Part17 …………あれ?
第二章開始です。
魔族による殺人事件の一週間後。
休校が解除され、終業式のために一日だけ登校日が設定された。
「転校してきたばかりなのに、すぐ夏休みっていうのも、なんだかな〜」
登校中、零がそんなふうにぼやいているのを聞いたとき、「ああ、そういえば転校してきたの最近だったな」と、改めて思う。
色々ありすぎて、最近って感じがしなかったからな…………
まあ、それは良いとしよう。
今現在に関しては、もっと重大なことがある。
零に念話を繋ぐ。変なことを考えないようにしながら………………
「(もうちょっと離れて歩けねぇか? 歩きづらいんだが…………)」
「え〜? やだ。離れてあげな〜い」
そう。零は今、俺の左腕に抱き着く形で歩いている。
周りの目がとても痛いこともあるが、一番気になるのは………………
「(………………胸が)」
押し付けられている。
外から見た感じではそんなに大きくなさそうだったが、結構あるぞコイツ…………
「胸が、なんだって〜?」
念話で少し伝わってしまったのか、零がニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。
確信犯かコイツは…………!
「(つーか、このまま学校行ったら、他の男子共に殺されかねないんだが)」
前例があるし。
一緒に喫茶店へ行ってあれだ。腕に抱き着かれた状態を見られてみろ。何が起こるか想像したくない。
「大丈夫でしょ。魔力が解放されたことで、単純な身体能力も上がってるはずだし、一般人高校生男子の1人や2人」
「(前に俺に襲い掛かってきた男子の数を覚えてないのか?)」
「えと………………24人だっけ?」
「(1人や2人じゃないことは確かだな。大体、封印が解除されたとはいえ、今は抑えられてるんだから、平常となんら変わりないんだが)」
念話を伝えながら、空いている右手の中指に目をやる。
そこには、黒い翼が巻き付いたような造形の指輪がつけられていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
神谷と戦った日の晩(というか、次の日の朝になりかけていたが)。
家に帰る途中で零に訊ねた。
「(俺の正体の事、霧玄さんと空さんには教えた方がいいかな?)」
「教えても大丈夫だと思うよ。お父さんもお母さんも、冥夜君が魔族じゃないかって分かってて家に招いてたらしいし」
「(あの2人にも気付かれてたのか)」
「うん。喫茶店でお父さんがした質問は、魔族かもしれない君を家に招いて大丈夫か、魔力の使い方を教えても大丈夫かっていうのを計るためのものだったからね」
そうだったのか。
なるほど。だから『合格』ね。
「まあ、流石に第二位の悪魔だとは思ってないと思うけどね」
ハハハ…………と笑う零。
そりゃあそうか。
「(じゃあ、あの2人には話しておくか)」
◆◇◆◇◆◇◆◇
「なるほど。まさか第二位だとはな…………」
驚いたそぶりもなく、霧玄さんは呟いた。
魔族であるということは、やはり知っていたのか。
「しかし、少々困ったな。君が無害であることは分かっているから良いが…………」
「何かマズイの?」
「うむ。冥夜君の身体から溢れ出す、膨大な魔力が魔族を呼び寄せる危険がある。それは自然に溢れ出ているため、自らの意思で抑えることは非常に難しい」
「この町に、魔族が集まってくるかもしれない?」
「可能性は高い」
なるほど。確かにマズイな。
俺が普通に生活してるだけで、魔族が集まってくるんじゃ、退治してもキリがなさそうだ。
「いや、しかし…………あれを使えば、あるいは…………ちょっと待っておれ」
呟いて、霧玄さんは部屋の奥に引っ込んだ。
しばらくして、掌くらいの大きさの木箱を右手に持ってきた。
「これを着けておけば、魔力をかなり抑えることができる。封印とは違い、魔力の全体量は変わらんが、魔力の放出を難しくするものだ」
木箱を開けると、入っていたのは黒い翼が指に巻き付くような形状になっている指輪が入っていた。
魔力の放出が難しくなれば、自然に溢れる魔力もせき止められるということか。
「ただし、つけている状態で魔族と遭遇したら要注意だ。指輪を外さない限り、魔力は自由に使えない。まあ、慣れれば零と同程度の魔力は使えるようになるだろうがな。夏休みに入ったら、指輪をつけたままで魔力を扱う特訓をしておこう」
「(了解です)」
もう普通に使えるようになった念話。
ホントに便利だ、これ。
「では、今日は休め。疲れているだろう」
◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな会話があったのが、3日ほど前のこと。
指輪をつけた当初は、魔力を抑えられているからか、身体が重くてしょうがなかったが、流石に3日も経てば、それは慣れた。
相変わらず、魔力は出しにくいが…………
「(とりあえず離れてくれ。嫌だとかじゃないが、純粋に歩きづらい)」
「ぶー。しょうがないなぁ…………」
口を尖らせながら、しぶしぶ離れて横に並ぶ零。
…………周りの目が痛いとはいえ、少し名残惜しかったのは言わないでおこう。
いったん念話の回線を切ってから、そう考える。
「ぶーぶー」
口を尖らせたままの零を見て、溜息をついた。
念話の回線を繋ぐ。
「(帰りに『カンテラ』のコーヒー奢ってやるから)」
「ホント!? やった!」
………………単純だなぁ。
コーヒー一杯で釣られる女子高生って…………
そんなやり取りをしながら歩いていると、3日前に激戦を繰り広げた校舎が見えてきた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「おはよう!」
零の挨拶に、教室中の男子の視線が集まる。
というかむしろ、廊下を歩いていた男子の視線すら集まっているようにも感じる。
そして、その視線はすぐさま俺への殺意の視線に変わる。
…………この視線にも、慣れたもんだな。
全然恐ろしくない。
いや、魔族と戦闘なんざしてたら、そりゃあこれくらいなんともないわな。
うん。わかった。
わかったから、その鋭利な刃物類をしまいたまえ、君達。
殺気が尋常じゃないことになってるから。
「暗月………………もうてめぇは殺す!」
……今、ナンカ物騒ナ言葉ガキコエタヨウナキガスルナ〜。
教室中が殺気立つ中、背後に人の立つ気配。
その人物が発した声は、予想だにしないものだった。
「ホント、アンタも大変だねぇ。ほらアンタら、どきなって。通行の邪魔だよ」
「「!?」」
弾かれたように振り向くと、視界に入るのは輝くような金髪と、日本人離れした碧眼。
「よっ」
不敵な笑みを浮かべながら右手を上げているのは、他ならぬ、3日前に冥夜が消滅させたはずの、神谷遥だった。




