ラブコメとは文化祭のことである。
ついに文化祭!!
クラス出し物は、たこ焼き!!
演劇部は、白雪姫の舞台をする!!
黒歴史にならないことを願いながら、
今日、俺は舞台に立つ。
今回、ラブコメとは文化祭のことである。
「ついに、この日が来てしまった……。」
そう呟き、雲ひとつない夏の空を見上げる。
「おーい、何言ってんだよ。ついに、この日が来てしまった……。って!」
うるせぇよ。盗み聞きすんな。
「そういうお年頃だろ。俺ら。」
そう言いながら、俺よりも随分と高い肩に手を置く。
やはり、この世界はラブコメなのだろうか。
--神楽陽人。明るくてやたら顔がいい、今日のような空にオレンジの髪がとても似合っている。
「山田ー!サボってんなよー。ほらっ!たこ焼き焼くよ〜。」
腕捲りをして、張り切った声を上げているこの能天気。
--神楽真昼。神楽陽人の片割れだ。オレンジ色の髪をふたつに結んで、いかにもラブコメの住人だ。
……同じ教室に双子がいるなんて、この学校設定ガバガバすぎんだろ。
油をひき、鉄板に生地を流し込む。
うん、俺にしては上出来だ。
「おいー、山田。見ろよ、あれ。」
黒川に声をかけられて指の先に目を向ける。
羽波さんだ。
文実の前衛的なオレンジのTシャツを着て、御剣と話している。今日の羽波さんには少しの隙もなかった。
「やべー、羽波さん、今日は文実のTシャツ着てんぞ。かわいいー」
相変わらず、下劣な感想を述べるこいつは秀斗だ。
「なんだか久しぶりな気がするな。」
そう呟くと、
「なんだよお前。毎日会ってるじゃん。」
そう怪訝な目線を向けられてしまった。
……俺は何言ってんだ。
シフトが終わり、俺は白雪姫の舞台の準備をする為に部室に来た。
「はぁ、気が重いな。俺ほんとにこんな格好で人前に……。」
そう口にすると、俺よりも顔色が悪い畠中が項垂れている。
「ついにこの禁断の猫耳をつける日が来るとは……。」
動揺しすぎで変なキャラに目覚めてしまったようだ。
「着替え終わったかしら、あら。畠中くん、とっても似合っているわね。」
魔王はニヤつきながら扉を開けた。
「うるせぇよ。羽波も早く準備したら。」
畠中は舌打ちをし、教室を出ていった。
いじられるのが嫌だと言っているのに、その格好で外に出る勇気はあるのかよ。
「じゃあ、俺も出るね。講堂で待ってるよ。」
そう言い、部室を出ようとすると、服の裾を引っ張られた。
「あ、あの……。コホン、いや。なんでもないわ。頑張りましょうね?」
はにかみ笑いをする羽波さんを不思議に思う。
何か言いたいことがあったのではないだろうか。
「うん、頑張ろうね。羽波さんは大丈夫?緊張してるの?」
そう声をかけると、
「大丈夫よ。さぁ、着替えるから早く出ていって。」
俺の背中をグイグイ押して、部室から追い出されてしまった。
「なんだったんだ……。」
『次の出し物は、白雪姫です。』
アナウンスが入る。
「さぁ、みんな。魅せてあげようか。」
そう魅惑的な笑みを浮かべる御剣と目が合い、頷く。
……ここまで来たら、やるしかないな。
俺の渾身の女装を見せてやる。
黒歴史確定だ。
「鏡よ鏡、この国で一番美しい女はだあれ?」
舞台袖から、舞台が始まったことを確認する。
『それは、白雪姫です。』
横でナレーションをしている加藤の顔を見る。相変わらず目が死んでいる。
「なぜ!あの狩人に白雪姫の内蔵を貰って食べたのに、なぜ!まだ白雪姫と言うの!」
「白雪姫はまだ生きているのね。あの狩人、いやもうそれはいいわ。きっとまだあの森にいるのね。絶対に許さない。」
そう高笑いする魔女は狂気そのものだ。
口から出そうな心臓を抑え、加藤に叩かれた背中の暑さを感じる。
はぁ、俺の番だ。
「おほほほ……。今日は空が綺麗だなー。ハァ、あ、猫ちゃん。ご飯ね、はい。どうぞ……。」
毎回恥ずかしいぞ。早く俺を毒殺してくれ。
「にゃーん……。ありがとにゃん……。」
畠中。お前も大変だな……。
「にゃんだ!お前は魔女だにゃん!ここから先は通さないにゃん!」
目がありえないほど濁っている加藤は、逆に世界観に合っていた。
「ええい、どきなさい!」
「にゃーん!」
加藤は魔女に払い除けられ、倒れる。
「あら美しい娘。このリンゴをどうぞ。」
俺はこの中身がすっからかんのリンゴを受け取る。
「まあ。美味しそうなリンゴ……。ありがとうございます。」
あとはこれを食べるだけだ。
ひとくちかじって、早々に倒れる。
もう俺を起こさないでくれ。
「おーっほっほっ!これで白雪姫はいなくなったわ!永遠にここでお眠りなさい。」
猫達に透明の棺桶に入れられ、羽波さんが顔を覗かせる。
何かを口ずさみ、高笑いをして舞台を去っていった。
……何を言ったのだろうか。
「あぁ、なんて美しいんだ。」
大きな歓声を浴びながら登場したのは御剣だ。
俺は今からこいつとキスシーンだ。最悪以外の何物でもない。
「近いんだけど、」
そう俺は小声で言い、必死に顔を背ける。
「こら、動かないで。」
御剣は俺の顔を掴み、残り三ミリと言ったところで顔を戻した。
俺は起き上がる。
耳を突き刺すような悲鳴を浴びた。
このままササッと退場する。
袖に戻った瞬間、全身の力が抜け、座り込んでしまった。
「先輩!大丈夫ですか?」
加藤が駆け寄ってくれる。
「あぁ、大丈夫。それより、ラストシーンのナレーションしないと。」
そう言うと加藤はハッとしてラストシーンを迎える。
俺は舞台袖から、青い髪をきらきらと靡かせている魔女を見つめる。
『魔女はその身が朽ちるまで、焼けた鉄の靴を履き二人の結婚式で踊りました。』
ナレーションが入り、スポットライトが当たる。
赤いスモークが地面を這い、その上で華麗に踊る魔女。このシーンは御剣の提案で一分半もの間続いた。
「あぁ……。なぜなの……。」
そう声が響き、魔女は倒れた。
……なんて話だ。
そう思い、観客席に目をやる。
数秒遅れて、大歓声が講堂に響き渡る。
「さぁ、行くよ。」
背中を叩かれ、御剣の後に続く。
幕が上がり、みんなで手を繋ぎお辞儀をする。
どうやら、大成功だったようだ。
横にいる羽波さんを見る、舞台の明かりに照らされ、少し頬が火照っている。
俺に気づき目が合う。
「やったね。」
そう満足気な笑顔で呟く。
あぁ……この人は本当にすごい。
そうして、幕が下がるまで四回目のお辞儀をした。
山田。良かったねぇ。




