお会いし――――」
「遥香……なにやってんの? なんでここにいるの?」
「えっ?」
僕の玄関の前でチョコらしきものを持って相見さんの名前を呼んでいる人は、石田さん?
まさか、まさかじゃあないが、これは、まさか……!!
「萌衣は真城くんにチョコ渡しに来ただけなのにっ」
本人が玄関の前にいることに気付いていないのか、とても普通にそういうことを口にする、石田さん。
…………。
って、ちょっっっっっと待てよオイっ!!! うそだろっ!!! 何名からチョコ渡されてんだよっ!
これは本当に現実なのか? 夢じゃないのか?
余りにも想定外の出来事に、見ていたテレビが“きりの悪い”ところだったということなど、完璧に忘れてしまった。
「私は、もう真城くんにチョコを渡してしまいました。私が先を越しましたわ」
「なんなのよっ!? 萌衣も今から真城くんにチョコを渡してやるからっ」
そういって、玄関の方を見る。真城 遼太の姿を発見する。見間違いかと思い、視線をそらす。そして、また玄関の方を見る。真城 遼太の姿をまた発見する。そして、
「えええええっ!!?? いたのっ? 真城くんっ!!」
「あ……ああ…………」
とても反応に困り、とりあえず応答はした。しばらくの間があった後、石田さんは恥ずかしくなって、顔を真っ赤に赤らめ、俯いた。その数十秒後、意を決したかのように顔をあげ、チョコを両手に持って、再び俯いたまま、僕に渡した。
「ありがとう……」
チョコはこれで三個になったが、三個目が一番恥ずかしかった。
石田さんの言動がとても子供らしくてかわいいのだが、それ以上に、石田さんがチョコを僕に渡している様子
を相見さんに見られているというのが、本当に恥ずかしかった。
第一、こんな変なシチュエーションはなんなんだ?
このシチュエーションな何のフラグなんだ?
チョコを貰った後、すぐに二人は別れの挨拶をして帰った。
さらにチョコレートが食べられると思って、とてもハッピーな気持ちのまま相見さんのチョコレートをパクリ。
結果は、
一口食べた瞬間、即洗面所に行って○○○○○。
ダメだ。この味は。
もともとのチョコレートの甘さに、しょっぱいさが合体してとてつもなく気持ちが悪い味が舌に絡む。
こんな味、耐えられるわけがない。
結局、○○○○○はめになったのだ。
ハッピーな気持ちだったのに、頭が痛くなってきてしまった。
相見さんは、料理が苦手なんだね。そういうのも萌え要素の一つだけど、実際にそういう目に遭遇すると、胃
腸的な意味でダメだわ、これ。
思わぬところで、相見さんの短所を知ったのであった。
次は、石田さんのチョコは、
アレ? 手作りじゃないんだ。
だがしかし、手作りじゃないが、これはとても有名なメーカーのチョコレートじゃないか。
おおよそ4000円するぞ。
多分、知られたくなかったんだろうね。家族とかに。
それで、チョコを買って渡すことにした、という感じだったのかな?
チョコレートひとつでも、(十人十色ならぬ)三人三色で、様々な一面を知ることが出来た。
これは八賀に自慢しなければならないな。と思った。
どうせ、八賀に恨まれるだけだと思うが。
寝る準備を終え、テレビをつけた。天気予報をやっていた。明日からは暖かくなるらしい。もう春も近づいて
いるという予報だった。
来週から、僕の学園生活は一変するのかな。とてもハーレムな、最高の学園生活になるのかな。
そんなことを思いながら僕は眠りについた。
*
――バレンタインデー3日後(月曜日)――
遼太は、何時も起きる時刻である6時に目が覚める。
遼太の家は二階があり、遼太の部屋は二階なので、リビングに行くために階段を下りなければならない。リビ
ングの扉は階段を下りて左側にあり、右側にある扉は和室である。
階段から少し進んだところに玄関があり、入ってすぐにも二つ部屋がある。玄関から見ての左側にはトイレ、
右側には洗面所兼お風呂場である。
二階には、遼太の部屋と、物置部屋、及び両親の部屋がある。遼太の家の構造は、そんなものである。
リビングに行くと、7時に仕事に出かけるお母さんと、6時半に仕事に出かけるお父さんがいた。
そして、リビングと同じ部屋にあるダイニングには、朝ごはんが置いてあった。なお、キッチンもリビングと
同じ部屋にある。
「いただきます」
遼太はそのまま朝ごはんが置いてある席に座り、ご飯を食べ始める。
そのまま両親と何もしゃべることなく、朝ごはんを食べ終える。
時計を見ると、6時30分になっていた。
「いってきます」
お父さんの声がした。
「「いってらっしゃい」」
遼太はお母さんと一緒に簡単な返事をする。
8時20分までに学校に行けばいいのだから、今からしばらくの間時間がある。
なので、早く学校に行く準備を済ませ、テレビを見る。
それが遼太の日常だった。
朝のニュース番組で、平日の朝にいつも見ているテレビがあるのだ。
テレビを見始めたところで、7時になっていた。
「いってきます」
今度はお母さんの声だ。
「いってらっしゃい」
遼太はてきとうに返答する。
ここから、遼太は一人の時間を満喫できる。
一人で、ゆっくりとテレビを見ながらリラックスをする時間、だった。
だが、今日は違った……。
――ぴんぽーん――
宅配便かな? でも、宅配便ってこんな朝早くに届くかな?
