Part1 邂逅
前に書いてた一次が、すでに1年放置状態………………
執筆していたストックデータが残っていないので、新たに書きはじめました!
前作のように放置しないよう頑張ります!
人間ってのは、全く脆い生き物だ。
少しのことで傷付き、それなのに懲りずに同じことで傷付いて、最後はその傷に押し潰される。
全くもって理解出来ない。
だから……………………
◇◆◇◆◇◆◇◆
その日は、生憎の雨だった。
いつもやかましい蝉ですら、その日だけは息を潜めていた。
夏休みが近付き、人間どもは俄かに活気づいていた。
その中でこの雨。
人間どもが活気を失うには十分過ぎることだったのだろう、教室の中の空気は、『不幸』で満ちていた。
「ったく、なんだってこんな雨の中、学校なんて来なきゃならないんだ」
ぼやいたのは、誰だったのだろう。
恐らくその声はその場にいた全ての人間の心を、代弁していたのだろうから、誰が言っていてもかわりはないだろうが。
「あ〜、学校休めば良かったかな」
もう来てるのに、今更嘆いてどうする。
全く、これだから人間は…………
ま、どうせ何か一つのきっかけで、立ち直るんだろ。
おっと、教師が来たな。
「今日は転校生を紹介する」
突然の歓声とともに溢れ出す、幸せいっぱいです的な笑顔の数々。
ほらな。思った通りだ。
「虚野零です。父の仕事の都合でこちらに越してきました。よろしくお願いします」
教壇の上で頭を下げる、黒い長髪の少女。
男子陣のむさ苦しい歓声。
美人だとは思うが、流石にその反応はキモいぞ。
転校生でさえ、若干顔が引き攣ってる。
それぐらい気付かないのか?
「席は………………ふむ。冥夜の隣が空いているな。窓側の、一番後ろの空いている席だ」
「わかりました」
げっ、俺の隣!?
おいおい、教師は全員俺の事情を知ってるはずだろ。
忘れ………………る訳はないか。
「冥夜君、だっけ。よろしく」
「………………」
転校生の言葉には返さず、席を立って教室を後にする。
「………………?」
後ろで、転校生が首を傾げていた。
「ねぇ、冥夜君って…………」
冥夜が教室を出た後、零は前の席に座る女子生徒に話し掛けた。
「あぁ、冥夜君ね。本名は暗月冥夜。昔、事故で喉をやっちゃったらしくてね。声が出せないんだって」
「声が…………?」
『声が出せない』と聞いた零の眉が、ピクリと動いた。
「うん。このクラスのメンバーでも、声を聞いたことがある人はいないと思う。相当前からの知り合いとかじゃないと」
「ふぅん………………。ありがとう。教えてくれて」
零が微笑むと、周りの男子全ての視線がそちらを向いた。
なんなんだ、あの女は………………
あの、全てを見透かそうとする瞳と、何か……………………
嫌な予感がする…………
行く場所の検討もつかないまま、廊下を歩き回る。
いつもなら屋上に行くところなんだが、今日は雨だ。
行ってびしょ濡れになるという失敗はしない。
しかし、どうするか………………
帰るか?
いや、荷物を置いてきてしまった。
休み時間ならまだしも、授業中に教室に戻ってすぐに帰るのはな………………
仕方ない。
次の休み時間まで適当な空き教室で寝てるか。
◇◆◇◆◇◆◇◆
む、寝過ぎたか?
流石に休み時間まで寝てるってのは失敗だったかな。
時計を見ると、すでに午後になっていた。
いや、我ながら寝過ぎだろ………………
一応今は休み時間だな。
予定とは違ったが、教室行って荷物取って来よう。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「………………♪」
教室から、誰かの歌声が聴こえてきた。
儚く、それでいて美しい歌声。
でも、なんだろう。
何か、懐かしい感じがする…………
教室にいたのは、転校生−−−−虚野零だった。
「…………♪…………♪」
なんなんだ、この旋律は。
心を掴まれ、無理矢理揺さぶられるようだ。
眼を閉じて、旋律を奏でる転校生。
その姿は、綺麗を通り越し、幻想的でさえあった。
「…………♪……………………」
曲が終わったのか、転校生は口を閉じた。
「…………?」
俺がいる気配を感じ取ったのか、転校生はこちらを向いた。
途端に慌て始める。
「わわ、冥夜君!? もしかして、聴いてた!?」
その慌てように少々戸惑いながら、肯定の意を込めて頷く。
転校生の顔が、みるみるうちに紅くなっていく。
「えぇと、どうしよう…………もう誰もいないと思ってたのに…………」
慌てふためくのを見て、若干悪いことをした気になり、すぐそばの机に置かれていたルーズリーフとシャーペンを手に取る。
スラスラと字を書いていく。
『誰にも言わないから、安心しろ』
「ホ、ホントに!? 絶対だよ!」
転校生の言葉に、深く頷く。
すると、転校生は安堵からか、床に座り込んでしまった。
俺は気になっていたことがあるのを思い出し、先程のルーズリーフの裏に再び字を書いていく。
『他の奴らは? 何でお前だけなんだ?』
「え? もしかして、冥夜君知らなかったの? 今日は午前授業だけで、放課って聞いたけど」
む…………そういえば先週の頭辺りにそんなこと言ってたような………………
全く、そういうことはもっと近くになってから言ってほしいもんだ。
「っていうか、冥夜君今までどこにいたの? 授業、一つも出てなかったけど」
転校生がスカートをはたきながら、立ち上がる。
俺はルーズリーフにシャーペンを走らせる。
『空き教室で寝てた』
「クスッ、何それ? 授業出なくて平気なの?」
コクリと頷くと、転校生はまた笑う。
忙しい奴だな、と思った。
「っと、ちょっとお腹すいちゃったな。冥夜君は、お昼まだ?」
再び頷く。
「じゃあさ、一緒に食べない? 少し、話したいこともあるしさ」
そう言って、転校生はニッコリと微笑んだ。