パキラ
仕事も恋愛も上手くいかない由香。
そんな由香の葛藤を書いていく
追憶なんて、自分を甘やかすだけ。
そんな時に限って、辛い事を思い出すんだから。
もう、センチメンタルになっている様な歳じゃない。
少し触れるくらいなら、まあいいけれど、べったりはありえない。
29歳をバカにしている。
自分で自分自身をバカにしている。
そんな、あわれな事態、私は目を合わせずに、丁重にお返しする。
それが私のやり方だ。
かっこつけて言うなら、ポリシーってとこか。
そんな所にこだわるなんて、あほらしい。
今年中に、まだツンツンしている棘を抜かなければならない。
私のために。家族のためにも。
仕事は一通りやってきたけど、どれもこれもまるで何かのストーリーみたいに、
全く合わなかった。
辞めては始めてを繰り返して来た。
当然、お金なんて貯まらない。将来も見えない。暗闇に一人取り残されたみたいで、
寂しい。
そして、それは恋愛にも言えた。
付き合っては別れてを繰り返して来た。
今はフリー。完全なる。
というのは、男の知り合いすらいないからだ。
なんか、最近は生きている実感すら危うくなってきた。
そういう時、やるのかな。
リストカットって。
私は想像を膨らませてみた。私は一度もないけれど。
だって、あんな所に傷をつけたら、就活とかどうすんのかと思う。
絶対あやしまれる。
不利でしょ?絶対。
利益にならない事は、やらない主義なのよ。悪い?なんか文句ある?
ないよね。私って、そういう女なのさ。
まあ、一貫している所には、自信あるかな。
私の自宅に友達の絢香とふたり。お茶をしていた。
「由香ってさー。なんで、モテそうなのに、彼氏いないの?」
友達の絢香が口の中をお菓子でいっぱいにしながら言う。
「絢香!食べ終わってからしゃべってよ。・・・まあ、いいや。話戻すけど、そのモテそうって所が、マズイわけ。実際、モテてないのに。これまでは、それを前提にしてやってきたけど、めんどくさくなってきたって話」
私は、コーヒーをのどに流し込みながら言った。
「でも、仕事はめんどくさくならないんでしょ?」
わっ。すごい笑顔。絢香の瞳はキラキラしている。
「まあね。生活かかってるからね。工夫してはいるよ。やりやすく順序変えたりね」
「それなのに辞めてばっかりって」
「そこ違うな。表向きは、こっちから辞めた事になってるけど、実情は辞めさせられたわけ」
「なんで?」
「わからない。何かしら事情があるんだろうけどね」
「そこ、突いてみないの?らしくないじゃん」
「突いたけど、かわされたの」
「納得いかない」
絢香は口を尖らせた。
どれも合わなかったなんて事実言えるか!
私はコーヒーを飲み干した。
絢香が帰って、どのくらいたっただろう。
気がつくと私はカーテンを切り刻んでいた。
そう高くはないけれど、お気に入りだった。それをなぜ・・・。
病院に電話すると、夜間スタッフが出た。
事のいきさつを、うんうんと頷きながら、彼は聞いてくれた。
私は、精神の病を患っている。
こう言うと人は、『自殺未遂したりとか、リストカットするの?』
とか聞いて来るが、本当に違うのに納得する辺りがイラついた。
まあ、仕方がないけれど。
そういうのは、その中の一部の人間であって、全部ではない事を理解してくれればいいのに・・・。
けれど、そんな事を彼らに期待しても仕方がないじゃないか。
そういう場合は、『そういう人もいるかもね~』とか微笑むながら言う。
当たり障りがないように・・・。
言われなれ過ぎていて、そのくだりは飽きてきたけどさ。
友達のマリアと、夜、電話していた。
『ねぇ。死ぬ瞬間って、めっちゃハイになってイキそうになるのかな?』
『ハイ?』
私は間抜けな顔をした。
『なんでそんな想像するの?』
私は、から笑いしてみた。
『なんとなくね。SEXと死って似てるかなって思ったわけ』
マリアは、ホントイカレてる。
時々、大丈夫か?と不安になる。
この私がそう思うんだから、相当だ。
私は昨日切り刻んだカーテンの傍にある、パキラに目をやった。
そろそろ、水をやろうかとボーッとした頭で思った。
その事と、意味不明な方程式が混ざり合って、私の思考を攻撃した。
ディフェンスが弱くなっている事で、それは進入を許した。
それでも私は上手く方程式をよけて、パキラにたっぷりと水をやった。
母から譲り受けたくたびれたカーテンが妙に私になじむ。
それだけ、私もくたびれているのだろうか。
自分に。この日常に・・・。
傷ついた事がない赤子の様になりたくなる。時々。
私の弱さが露呈する。
たった一度の人生、傷だらけになって、ボロボロになるのがいいなんてウソだ。
私は温室の百合の花みたいに守られていたい。
そんな真実の自分の声に戸惑いもする。
マリアと外で外食してから、帰宅した。
いつもの様に、パキラに水をやろうとすると、土が湿っていた。
私は、あれ?と思った。
そんな事が、何度か続いた。もしかして・・・。
そして、知らない番号からの電話。
私はいちおう出た、
『はい』
『あの、由香?優成だけど・・・』
その聞き覚えがある声に私はつばを飲んだ。
やっぱり。
『ねぇ。もしかして、優成?パキラに水・・・』
『そう』
『合鍵?返してよ。返しそびれたの?私に』
私は怒った。元カレの優成だったから。
『やり直さない?』
『イヤ』
間髪入れず私は言った。
『そうかあ…』
しばしの沈黙の後、優成はまた話し出した。
『パキラ、オレがやったパキラ、大事にしてくれてありがとう』
『植物に罪はないから』
私はしれっと言った。
『そうか・・・。合鍵ごめん。明日にでも返しにいくから』
『会いたくないから送って』
そう言って、電話を切った。
私はなぜか、涙が溢れてきた。
なんだろう。なんで、私が泣かないといけないの・・・。
私は泣きながら、壁を叩いた。
しまいこんでいた、優成へのおもいがぶわーっと出て来た。
なんだか、私の中の女性の部分が一気に刺激された様で悔しかった。
優成を愛しくも憎くもおもった。
窓の外は満月。
こうしてみれば、心も満たされる。そんな気がした夜だった。
ここまで読んで下さってありがとうございました。




