Part5 日常①
しばらくは日常編!
冥夜と零の『リア充爆発しろ!』的な学園ライフをご覧ください。
「冥夜君〜、起きてる〜?」
午前7時。
襖の向こうから零の声が聞こえてきた。
返事出来ないっての。
仕方なく立ち上がり、昨日あらかじめ用意しておいたルーズリーフを手に取る。
襖を少しだけ開け、手を出してルーズリーフを見せる。
『着替え中』
「ああ、ゴメンね。ご飯の準備できてるらしいから、用意できたら来てね。居間の場所、覚えてる?」
『問題無い』
普段の受け答えに使えそうな言葉を纏めておいたメモ帳を、早速活用。
やっぱり、あると便利だな。
「じゃ、先に行ってるね」
『了解(`▽´ゞ』
遊びで顔文字とか入れてみた。
零が襖の向こうで、笑いをこらえているのが聞こえてくる。
「なるべく早くね。………………プフッ」
零の、笑いをこらえる声が遠ざかっていった。
さて、さっさと着替えるか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、来たね。じゃあ食べよっか」
『了解(`▽´ゞ』
こら、顔を背けるな。
肩がヒクヒク動いてるぞ?
「じゃ、いただきます」
零が手を合わせ、頭を下げる。
それに合わせて、俺も頭を下げた。
「行ってきます」
朝食を食べ終わり、零とともに家を出る。
この場面を誰かに見られたら、恐らくは今日中に俺は死んでいただろうが、虚野家の周りには家がほとんど無い。
見られることはほぼ無いと思って良いだろう。
家から出るところさえ見られなければ、いくらでも言い訳はできる。
「それにしても、なんか変な感じだな。私、一人っ子だし、朝誰かと一緒に家を出るなんて」
『そんなもんかねぇ…………』
このメモ帳、色々なパターンの台詞を考えすぎたせいでかなり分厚くなってる。
目的の台詞を探すのに時間がかかってるんだが、意味あるのかな?
ルーズリーフを無駄遣いしないことぐらいしか、メリットが無い気がする。
「そんなもんなの。もう…………」
???
なんかちょっと怒ってないか?
「怒ってませんー」
いや、怒ってるだろ…………
◆◇◆◇◆◇◆◇
学校に到着。
一緒に登校してきたからか、周りの男子の視線が痛い。
いまどきの男子高校生は、こんなに殺気立ってるもんなのか?
「戦闘訓練は、学校でいっぱいできそうだね」
『勘弁してくれ』
だいたい、殺気立った高校生との戦闘(?)なんかが、対魔族に役に立つのか?
痛い視線をなるべく気にしないようにしつつ、教室に向かって廊下を歩く。
ガラガラ…………
教室の扉を開き、教室に入ると、視線は一層強くなった。
「おい…………一緒に登校してきやがったぞ」
「暗月の野郎………………」
………………
挨拶もなしに、いきなりそれか。
流石にキツイぞ、精神的に。
「おはよう!」
「「「「「「おはようございます、虚野さん!」」」」」」
そんな中でも、零は笑顔で挨拶。
男子どもの反応が、相変わらず怖いレベルで統一されている。
お前らは軍隊か。
席につくが、やはり視線は強いまま。
恨みで人を殺すことが出来るのなら、俺は恐らくもう死んでいることだろう。
「アンタも大変だねぇ、暗月」
俺の左前の席に座る、金髪ショートの女子生徒が話し掛けてくる。
−−−−神谷 遥。
中一の頃から同じクラスの奴だ。
日本人だが、なんと金髪は地毛。
一度両親にあったこともあるが、どちらも見事な黒髪だったはずだが、突然変異にもほどがあるだろう。
『全くだ。これだからうちの男子は………………』
「ま、アンタにも原因はあるでしょ。だいたい、転校初日の女子と喫茶店行くとか、普通じゃないでしょ」
それは激しく同意する。
しかし、それだけでここまでいくか? 普通。
「アンタ、本当にそれだけだと思ってんの?」
ハァ…………と、溜息をついて頭に手をやる神谷。
? 何のことだ?
なんだなんだ、ただ一緒に喫茶店行ったり、一緒に登校してたり、(秘密だけど)一緒に住んでたりするだけじゃないか。
……………………あれ?
「おら、HR始めるぞ〜、席着け〜」
担任教師が怠そうな声を出しながら、教室に入ってきた。
途端に、立って喋っていた生徒達が席に着き始める。しかし、視線は相変わらず殺気に満ちていた気がする。
俺が嫌いな時間、それは授業全般だ。
面倒だ、とかではない。
教師の話など、聞かなくてもわかってしまう。
自分の知っている内容を、延々と説明され続けるなんて、それはもう苦でしかない。
「では、次の問題だ。これは少々難しいな。じゃあ、暗月。前に出て解いてみろ」
ほら来た。
他の生徒がわからないという顔をしていると、決まって俺を指名する。
ったく………………
黒板の前に立ち、答えをスラスラと書いていく。
つまらない。実につまらない。
「よし、正解だ。流石だな、暗月」
褒められたって、嬉しくもなんともない。
こんなことしてる暇があるなら、魔力の訓練、早く始めたいんだが…………
「では、次の問題は…………ふむ。虚野、答えてみろ」
「ふ、ふぇ!?」
…………………………寝てたな、コイツ。
若干よだれ垂れてるぞ。
いや、さっきからやけに頷いてるなあ、てか思ってたが。
なんだ、寝不足?
