表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

Part15 真実と過去②



「ディアボロ…………?」


『左様。死したお主を迎えに来た、といったところか。お主達人間からすれば、死神のような存在だ』


「死した…………やっぱ、俺、死んだのか」


『左様。お主は死して、魔界へ送られる途中の段階にいる。…………だが』


姿の見えない、『悪魔』ディアボロは、そのまま続ける。


『お主が強く望むのなら、生かしてやることも出来る』


「何!?」


生き返れる?

そんなことが出来るのか?


『一応、だがな。必要なのは、生き返りたいと願う理由。人間界への強い未練。私が認めるだけの理由があるのなら、生かしてやろう』


生きたい、理由…………

強い、未練…………


『ただし、生き返ったとしても、大きな代償が付き纏うだろう』


大きな代償…………

けど、そんなことは関係ない。ただ俺は、伝えたいだけなのだから。


彼女に、自分の想いを。


「大切な人が、向こうで生きてる。その人に、伝えたいことがあるんだ。俺は、それまでは死にたくない。いや………………死ねない」


『………………理解した。お主を生かそう。ただし、お主の願いに、この代償はちと苛酷であろうが、それでもよろしいか?』


「構わない。彼女にまた会えるというのなら」


『よかろう。では、ゆっくりと目を閉じるのだ』


言われた通りに、目を閉じる。

目を開けていようが、自分の身体しか見えていなかったが。


この後、ディアボロが発した言葉が、今の自分の全てを物語っていたのだろう。






『融合』






その言葉を聞いた瞬間、俺の意識は再び闇に沈んでいった。





◆◇◆◇◆◇◆◇






目を覚まして、最初に視界に入ったのは白い天井だった。

薬品の匂いがすることも考えると、病院の一室なのだろう。


本当に、生き返ったのか…………?


「先生、目を覚ましました!」


すぐそばで、看護師の声がした。

俺の担当医を呼んでいるのだろう。


「おお、目を覚ましたか。聞こえるかい?」


現れたのは、白髪が目立つ初老の男性だった。

聞こえるという意味を込めて、静かに頷いた。


「良かった…………それにしても、あの状態で生き延びるなんて、奇跡だな……身体に、何か異常はないかい?」


問われて、身体の状態を確認する。

全身痛いが、それくらいだ。異常と言えるほどのものはない。


大丈夫です、そう答えようとして。


自分の身体に起きていた『異常』に、気付いた。






声が出ない。






どれだけ話そうとしても、空気が口の中から抜けていくだけで、音が発せられない。

そこで、ディアボロの言っていた言葉の意味を理解した。


『生き返ったとしても、大きな代償が付き纏うだろう』


『お主の願いに、この代償はちと苛酷であろうが、それでもよろしいか?』


苛酷。

確かにそうだった。

彼女に、想いを伝える?


声が出せないのに?


冷静に考えれば、手紙で伝えたりすることも出来ただろう。

けど、俺はどうしても、自分の言葉でこの想いを伝えたかった。


しかし、それは叶わないものだった?




…………嘘だ。

そんな事になるなら、生き返る必要なんてなかった。


俺は………………






◆◇◆◇◆◇◆◇






一年ほどして、俺は退院した。

死んでもおかしくない、いや、むしろ死ななかったのが奇跡な状態だったため、回復にはかなりの時間がかかった。



病院から出て、真っ先に向かったのは自分の家ではなく、彼女の家だった。


想いを伝えることは出来ない。

それでも、ただ、会いたかった。

彼女の笑顔を見たかった。




彼女の家が建っていた場所…………そこにあったのは、夜空に輝く満月を隠してしまうほどの、大きなマンションだった。




目を疑った。

どんなに小さくても。

どんなにボロボロでも。

彼女の家は、確かにここにあったはずだ。

間違えるはずがない。



「やはりここにいたのか」


背後から男の声。

振り返ると、そこに立っていたのは父親、暗月 真夜しんやだった。


「退院したのなら、まず親に顔を見せるべきだろう。だというのに、お前はまたあの負け組の娘のことなど気にしおって………………」


真夜のその言葉に、並々ならぬ怒りが沸き上がる。


「ちなみに、あの娘なら引っ越したぞ。ここに我が社のマンションが建つということでな。立ち退いてもらった」


………………今、何て言った?

マンションを建てるために、立ち退かせた?


「良い機会だ。お前もあんな娘のことは忘れて、私の跡を継げるように成長してくれ」


立ち退かせた……………コイツガ、ゲンインカ。


一気に、怒りが爆発した。

全身から紫色の霧が噴出し、爪は鋭く長く、瞳の色も紫色に変色した。


ここからは、もう自分の意思で身体を動かすことは出来なかった。




俺の腕が、真夜の胸部を貫通した。




「な…………にを…………」


一気に腕を引き抜き、首を掴む。

そのまま、息絶えた真夜を引きずりながら、自宅を目指した。






自宅で、真夜と同じように母親も殺し、家を、焼いた。




満点の星空を、炎の赤が彩っていた。

その炎は徐々に勢いを増し、夜空に浮かぶ満月すら、焼いてしまいそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