表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/19

Part8 地獄特訓! 沸き起こる疑問


休校の知らせを聞き、回れ右して帰宅した。

帰宅途中まで神谷がいたからあまり魔族の話はしていないが、やはり零は魔族の仕業だと踏んでいるらしい。


「私は少し学校で調査してみる。冥夜君は訓練して、少しでも魔力を使えるようになっておいて」


『一人で行くのか?』


「うん。まだ魔力が使えない冥夜君が行くと、割と本気で危ないからね。調査するだけ。魔族と戦闘なんてしないから、安心して」


そう言って、零はすぐに学校へ向かった。

ご丁寧に、家の周りに結界を張って。

霧玄さんによると、この結界は魔力を纏っていれば抜けられるらしい。

つまり、霧玄さんと空さんは出入り可能だが、俺は出入り不可。

ついていこうとしても、無駄みたいだ。


というわけで、道場なう。

霧玄さんと向き合い、訓練の準備。


「先程言っていたこと…………あれは本当かね?」


霧玄さんが尋ねてきて、それに頷く。


「本気で相手をしてほしいなどと……………………下手をすれば、いや、ほぼ確実に死ぬぞ」


『死にませんよ』


「ほう?」


『死んでなんかいられない。もう、1分1秒だって無駄にできない。だから、お願いします』


紙を見せると、霧玄さんは頭に手を当て、溜息をついた。


「後悔しても知らんぞ」


『何もしないで後悔するよりマシです』


「よろしい。では、始めよう。ここからは……………………地獄の特訓だ」


霧玄さんが目を閉じて何やら唱えると、霧玄さんの隣に2mはあるであろう天狗が現れる。


「魔族序列第六位、『大烏天狗』。様々な種族のある魔族の中で、6番目に強い種族であり、私の使役できる最強の魔族だ」


大烏天狗………………

鼻の長い黒い面をつけ、右手に葉でできた扇を手にしている。


魔族で、6番目に強い………………


「本気のこやつと戦うとなると、死亡確率は前回より跳ね上がる。ほぼ100%と言っても良いだろう。それでも、やるか?」


力強く頷く。

霧玄さんは安心したような、また、決心したような表情で頷いた。


「では、君の攻撃が、大烏天狗にマトモに入ったら、特訓は終了だ。その時点で、君は下級魔族や、中級魔族の下位種族には勝てるようになっているだろうからな」


コクリ。

頷くと、霧玄さんは道場の隅に移動し、右手を上げる。


「では………………始め!」


霧玄さんの手が振り下ろされると同時、大烏天狗が肉薄する。


速ぇ…………!


大烏天狗の手刀を辛うじて避けるが、大烏天狗の移動時に吹いた風によって、体勢を崩してしまう。

そこにすかさず、右足での蹴りが放たれた。


避けられない。


咄嗟に体を動かす。

避けるために、ではなく、蹴りを弾き返すために。


右手に魔力を纏わせ、大烏天狗の足を弾く。

若干体勢を崩した大烏天狗に一撃入れるべく、間髪入れずに左足で蹴りを放つが、大烏天狗は右手の扇で風を起こし、こちらの体勢を崩すとともに、距離を取った。


強い………………流石は、魔族第6位…………


かなり距離は離れているが、あのスピードだ。

気を抜けば一気に詰めて来るだろう。

神経を張り巡らす。

気を抜くな、集中しろ…………!


ブワァ…………


突然、足元から風が吹いた。


下…………………?


一瞬。

たった一瞬、視線を足元に向ける。

向けてしまった。

視線を、逸らしてしまった。


風を切る音。


気付いたときには、大烏天狗は目の前に迫っていた。




ドスッ…………




大烏天狗の拳が、俺の腹にめり込む。

骨が折れたような音がした。


「……………………!」


血を吐いた。

肺の中の空気が押し出され、軽い酸欠状態に陥る。


足元が覚束ない。

視界が霞む。


けど……………………











まだ生きてる。


両足に魔力を叩き込む。

皮膚が裂け、血が飛び散った。

が、魔力の補助を受けることで、足の震えが止まった。


未だ至近距離にいる大烏天狗に、拳を振り下ろす。

ギリギリのところで、避けられた。


扇が振るわれ、風が起きる。

地面と垂直に、吹き上げられる。


マズイ、空中じゃ、避けようがない!


