Part19 同居
「魔族が、人間界に総攻撃…………?」
「(目的は?)」
「さっきの話を聞いていれば、だいたいの予想はつくだろう? アンタだよ。正確には、アンタの中にいる『ディアブロ』だよ」
俺の中にいる、悪魔『ディアブロ』…………
「悪魔は、魔族序列の第二位。第一位の『魔王』を除けば魔界最強さ。その悪魔が、どんな地位に就くかは想像できるだろ?」
「(ってことは、ディアブロは魔界にとってかなり重要な存在ってことか?)」
「その通り。前から行方不明だったディアブロが、人間界で発見された。だから魔界は、ディアブロを奪還しようとしてるってわけさ」
俺の中のディアブロを奪還する為の総攻撃…………
ということは。
「(俺のせいで、全世界が危険に曝されるのか?)」
「アンタのせいじゃない。って、言ってやりたいんだけど、今回ばかりはね…………」
しばしの沈黙。
重い空気が、その場を支配する。
「(…………神谷)」
「なんだい?」
「(魔界からの侵攻は、早ければ三ヶ月後と言ったな? これは逆に言えば、『早くても三ヶ月後』、と捉えていいのか?)」
「!!」
神谷の表情に、驚きが混じる。
しかし、すぐに表情は元に戻り、微笑。
「アンタならそう言うと思ったよ。そう。『早くても三ヶ月』だ。つまり…………」
「侵攻までに、こっちの迎撃体勢を整える…………?」
零の呟きに、神谷が正解、と答える。
「零ちゃんには、家を通じて、このことを全世界に発信して欲しいんだ。もちろん、一般人には漏れないようにして」
「わかった」
「で、冥夜。アンタは…………」
「(特訓だな。今までよりハードにする必要もありそうだ。三ヶ月しかないならな)」
「その通り。基本的な魔力のコントロールは出来てるみたいだから、そこからさらに応用した魔力の使い方を伝授する。魔力の扱いのエキスパート、この私がね」
ニヤリと笑う神谷。
それは、知り合ってからよく見ていた、意地の悪い笑みだった。
「それには賛成だね。第四位とはいえ、魔女は魔族の中で魔力の扱いのトップ。魔力の扱いでは第三、第二、第一の全てを凌駕するから」
「(一位すらか!?)」
「まあ、単純にそうとは言えないけどね。第一位ってのは、魔族内での文字通りの『最強』。種族は決まっていない。つまり魔女が第一位になれば一位を凌駕することはできない」
第一位は文字通りの最強………………
つまりそれって…………
「前の第一位を殺せば第一位になる。それが魔界の決まりなのさ」
交流が少ない魔界だからこその決まりなのだろう。
だから、魔族は極力周りとの交流を拒む。
いつ敵になるか、わからないから。
「まあそんなわけだ。アンタに魔力の扱いを教えるのは私が担当するよ」
「(了解だ。よろしく頼む)」
「ところで、アンタ今どこで暮らしてるんだい? 前にアンタんち行ったけど、いなかったろ?」
「(う…………)」
神谷の素朴な疑問に、零と顔を見合わせる。
隠すべきか、正直に話すべきか。
意見を求めるために零の方を向いたのだが、当の本人はというと…………
「………………//////」
顔を真っ赤にして、顔を伏せてしまった。
「え、何その反応。まさかとは思うけど、アンタら………………」
ああ、この反応はもう気付いたな…………
「(ああ、今は零の家に泊めてもらっている)」
「………………はぁ、アンタね…………」
呆れたように頭を抱える、神谷。
仕方ないだろうな。この反応でも。
「零ちゃん」
顔を上げた神谷は、とても真剣な表情をしている。
真っ赤な顔をしたままの零の手を取り、予想だにしない一言を放つ。
「私も泊まっちゃダメ?」
その時の神谷の眼は、今までで見たこともないほどキラキラと輝いていた。
〜虚野家〜
「ふむ。嘘は言っていないようだな」
神谷を真ん中にするように、俺、神谷、零で横に並んで、零の父親−−−霧玄さんと向き合う。
神谷の話を聞いた霧玄さん。
神谷の瞳を真っ直ぐ見て、静かに呟いた。
「ということは…………」
「よかろう。冥夜君の魔力の特訓は君に一任しよう。同時に、我が家への滞在も許可しよう」
「よし!」
滞在許可が出た途端にガッツポーズをする神谷。
なんだってそんな嬉しいんだ?
