【第一章】学園前の僕と姉と妹。03
僕は直ぐさま逃げる体制を取ろうとするが、既に前後左右の退路を完全に絶たれてしまい、なす術もなくその場で立ちすくむことしかできなかった。ってか、行動早すぎだよお前ら………。
「会いたかった………春休みの間ずっと会いたかったよ、優声くんっ!」
「僕は二度と会いたくなかったよ………田中くん」
「それは………僕等に対する照れ隠しかい?」
「「「「なんとっ!?」」」」
「違うわっ!!」
速攻で否定の声をあげた僕だが、無駄に高まったテンションの彼らには届いてなく、何処と無くソワソワした雰囲気を発している。………僕は違う意味でソワソワしているよ。
「本当に僕等は辛かったんだよ………春休み君に会えない時間は、まるで世界が死んだように見えた」
「「「「うんうんっ!」」」」
「うんじゃねえよっ!ちゃんと現実見つめろよっ!世界はイキイキしてるよっ!」
「しかしっ!それも今日でお終いだっ!!これからは毎日優声くんのお姿を見つめることができるっ!」
「「「「そーだっ、そーだっ!!」」」」
「話し聞けやっ!!」
「「「「「我ら『優声くんでリア充を満たそうの会』が再び活動を開始するっ!!」」」」」
「開始しなくていいし、そのダサイネーミングセンスどうにかしろよっ!!」
たぶん、いきなりこんな展開を目撃してもわけがわからないと思うから、今から順を追って説明しよう。
まず、この『優声くんでリア充を満たそうの会』というネーミングセンス0の団体が生まれたのは、一年の夏のことだ。
僕はこの容姿と髪のせいで、見た目ではよく女の子に間違えられることが多々あった。それは学園に限った話ではなく、世間一般的に見ても、僕は『女の子』として見られてしまうケースの方が圧倒的に多い。だから、彼らが僕のことを女の子と認識してしまうのは頭がおかしい訳ではない。
とまぁ、そういった理由により最初の方は女子も男子も僕にあまり近寄ってこなかったのだが、だんだんクラスに馴染んてきてからは普通に話すようになり、僕もそれを自然に受け入れ始めたある時だった。
「あぁー、彼女欲しいー」
当時は普通に友達として接していた田中が、ふとそんな質問をしてきたので、僕は普通に返答を返すことにした。
「なら、作ればいいじゃん」
「そんな簡単にいうなよ………イケメンじゃない僕には無理だ」
「わからないぞ?意外に田中くんカッコいい部類に入るんだし、頑張ってみたら?」
「慰めはいらんっ!お前だって、彼女の一つや二つは欲しいだろ?」
「いや、別に」
「マジでっ!?気になることかもいないのかっ!?」
「うーん、そう言うならいないこともないかな?」
「ほらっ、いるじゃねぇかっ!誰だよ?」
「金本さん」
「へー、あーゆー人がタイプなんだお前って」
「いや、違うけど?」
「えっ!?でも、気になってはいるんだろ?」
「うん、すごく気になっている。………食生活が」
「………は?」
「彼女、制服の上からではわかりづらいけどとてもいい体付きしているんだよ。無駄な脂肪とかないし、かといって全くない訳でもない。適度な運動をしているのか知らないけど、筋肉もしっかりとついている。それに、肌荒れとかも起こしていないみたいだし、遠目から見ても綺麗な肌をしている。それは、食生活が整っている証拠の一つでもあるからね。彼女がどんな料理を食べているのか………おそらくは、魚類や野菜類をしっかり取りながらも、お肉の方も控えめだがちゃんと摂取している。調味料の分量とかも大切だから、そこらへんとか今度詳しく聞きたいね。うん、気になる」
「………」
「ん、どうしたの田中くん?」
「お前って、女か?」
「は、なに言ってるの?どう見てもオトコじゃん」
「いや、どう見ても女の子でしょ」
「そんなことは………ないとも言えない」
「だろー?ってか、お前って女に興味持つ要素それか?普通に可愛いとか思ったりとしねぇのか?それに、口ぶりからして裸にすら興味ないような言い方だぞ?」
「えーと………、家の姉や妹達って家の中で裸や下着姿で平気で歩き回ったりするから、別に今更女の子の裸見ても見慣れているっていうか」
「………一発殴っていいか?」
「嫌だよっ!!」
「つまり………お前は女では興奮できないと?」
「うーん、そうなのかなぁ?」
「んじゃあ、逆に男の裸は?」
「………むしろ、そっちの方が見慣れてない分恥ずかしいかも」
「女で興奮できない、男では恥ずかしがる。見た目はどう見ても女の子。口ぶりからして家事が得意とする………となると」
「どうした、ブツブツ呟いてるけど?」
「お前、やっぱ女の子だろ?」
「いや、違うからっ!」
「はっ!?これは、まさかの照れ隠しかっ!?」
「さらに違うからっ!!なんで照れなきゃいけないんだよっ!!」
「なんだ………ここにいたじゃねぇか。僕の『彼女』」
「………は?」
「こんなにも可愛い男の子がいるのに、なんで僕は気づかなかったんだろう」
「男だからっ!現実見ろよっ!!」
「優声くんっ!こんど僕とデートしようっ!!」
「しねぇーよっ!!何でいきなりデートなんだよっ!?」
「はっ!?そうだよな、いきなりデートからは少し早すぎたな………」
「順番の問題じゃねぇっ!!」
「まずは僕の家に行こうかっ!」
「むしろ、順番飛ばしたっ!?」
「僕は優声くんでリア充を目指すっ!!」
「宣言しないでっ!!」
とまぁ、こんなすんげー悪ふざけで始まったどうでもいい行為が、次第に拡大していき団体となり、いつの間にか100人規模になっている。………ってか、俺なんか囲ってる暇があるなら普通に彼女作る努力しろよ。