背徳の夏掛け
その坂をハッチバックの社用車で緩やかに下る。
坂に逆らって造成された建売住宅の波をボクの目はトレースしていく。
果して目的の家のおもちゃ箱みたいなウッドデッキに、彼女とそのダンナの青い夏掛けがはためいている。
それはボクたち二人だけの幸せの合図。
やんちゃ坊主ドモの自転車は2台ともお留守で……きっと彼女が良い様に取り廻してくれたのだろう。
坂のふもと手前でボクは右のウインカーを出し、コンビニの敷地へとタイヤを踏み入れる。
ここからは時間勝負だ。
手早くノンアルサワーとノンアルビールを数本、そしてやんちゃ坊主どもには絶対見せられないクリームたっぷりのコンビニスイーツを買い込んで、そのまま坂をテクテク逆戻り。
コンビニの袋を頬にかざし、その冷気で……蝉の声と共にジリジリ降り注ぐ灼熱の暑さをほんの少し遮りながら、ボクは彼女のスマホを2コールだけ鳴らす。
この着歴も……今朝ボクが出した『今日は潮あみしたいな』のメッセと同様に速やかに彼女のスマホから消去されて、今、彼女は冷蔵庫の中の麦茶サーバーを飲み干してウズウズとボクを待っているに違いない。
ボクもウズウズしているよ。
早く『潮あみ』をしたくて。
ベージュのシートの上で、二人、お互いに生クリームを塗りたくって、お互いを貪り合っている。
その狂乱がピチャピチャと潮を跳ね、ボクたちは更に獣となる。
例え呷る物がノンアルでも
ボクたちは背徳の美酒に充分酔いしれ、ボクは全身がビリビリと逆立ち、彼女は繋いだままのボクのしっぽへ如実に動きを伝えて来る。
ボクは上司と得意先の叱責から……彼女はダンナとやんちゃ坊主どもから……この『余りのも日常の空間』の中で解放されるその事こそが!
最高の背徳であり、最高の美酒である。
そしてひとときの背徳が過ぎ去った後は
青い夏掛けの代わりに
ボクと彼女のベージュのシートが
夏風にはためくんだ。
<了>
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