そう思いながら、玄関の扉を開けると、
「おはようっ、真城くんっ!!」
ひまわりのような笑顔で出迎えてきたのは、石田さんだった。
「え? お、おはよう……」
「今日、一緒に学校に行こうっ!!」
屈託のない笑顔が僕を包み込む。
「え? えええええっ!!! ちょっと待てっ!!」
「ダメなの?」
「い、いいや。ダメっていうわけじゃないんだけど……。な、なら、いったん部屋に入る?」
「やったーっ!!」
よかった。ひとまず危機は回避できた。
そう思いながら、石田さんをリビングへ案内する。
「ここで待っててくれ」
「うん。いいよ」
さて、今7時30分だし、もうそろそろ玄関にかばんを置こうかな、とか思っていたその時、
――ぴんぽーん――
あれ? 今度こそ宅急便? 今度はなんですか?
そう思いながら、玄関の扉を開けると、
「おはようございます、真城くん」
清楚な笑顔で出迎えてくれた、相見さん。突然の訪問に、とても戸惑う。
「え? お、おはよう……」
「一緒に学校へ行きましょう!」
「え? ええええぇぇっ!?? ちょっと待てっ!!」
「ダメ、ですか?」
「い、いいや。ダメっていうわけじゃないんだけど……。な、なら、いったん部屋に入る?」
「いいんですか?!」
よかった。ひとまず危機は回避できた。
なんか、ほとんど同じやり取りをさっきやったような気がするが、気のせいだろう。
そう思いながら、相見さんをリビングへ案内……、って駄目じゃねぇか! リビングには石田さんがいる!
なら、隣の和室に案内しよう。
「ここで待っててくれ」
「いいですよ」
はぁー、疲れた。早く玄関にかばん置いて3秒で学校行ける体勢を整えなければ、とか思っていたその時、
――ぴんぽーん――
今度こそ予想がつくぞ。今度こそ。まさか、まさかだけど……。
そう思いながら、玄関の扉を開けると、
「おっ……、おはようっ、、真城くんっっっ!」
「え? お、おはよう……」
とても緊張した様子で、悪く言えばぎこちなく挨拶をする坂江さん。この突然の訪問を、予測していた。だけ
ど、戸惑う。だって、家の中にはもう……。
「……。い、い、い、一緒に学校に行かないっ!!!!!」
ちょっと、声大きいよっ!! 家の中の女子に聞こえちゃうじゃないか。
「え? えええぇぇええっ!? ちょっと待てっ!!!」
「(やっぱだめなんだ……)べ、べつに、期待してたわけじゃないし、さ、さようならっ!」
逃げるように去って行こうとしたところで、罪悪感を感じ、坂江さんを止める。
「い、いいや。ダメっていうわけじゃないんだけど……。な、なら、いったん部屋に入る?」
「ええっ!? ま、入ってやらないことはないけど、いや、入りたいっていうわけじゃないんだけど、やっぱり……(ごにょごにょ)」
よかった。ひとまず危機は回避でき……てない!!
むしろ、危険を増やしている気がする。
なんか、ほとんど同じやり取りをさっきもやったような気がするっていうか、やったし!
そう思いながら、坂江さんをリビングへ案内……は、出来ない。から、和室に案内……も、出来ない。
くそぉ、もう場所が無いぞ! いや、僕の部屋は空いてるんだけど、女の子入れたことないしなぁ。
もういいや、部屋に入れないと、面倒になるからっ!
「僕の、部屋なんだけど……。ちょっと、待っててくれ」
「えっ、真城くんの部屋っ!? いい、けど?」
これで、すべての危機は回避できた。いや、回避できてないぞ!
よく考えたら、一緒に学校に行くという約束をしてしまったから、三人は必然的に遭遇してしまう……。
ヤヴェエよなぁ、この状況!