「ただ…………」
「ただ?」
「確かに君は嘘をついていない。人間界を好きになったから、壊させたくないというのも本心だろう。しかし、それ以外に、人間界を守りたいと思う理由があるな。もっと、君にとっては大事なことなんだろう」
霧玄さんがそう言うと、神谷が少し顔を伏せる。
「隠し事できないってのは本当だったんだね…………」
聞こえるか聞こえないかというほど小さい声で、神谷はつぶやく。
横目で見たところ、少し表情が沈んでいるように見えた。
「別に、言えないような事じゃないから、言ってもいいんだけど…………」
「どうかしたの? 神谷さん」
「…………冥夜には、席を外してほしい」
俺に?
なんだろう、俺には聞かれたらマズイのか?
まあ、それで話が進むならそうするけど。
「(わかった。それじゃあ、俺は部屋に戻ってる)」
「ああ、冥夜君。それなら、先に風呂に入ってくるといい。空が用意しているはずだ」
「(わかりました)」
よし、じゃあ部屋に戻って用意して、風呂にいくか。
襖を開け、廊下に出て襖を閉める。
少しだけ聞きたいという気持ちがあったが、盗み聞きするつもりもないし、すぐに部屋に戻った。
ふぅ………………
湯舟につかって30分。
我ながら中々に長風呂をしてしまった。
最近色々ありすぎて、風呂の時間が長くなりすぎている気がする。
湯舟から上がり、身体を丁寧に拭いていく。
拭き終わると、脱衣所に行き、(ここに住むことになった時に)用意してもらった寝間着を着る。
屋敷級のこの家に相応しく、和服である。
着替えを終え、先程話をしていた部屋に戻ると、そこにいるのは霧玄さんだけであった。
「おお、上がったか。それなら、あの二人に風呂に入るように伝えておいてくれるか? 零の部屋にいるはずだ」
「(わかりました)」
一礼して、部屋を出ようとした時に、霧玄さんがもう一言、俺に伝える。
「これから、大変なことが多くなるだろう。魔族の襲撃や、他の事でもな。気をつけておくように」
霧玄さんは、少しだけ楽しそうに笑っていた。
魔族の襲撃はわかるが、他の事?
なんのことだろう。
「(失礼します)」
頭を下げて、襖を閉める。
うーん?
「(まあ、良いか)」
零の部屋の前まで来た。
といっても、俺の部屋が隣だから、部屋に戻るついでみたいなものだけど。
襖を軽く叩こうとしたとき、中から声が聞こえてきた。
「零ちゃん…………私、負けないからね」
「望むところ…………相手にとって不足なしだね」
??
何の話をしてるんだろう?
よくわからないが、とりあえずノック。
トントン。
「誰?」
「(俺。冥夜だ)」
零の問い掛けに念話で答える。
障害物があるとムズイから、出来れば開けてほしかった。
「冥夜君? どうしたの?」
「(風呂空いたから、二人とも入っとけって、霧玄さんが)」
襖を開けて顔を出した零に、霧玄さんからの伝言を伝える。
「わかった。わざわざありがとね」
「(ん。じゃあ、俺は部屋に戻る)」
「おやすみ」
布団に入っても、気になってしまう。
二人のあの会話…………
零が顔を出したとき、チラッと見えた神谷の顔が真っ赤だった気がするが…………
んん?
手がかり1、俺に聞かれたくない話。
手がかり2、霧玄さんの言葉。「魔族の襲撃以外でも大変になるかも」。
手がかり3、二人の会話。神谷が「負けないからね」。
手がかり4、神谷の顔真っ赤。
…………………………まさか、な。
ありえないと思いつつ、眠りにつこうとするが、一度想像してしまった事が忘れられず、中々眠ることができなかった。