いやいや、あいつもあの後すぐ寝たはずだし、それは無いだろう。
「え、えーと………………」
汗がダラダラと流れているのが、横目に見てわかった。
わからないのか。授業聞いてなかったから。
仕方ない。
トントン。
隣にギリギリ聞こえる程度に、机を叩く。
零がこちらを見た。
俺はノートの端っこを指差す。
『x=−3』
それを見て、明らかに目を輝かせる零。
そこまで嬉しいか………………?
「x=−3です」
「……………………正解だ。ただ、授業はきちんと聞くように」
「はい…………」
俯きがちに零が席に着くと、授業の終了を告げるチャイムが鳴った。
これで、とりあえず午前中は終わりか。
「さっきはありがとね」
教師が出ていった後、零が言ってきた。
別に礼を言われるようなことじゃないと思うんだがな。
「私、昔から仕事の方の勉強ばっかりやってたからさ。普通の勉強はからっきしで」
えへへ、と頭を掻く。
仕事の方の勉強、か。
いや、待て。待て待て待て。
『そんなんで、編入試験パスできたのか?』
「あまり大きな声じゃ言えないけど、一応極秘任務受けてきてるから。裏口」
今、とてつもないことが聞こえた気がしたが、気のせいかな。
裏口? というと、裏口入学? いや、編入か。
「この学校の中に、『いる』らしいんだ。だから、潜入捜査ってところかな」
『それ、言って良いのか? 極秘任務じゃなかったのか?』
「あ……………………」
気まずい沈黙。
この様子を見ると、言っちゃダメだったみたいだな。
潜入捜査にコイツを選んだ奴は、コイツで大丈夫だと思ったんだろうか?
『とりあえず昼飯だな。昼休み終わっちまう』
「そ、そうだね。学食?」
まあ、だろうな。
弁当の準備なんてしてねぇし。
頷いて、学食へ向かう。
零はまだ場所を覚えてないみたいだから、俺が先導して。
「ランチ、AとBの2種類? どっちにする?」
『A』
「じゃ、私もAにしよっと。空いた席、あるかな?」
食券を買って、カウンターのおばちゃんに渡し、Aランチをもらう。
唐揚げ定食的なメニューだな。
零が首を巡らせて、空いている席を探す。
少し遅くなったからな。結構混んでる。
「空いた席、ないね…………」
そうだな………………いや、あった。
学食の一番端っこの、2人掛けの席。
………………また何か面倒なことになるかもしれんが、昼飯を抜くよりは良いだろう。
零の肩を叩き、見つけた席を指差す。
零も気付いたようで、安心したような表情を見せた。
2人で席に着き、食事を始める。
周りからの視線は相変わらずだが、なんというか………………慣れた。
気にしなければ良いことだ。
「今日ってさ、帰ったらすぐに特訓?」
零の問い掛けに、頷く。
正直なところ、今すぐ帰って特訓を始めたい。
「早くしたくてウズウズしてるって感じだね」
クスクスと笑う零。
コイツってよく笑うよな………………
「冥夜君はもうちょっと愛想良くした方が良いと思うけど…………」
自覚してるから。
つーか、今更どう愛想良くしろと。
今のクラス、もう一年経ってるから、完全に俺の印象は『喋れない暗い奴』だぞ。
そんな奴がいきなり愛想良くなったら、気味悪くて誰も近寄らないっての。
「そんなことないでしょ。別に冥夜君に非があるわけじゃないんだから、皆分かってくれると思うよ?」
『だと良いけどな』
………………会話成立してるけど、俺がコイツに見せたの、最後の1枚だけなんだが。
相変わらずコイツと話すのは楽で良いな。
どこかから、「なんで会話成立してるの…………?」という呟きが聞こえてきた。
こら、盗み聞きはいかんぞ。
キーンコーンカーンコーン…………
あ……………………
鳴り響くチャイム。
手をつけられていないランチ。
席を立つ生徒達。
飯、食べ損ねた……………………
キャラ紹介的なのを、書くべきか悩んでいるのですが、需要ありますかね?
正直な話、自分は小説内でキャラの外見の描写をするのがとてつもなく苦手でして。
話とは別に、それ専用のページでも作ろうとか考えているのですが…………
ネタバレ回避をしようとすると、書けることが少ないんですよね。
キャラの設定に色々仕込み過ぎなだけですが。
まあ、キャラの紹介が見たいという人がいれば、1話の前辺りにでも投稿しようと思います。
では、今回はこの辺で。
また次回ノシ