と、そこまで思考が回ったとき、リビングと和室と自分の部屋の扉がほぼ同時に開き、三人はほぼ同時に同じ
言葉を発した。
「「「真城くん、まだ(ですか)?」」」
そこで、三人は初めて目を合わせる。
石田さんと相見さんは鉢合わせしたことがあるけど、坂江さんとは鉢合わせしていない。
よって、今回が初めての御目合わせになるのだ。
「なんでみんな、ここにいるのっ?」
「あんたたちも、なんでここにいるの!?」
「真城くんは、私の物ですよ!」
ばったり会ってしまったら、もうおしまいだ。
「萌衣は、真城くんと一緒に学校に行くつもりなのっ!」
「私もですよ」
「ええっ、みんなそうだったの?」
三人で勝手に話が合点した後、僕の方を睨みつけてきた。
「浮気?」
「私は、嫌なんですか?」
「私以外の子と、なんでいるのよ!!」
三人から総攻撃を食らった僕は、慌てるしかなかった。
「あ……えっと、そういう……わけじゃ――――」
「なら、私と一緒に行きましょう」
相見さんが、僕の左腕を掴む。
「萌衣といこうよー!」
石田さんが、僕の右手を掴む。
「他の女についてきたらダメっっっ!!」
坂江さんが、僕の左手を掴む。
もう、わけが分からなくなってきた。
僕は頭が混乱し、三人にされるがままになっていた。
そのままいろいろなことが起こり、気が付いたら学校の通学路を歩いていた。
未だに誰が僕と一緒に学校に行くか競っているらしい。
なのだが、もうすぐ学校に着いちゃうぞ、大丈夫か?
もう、四人で仲良く学校に行くという奴でいいんじゃないか? 平和だし。
そして、三人で分ければいいじゃないか。僕を。
それが無理だからこんなことになっているんだけどね。
現在状況では、相見さんがいったん離れ、坂江さんと石田さんが主に取り合っている。
「なんであんたなんかが真城くんの近くにいるのよ!!」
「いいじゃん! 誰が何を言おうと関係ないじゃん!!」
そのうち、論争は激化していった。激化していくと同時に、二人の歩きのペースが速くなる。
あれ~、二人とも~、僕を置き去りにしてますよ~。
「真城く~ん?」
その時を待っていたかのように相見さんが突然甘えだした。
相見さんは、いつもはこんなキャラじゃなかったはず。
こ……これは、もしや……ギャップ萌えってやつか!!
自分でも、胸が高鳴ってくるのを感じる。
と、前で論争を繰り広げていた二人が、しまった、といった様子で回れ右をし、相見さんの方をにらんだ。
「「独り占めずるいっ!!」」
「お二人さん、もう真城くんの事は飽きたのかと思いました」
うおー、こいつ、うぜぇ!! 絶対敵に回したくねぇ!!
相見さんを見て、そう思った遼太であった。
「もう無理だ。ただ学校に行くだけでこんなに疲れるとは……! こんなのが、毎日続くのか……」
一人になったところで、誰に言うわけでもなく語る遼太。
ため息を一つつく。そうして、日の当っている廊下の窓から顔を出して、景色を眺める。
今日は、いつも以上に暖かい日差しが照っている。なおかつ、雲一つない。
まるで今が春のような、こんな素晴らしい天気というのも、あまりないことだろう。
「ああ~、こんな日々、もう嫌だ~~~!!!」
そう言う遼太の顔は、希望に満ちた顔だった。
今の日々に充実感を感じているかのように。
「これからが勝負ですね? 誰が真城くんを奪取するか?」
とある休み時間、遼太のいないところで三人が集まり、遥香がこれからの方向性を示した。
「望むところよ。愛の宣戦布告、受けて立つよっ」
「でっ、でも、私は……、真城くんのことなんて、別に何とも思ってないし……」
「それならば、私が真城くんを奪いますが?」
「やったっ!!敵が減ったら楽だ」
「えええっ、ああーっ、もおう、わ、私も参戦するわよっっっっっっ!!!!!!!」
さて、これから真城 遼太を待ち受けているのは、ハーレムか、修羅場か……。
―――了―――
また登場! パンクゐです。
前に、『螺旋螺子』が「後書きはたくさん書くな」的な発言をしてました。心当たりのある奴、挙手を願おう。
……。はい、僕です。
ある意味、後書きは本編書くよりも好きなので、少し悲しい思いをしたパンクゐでした。
今回の作品は、前回の作品を見た人にとっては「これ、別人じゃね?」というくらいに作品のテンションがガ
ラッと変わりました。見直しとしてもう一度見てみると、物凄いことになっていることに気付く。追い打ちとし
て、妹の酷評も物凄かった。
今回の作品を一言でいうと、「ああ、チョコ欲しいなぁ」と思わせる作品です。チョコ欲しいと言えば、パン
クゐは、本命じゃないけど一度異性からチョコを貰ったことあるんですよ!! いいでしょー!! でも、その
後転校してしまい、その子とは会えなくなってしまいました。いい感じだったのに。
以上、作品紹介&パンクゐの自慢話でした。
みんな謝辞しないんだね。前回、一人で恥ずかしい思いをしました。
だけど、パンクゐは感謝の気持ちをとても大切にする人間なんだ。(←???)なので、今回も謝辞を記しま
す。
謝辞:螺旋 螺子ありがとー。 終わり
↑感謝する気全く無ぇだろ、とツッコまないでください。パンクゐの面子が廃れます。
ああ、もうこんなに書いたんだ。約650文字。いくらなんでもこれくらいにしないと、今度は『螺旋螺子』か
ら「後書きはたくさん書くな」と“名指し”or”個別”でメール来そうなので、これでおしまいにします。
―――――了―――――