跳躍する大烏天狗。

膝を折り、蹴りの体勢を取っている。


右手の先に魔力を溜める。

大烏天狗の蹴りが当たる寸前、溜めた魔力を一気に爆散させ、その勢いで蹴りをかわす。


その勢いのまま、空中で一回転。

左足で蹴りを入れようとするが、扇に阻まれ、不発に終わる。

左足を受け止めた扇を蹴り、距離を取る。


強い、けど………………

このままいけば………………


「油断するのは関心せんな」


え?

霧玄さんの言葉の直後、腹部に鋭い痛み。

服が、みるみるうちに赤く染まっていく。


腹部には、硬化した葉が刺さっていた。


前を向くと、扇をこちらに向けた大烏天狗。

扇の一部が、少しだけ無くなっていた。


撃てんのかよ、それ………………


くそ、まだまだだ…………

死ぬわけにはいかない。けど、今やめるわけにもいかない!


どうすれば魔力を自由に使える?

考えろ、イメージしろ…………


……………………イメージ?



そうか。

わかったぜ、魔力の使い方!


イメージする。

奴に勝つ未来を。

やるべきことは一つだ!


俺の身体から発生する魔力。

その魔力は、鞭のように細く、長く、また強靭になっていく。

そして………………


大烏天狗を、拘束した。


コイツで、終わりだ!


今まで通り、右手に魔力を集中。

思い切り、叩き付ける!


『ヌゥゥゥゥゥゥゥ!』


大烏天狗の腹部に拳は直撃し、確かに大烏天狗にダメージを与えた。


「………………まさか、本当にやってのけるとはな」


満身創痍な俺に、霧玄さんはそう言った。

肋骨は折れ、腹部には葉が刺さった傷が残っている。


気が抜け、足に溜めていた魔力が消えていく。

支えを失い、その場に倒れ込む。


「ふむ。とりあえずは合格、といったところか。どれ、治してやろう」


治せるのか?


「治す、というのは正確ではないな。人体組織に魔力を注入することで、自然回復力を底上げ、治癒させる」


何でもありか、魔力。

治るなら文句はないけど………………


霧玄が手に魔力を溜め、そこから徐々に傷口へ流れ込んでいく。

ゆっくりと、傷が塞がった。


「零を追うか?」


頷いて、立ち上がる。


「ならば、もう私は何も言わん。行ってこい」


止められるかと思ったが、すんなりとOKが出た。

霧玄さんに感謝の意を込めて頭を下げ、道場を出て玄関に向かった。






◆◇◆◇◆◇






「どういうことだ………………」


冥夜が出ていった道場に一人残された霧玄。

その呟きは、自然と出ていた。


冥夜の成長は確かに早い。

過去に前例がないスピードだ。

一週間やそこらで、魔族序列第7位以上…………『上級魔族』に一撃を加える?

そんな人間は、今まで見たことも聞いたこともない。


ただ、それより気になるのは…………


「やはり、少なすぎる…………」


あやつの身体に宿った魔力。

その全体量が少なすぎる。


通常、魔力というのは誰もが体内に持っているもの。それが、訓練や魔族との接触により、呼び覚まされる。

そうして、魔力は使えるようになる。


個人差はあるとはいえ、魔力の全体量は誰でも同じようなものだ。


しかし、あやつは何だ。


多く見積もっても、『常人の10分の1以下』だ。


あやつには、何かある。

本人ですら覚えていないところ、もしくは知らないところに。


「まだ、推測するには材料が少なすぎる。もう少し、材料を集めよう。それまでは、下手に動いたらマズイ」


霧玄の呟きは、誰にも聞かれずに消えていった……………………


さあ、どんどん冥夜の設定の伏線が増えていく。

回収しきれるかな…………

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