Part14 真実と過去①
今回は短めです。
「…………………え?」
突然の、冥夜君の言葉。
冥夜君を………………殺す?
「どういう……こと?」
「言葉通りだよ。お前に、俺を殺してほしい」
「なんで急にそんな…………」
いままで、そんなこと言うような雰囲気はなかったのに……
「俺は、昔のことを覚えていなかった」
「うん。それは知ってる」
「それを、神谷に封じられた魔力を解放したときに、全部思い出したんだ。多分、記憶喪失は事故が原因じゃなく、魔力が封印されたことが原因だったんだと思う」
「魔力と一緒に、記憶も封じられたってこと?」
「多分な。で、色々と思い出したんだが………………」
そこで、冥夜君は一度口を閉ざした。
目を伏せて、考え込む。
「正直、俺も頭ン中整理ついてない。けど、ただ一つ、瞬時に納得できたことがあった」
「……………」
「零、俺は………………魔族序列第二位、『悪魔』だ」
冥夜君が魔族である。
そんなことは、信じられないことだった…………はずだった。
しかし。
「ぼんやりとは、わかってたよ」
「何…………?」
「流石に、第二位とかまではわからなかったけど、冥夜君が魔族なんじゃないかって考えることは多かったよ」
化物級の、魔力の扱い。
魔力の質。
解放するまでは魔力の量が少なかったとはいえ、冥夜君の魔力は、洗練された『鋭さ』があった。
こう言ってはなんだけど、『人間とは思えなかった』。
それに、なにより…………
「転校初日、私が教室で歌ってた歌、あれは私の家に受け継がれてきた歌なんだけど、『魔族を引き寄せる効果』があったの」
「………………なるほど。俺はその歌に、無意識に引き寄せられていたのか」
「確信してたわけじゃないけど、私は冥夜君が魔族かもしれないって分かった上で一緒にいたの。今更そんなことで…………」
「それだけじゃない」
「………………え?」
「俺は両親がいない。何故か? 答えは簡単なことだった。……………………俺が。この俺が、殺したんだ」
夏だというのに、風がとても、冷たく感じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
8年前、冥夜が小学校3年生の頃
その頃は、俺もまだ普通に喋ることが出来ていた。
「冥夜!」
「なんだよ、■■」
陽気で、笑顔の似合う黒髪ショートの女子。
俺の幼なじみの女子だった。
記憶を取り戻したというのに、彼女の名前は思い出せない。
「今日一緒に帰ろ!」
「またか…………だいたい、そんな事言わなくても、方向一緒なんだから、帰るのは一緒だろ?」
「そうだけど〜」
そう言って、彼女ははにかんだ。
そんな彼女に、俺はきっと、惹かれていっていたのだろう。
俺の家は、裕福だった。
家の土地は広く、庭に専用のプールなどがあったくらいだ。
逆に、彼女の家は貧乏だった。
小さな安アパート暮らし、食べ物だって、ろくに集まらないほどだった。
だから、俺は父親からしょっちゅう言われてきた。
「あの娘と一緒にいるのはやめなさい」
生きている世界が違うのだと。
彼女の家は負け組だと。
勝ち組の自分達が一緒にいてはならない存在なんだと。
それでも、俺は彼女のことが好きだった。
諦められなかった。
小学校5年生の時、俺は両親に内緒で彼女と海に行った。
久しぶりの外出とあって、彼女は楽しそうだった。
いつもの笑顔を、俺に向けてくれた。
「ありがとね、冥夜」
帰り道、彼女は振り返りながら言った。
笑顔で。
「バレたら、また怒られちゃうよね?」
「………………多分な。けど、気にすんな。慣れっこさ」
「そっか」
そういう会話をしているだけで、幸せだった気がする。
けど。
彼女の進行方向を見て、絶句した。
赤信号。
彼女の名を呼びながら、駆け出した。
間に合え、間に合え、間に合え!
彼女の背中を追い掛ける。手を伸ばした。
指先に、彼女の体温が伝わった。
身体に、ありえない衝撃が伝わった。
目の前が、真っ暗になった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
気が付くと、俺は真っ暗な空間に立っていた。
足場も、何も見えない、真の暗闇。
「どこだ? ここ………………」
『人間界と魔界の狭間…………境界と呼ばれる場所だ』
突然、何かの声が聞こえた。
改めて周りを見渡すが、俺以外には何もいない。
『貴様に私の姿は見えんよ。………まあ、自己紹介くらいはしてやるか』
その声の主は、少しの間を空けて、こう言った。
『私は魔族序列第二位、『悪魔』に属するもの。………………名を、ディアボロという』




