ラブコメとは始まりのことである。
演劇部に入部前の山田!!
加藤に勧誘される山田!!
もちろん答えはNOである!!
この結末はいかに……。
今回、ラブコメとは始まりのことである。
俺は山田太郎。十六歳。
名前からも察する通り。モブもモブである。
ーーこれは俺が演劇部に入るまでの物語だ。
二学期の期末試験も終わり、いよいよ冬休みに差し掛かろうとしていた。
「先輩。一緒に帰りませんか?」
声をかけてきたのは、金髪メッシュの髪をふわふわさせている加藤だった。
「いいけど。今日は部活ないの?」
加藤が何部に入っているのか、俺は知らない。
「今日はオフなんです。ナイゼリアにでも寄りませんか?」
何か言いたいことがあるのだろうか。
いつもより緊張した態度に俺まで緊張する。
「ピザ好きだっけ。頼む?」
俺は質問しながら、スマホで番号を入力する。
「はい、お願いします。」
そう言いながらも、どこか心ここに在らずな加藤の様子に、
寄り道に誘うのを緊張していたわけではないのか。と今更気づく。
「で、なんか言いにくいことなの?」
ドリアを頬張る加藤に、俺は意を決して聞いてみる。
「山田さん。演劇部興味ないすか?」
あまりの突拍子のなさに、
「えぇ?」
と腑抜けた声を出してしまう。
「演劇部って。うちの学校にないはずだけど。」
頭の中で話がうまくつながらない。
「文化祭の時のロミジュリ覚えてます?」
そう聞かれ、察する。
「あの四人で演劇部してるんだ?学校の人ほとんど知らないと思うけど。」
あの三人に加えて加藤まで演劇部をに入っているとか、学校の人が知ったら
大ニュースだなと思い、口をモゴモゴさせている加藤を見る。
「そうなんです。学校に広まると少し面倒だからってことで、メンバーは増やさない方針なんです。
だけど同好会として活動できるのは半年までで、今はもう期間が過ぎていて廃部の危機なんです。」
うちの学校では三人以上で同好会。五人以上で部として認められる。
つまりあと一人必要って訳だ。
「それで、どうしてそんな話を俺に?」
こんなのモブが握っていい情報なわけがない。脅されるのだろうか。
……いや、なんのために?
「端的に言うと、先輩に演劇部に入ってほしいんです。」
身を乗り出し俺の手を握り、犬のような目線を向けてくる加藤を凝視する。
困ったなぁ。
俺があんな主要メンバーの中に入れるわけがない。
加藤以外は別のクラスなのに、三人の噂話はうちの教室にまで広がっている。
「誘いは嬉しいんだけどなんで俺なのさ、矢藤さんとかが適任じゃないの。
そもそも俺演技なんてできないし。」
あの四人の中に俺が入るだなんて、想像しただけで恐ろしい。
「いや〜矢藤さんにも声かけたんですけど、生徒会で忙しくなるみたいで……。
僕ら、正直友達も少ないんで。先輩にしか頼めないんです。」
なるほど、矢藤さんはこの前の生徒会選で生徒会に入ったのだったな。
それにあの羽波さんと御剣も友達が少ないなんて、人気者も意外と苦労しているんだな。
「まぁ、事情はわかったよ。でもさっきも言った通り、俺演技とかできないんだよね。」
演劇部で演技ができないなんて、門前払いもいいとこだろう。
「いえ、うちの部文化祭の時以外は正直、
毎日お茶飲んで駄弁ってってだけで何もしてないんですよね。だから大丈夫ですよ。」
そう言って加藤はウインクをしてきた。
何キメ顔してるんだ。そもそもそんな部活いらないだろ。
どうやって断ろうかと模索していると、
「まあとりあえず入部届出してくれたら来なくてもいいので。この通り。」
加藤は机に土下座のポーズをした。
いよいよ本当に断れなくなってきた。
どうしたものかと悩み、
そもそも主要キャラに頭を下げさせている現状に気づき俺は青ざめる。
「わかった。わかったから頭あげて。」
俺がそう言うと加藤は今まで見たことのないほどの満面の笑みを浮かべた。
「よかったです!明日部活あるので一緒にいきましょう。」
手でハートを作り満足げな加藤を見て、まあいいか。そう思った。
今はもう使われていない部室棟と教室棟とは離れた旧校舎で活動しているなんて、そりゃあ学校の誰も知らないわけだ。
もう何個目かの雨漏りのバケツを横目で通り過ぎ、演劇部と書かれた扉に手をかける。
キィと音がなり、いつ壊れてもおかしくないなと思う。
「やぁ。君が山田くんかい?本当に助かったよ。」
手を差し伸べてくる御剣は、いつも遠くで見ていたあの王子様よりもずっと輝いていた。
「あぁ。いえ、よろしく。」
俺は挨拶し、差し伸べられた手を握った。
「私は羽波京子よ。よろしくね。山田くん。」
にこやかに自己紹介をする羽波さんは、噂通り完璧という言葉の似合う人だった。
机に足を乗せゲームをしているこの人に話しかけていいものか迷っていると、御剣がゴーサインを出したので勇気を振り絞る。
「畠中くんだよね?新しく入った山田です。よろしく。」
そう挨拶すると、イヤホンを耳から外しチラリと俺の顔を見て無愛想に
「よろしく。」
一言呟き、またイヤホンをつけてしまった。
周りにはにこやかに笑う二人と、自由人な畠中。
そして近づいてくる大きな足音……これはおそらく加藤だろう。
勢いよく扉が開き、加藤と目が合う。
「先輩!これからお願いします!」
そう飛びついてくる加藤を嗜めながら俺は思う。
……この部活。結構楽しそうじゃん。
あの頃の俺に、今の俺が何か言えるとするならば、
「その部活すげぇめんどくさいから、やめるなら今だ。」
そう言ってなんとか救済してやるだろう。
そんな妄想をして、現実にため息をつく、
「ちょっと山田くん。私の作ったクッキーを食べられないっていうわけ?」
俺の口にクッキーを押し付けてくる羽波さん。
「いや、俺もうすでにいっぱい食べたよ。」
俺は断り、横に視線を避難させる。
「いやぁ青春だねぇ。」
よくわからないことを口走りながら、下衆な笑みを浮かべる御剣。
「あ!ねえ僕にもクッキーくださいよ!」
「だめよ。犬用じゃないの。お腹壊すわよ。」
加藤は羽波さんと喧嘩を始めた。
「うるさいな。」
舌打ちをして皿からクッキーを口に流し込む畠中。
泣き始める加藤。殴りかかる羽波さん。腹を抱え笑っている御剣。
……な?この部活はめんどくさいのだ。
カバンから生徒手帳を取り出しポケットに入っていた例の紙を広げる。
『出口がない部屋で、すぐに脱出できた理由は?』
そんな方法があるならば、俺が知りたい。
俺はなぞなぞが苦手なんだ。
頬杖をつきながらこちらを見ている羽波さんを横目に、紙を生徒手帳に押し込む。
俺はため息をつき椅子に深く座り込む。
夏休みを控えたこの旧校舎の窓の外はまだ明るかった。
第一期は、今回の第12話をもって完結となります。
第二期は、これまでの「2日に1回」の更新から「3日に1回」の更新へ変更させていただきます。
ここまでお読みいただき、誠にありがとうございます。
第二期もどうぞよろしくお願いいたします。




