Part6 特訓、開始!
「お腹減った〜」
零が机に突っ伏しながら、足をバタバタとさせる。
結局あの後、昼飯抜きで午後の授業開始。
鳴りそうになる腹を押さえ込み、ようやく授業が終わった。
「う〜………………」
子供のように足をバタバタとさせる零の肩を軽く叩き、メモ帳を見せる。
『帰りにどっか寄ってくか? 流石に俺もこの状態で特訓は無理そうだし』
「うん! 喫茶店…………だと長居しちゃいそうだし、コンビニで何か買っていこうか」
『了解(`▽´ゞ』
いちいち笑うな。
今度、顔文字書いてないやつ用意しとこう………………
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ん〜、幸せ〜」
満面の笑みで、肉まんにかぶりつく零。
おいおい、それ、確か3個目じゃなかったか?
そう思いつつ、自分の分の肉まんにかぶりつく。
うん、美味い。
「荷物、重くない?」
零の問い掛けに、肯定の意を込めて頷く。
帰宅前、零があまりにもフラフラして危なっかしかったから、零の荷物は俺が持っているのだ。
教室で「俺が持つ」的なやりとりをしている時、周りの女子がやけにキャーキャー言ってたが、気にしたら負けだ。
「ゴメンね、荷物、持ってもらっちゃって」
『気にするな』
「いや、でもそろそろ自分で持つよ! もう大丈夫だし」
って言っても、もう5分もしないうちに家着くし………………
しかし、残念ながら今は字を書ける状態じゃないため、『便利メモ』(命名:零)にあらかじめ書いておいた応対しかできない。
仕方なく零の荷物を渡し、再び帰路につく。
俺からは話し掛けられないし、零が話しかけてこないから、若干気まずい空気が流れはじめる。
何か言う(書く)べきかと悩んでいる間に、家にたどり着いた。
「ただいま〜」
玄関を開きながら、零が言う。
この広さの家で、それははたして意味があるのだろうか。
奥の方にいたら、確実に聞こえないだろう。
「ん…………冥夜君、お父さんが呼んでる。ついて来て」
?
今、何か聞こえたか?
少なくとも、俺には何も聞こえなかったが………………
不思議そうな顔をしていると、俺の顔をみて、零が笑った。
「今のね、魔力を使っての『念話』なんだ。多分、ある程度魔力が使えるようになったら、真っ先に教えられると思うよ。『念話』が使えれば、普通に会話できるし」
便利そうだな、それ。
『念話』か………………
「まあ、とりあえずその話は後。早く行かないと」
『了解』
零の後に続き、広い家を歩いていく。
居間より奥に来るのは初めてだが、見れば見るほど時代劇っぽいな。
5分ほど歩いて(やはりかかる時間がおかしい)、道場のような建物が見えてきた。
敷地内に道場とか………………
「しばらくは、あそこか庭で訓練することになると思うよ。簡単な訓練なら部屋でもできるし、そのやり方は後で教えるね」
頷くと、零が道場の扉を開く。
中央に、霧玄さんが立っていた。
「よく来たね。では、早速だが始めよう」
その言葉を聞いて、零は道場の端に移動する。
移動する直前、耳元で零が呟いた。
「お父さん、かなりスパルタだから…………死なないでね」
……………………ナンデスト?
今、かなり物騒な単語が聞こえたような…………
「まずは、魔力の放出を自在にできるようにしよう。『小鬼』!」
霧玄さんが呼ぶと、道場の床から赤と青の小さな鬼が出現する。
だいたい、俺の膝くらいの大きさか?
「こやつらは、私の『使い魔』とでもいうか…………『式神』の方が正しいか。こやつらに、今から君を攻撃させる。こやつらは物理攻撃には強いが、魔力にかなり弱い。体を魔力で包むことができれば、こやつらからの攻撃は一切通らないだろう。だが、逆に……………………」
霧玄さんが目を細める。
足元の小鬼が、急速に接近してきた。
「出来なければ、死ぬぞ」
嘘だろ!?
くっ………………
赤小鬼は小槌、青小鬼は小太刀を片手に突進してくる。
初撃は体を翻し、なんとか回避。
けど……………………!
「………………!」
赤小鬼の小槌が腹部に直撃する。
こんな時でも、声は出ない。
肺にたまっていた空気だけが、静かに吐き出された。
洒落になんねぇぞ、コイツは………………
腹部にはしる激痛に堪え、なんとか右手に魔力を纏わせる。
ここまでは今までで出来ていた。
けど、まともに集中も出来ないこの状況で全身にとか、無理ゲーだろ!
赤小鬼の小槌をかわし、青小鬼を右手の魔力で弾き飛ばす。
『フヌウ!』
青小鬼が振りかぶった小太刀を横目に捉え、逆方向から突進してきた赤小鬼の小槌を左手で掴み、赤小鬼ごと床に叩きつける。
すぐさま後退し、右手の魔力で青小鬼を吹き飛ばす。
「体術は中々だな。が、課題である魔力の方はまだ、か」
「流石にしょうがないでしょ。ていうか、当初の予定では今日この訓練はまだやらない予定だったんだから、早い方だよ」
「『早すぎるのが問題なんだ』」
「え………………?」
?
なんか、道場の端っこで霧玄さんと零が話してるな。
『フンヌ!』
うおっ………………と。
青小鬼の小太刀が腹部を掠めていった。
危なっ…………
ゴス。
鈍い音とともに、背中に激痛。
赤小鬼の小槌が、背中に直撃していた。
「……………………っ!」
く…………そ………………
流石に魔族と戦うための式神か。
限界……だな。
全身から力が抜け、その場に倒れ込んだ。
同時に、意識を手放す。
視界が真っ暗になった。
「冥夜君!」
冥夜が倒れたと同時に、零が冥夜に駆け寄る。
霧玄は小鬼を還し、零の後ろから冥夜を見据える。
「大したものだ…………」
「え?」
霧玄の呟きに、零が弾かれたように振り向く。
「背中、よく見てみるんだ」
言われた通りに、零は冥夜の背中をよく見てみる。
そして、ある事に気付いた。
「お父さん、これって………………」
「うむ。まさか、土壇場でやってのけるとはな」
冥夜の背中は、かなり薄くではあるが、確かに魔力を纏っていた。
小槌が直撃する寸前に、無意識にやっていたのだろうか。
「この魔力が無ければ、小槌が当たった部分が吹き飛んで、死んでいただろう」
手加減しなさすぎでしょ。
ホントに死んでしまったらどうするのだろうか。
「しかし、成長が早すぎるのも、少々問題だな。………………私の杞憂であれば良いが……」
「問題?」
「いや、まだもう少し様子を見よう」
霧玄は呟いて、道場を後にした。
道場に残された、零と意識のない冥夜。
「冥夜君、私が運ぶの……………………?」
静かになった道場の中に、溜息混じりの言葉が響いた。
特訓開始です。
日常編に時々挟む感じでやっていく予定です。
一番書きたいシーンはまだまだ先…………多分20とか30話とかなると思うんで、頑張って執筆しなければ…………