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魔女の一族に生まれたけど、叔母達に家族を皆殺しにされて家を燃やされて神器も奪われたから、兄妹で『怪盗』になって奪い返すことにした  作者: ぽよみ30号
プロローグ

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殺戮


「あれぇ?お義姉ねえさん達、こんな時間にどうしたんですか?」


深夜1時45分。

昴はダイニングで恒、千夜と酒を飲みながら楽しく談笑していたが、玄関先に人の気配を感じ、玄関まで行ってみるとそこには春華と夏波が立っていた。


昴の姿を見て夏波は驚いた様な顔をしたが、春華は落ち着いた様子で「ちょっと、忘れ物をしちゃって……」と微笑んだ。


「ああ、そうですか。それなら僕が取って来ますよ。何を忘れたんです?」


昴が振り向いて家の中へと戻ろうとした瞬間、背中から胸にかけてが突然熱くなった。


「……え?」


胸の辺りを見ると、刀の切先のようなものが自分の胸から飛び出ており、その先端にはべっとりと血が付いている。


昴が首を動かして玄関の方を見ると、そこにいたのは「新月刀」で自分を突き刺している夏波と、「三日月ノ玉」を持った春華。


新月刀からは汚れた血の様な赤黒い光が放たれており、刀を持つ夏波の顔には薄汚れた笑顔が貼り付いている。


「な……んで……」


昴はその場に倒れながら彼女達に声をかけたが、二人とも何も答えなかった。


昴は義姉二人が神器を盗み、家族を殺そうとしていることを理解した。

だがそれを知らせようにも、もう動く事は出来ない。大きな声を出すことも出来ない。


なんとか動く唇を少し動かし、混濁した意識の中で、昴は最後の思いを口にした。


「こども、達……に、プレ、ゼント……渡さ、ない、と……」


昴はそれを最期の言葉として、自身の体から噴き出した血溜まりの中で絶命した。

昴の脳裏に最期に浮かんだ光景は、明日の朝嬉しそうにプレゼントの箱を開ける宵と彗の笑顔だった。


「プレゼントぉ?ああ、今日はクリスマスイブか」


夏波が刺し殺した義弟の体から刀を引き抜きながらそう言うと、春華はクスクスと笑った。


「ふふ、おやすみ昴さん。メリークリスマス……」


春華は倒れている昴の頭を優しく撫で、大きく息を吸った。

それと同時に、彼女の魔力が「三日月ノ玉」に込められ始めた。


勾玉は春華の魔力の色である、腐った沼の様な黒緑色の禍々しい光を放ち始めた。


『この声が聞こえた人間は、動く事が出来なくなる!!』


その瞬間、春華の声が聞こえた全員にその言葉は「真実」として受け入れられた。


春華は「さ、行きましょう」と土足のまま玄関を上がり、明かりがついているダイニングの方へと歩き始めた。


「は、春姉ぇ、待って、私も動けない……」


「わ、私もぉ〜……」


春華が振り向くと、そこには三日月ノ玉の力で動けずに固まっている夏波がおり、玄関の外からは情けない冬子の声が聞こえた。


「ああ、そっか。あなた達にも効いちゃうのね」


春華は再び勾玉に力を込め、『夏波と冬子は動ける様になる』と言葉を放った。


春華の声を聞いた二人は手足が動く様になったのを感じ、冬子はドタドタと巨体を揺らしながら家の中に入って来た。


「ブー子、鏡は見つけたの?」


「それが、医院のどこにも無くて……」


夏波が聞くと、冬子は首を振りながら答えた。


クリスマスパーティが終わった後、春華と夏波は帰るふりをして一度家の外に出た。

そして外で冬子と合流して、医院に忍び込んで神器を盗みに行った。

夏波が昼間のうちに両親と妹夫婦に昼食を届けに行く際に医院の中の目立たない窓を一つ開けておいたので、侵入は簡単だった。


しかし誤算があった。いつも三種の神器をしまってある隠し扉の中に、何故か「満月鏡」だけが無い。


計画を中止することも考えたが、春華が「三日月ノ玉と新月刀があれば問題ない。満月鏡だけなら、全員始末したあとにゆっくり探せばいい」と判断し、冬子には医院の中に鏡がないかを簡単に探すように命じて、二人は家の方に向かったのだ。


「……まあいいわ。私の魔法でもう誰も動けないし、一人ずつ始末していけばいい」


春華は二人を率いてダイニングに入った。

ダイニングには椅子に座っている千夜と、椅子から立ちあがろうとしたところで固まっている恒がいた。

二人とも動こうと必死に力を込めているのか、額に脂汗を浮かべている。


「はぁいお母さん、お父さん、メリークリスマス♪」


「は、春華……夏波、冬子!お前ら、どういうつもりだ!その神器はなんだ!」


恒が震えながら怒鳴ると春華はふん、と鼻を鳴らしながら髪をかき上げ、答えた。


「もちろん、神器をいただきに来たのよ。うちにある財産なのに秋奈が全部取って、姉妹がゼロだなんておかしいでしょ?」


春華の言葉に、千夜が大声をあげた。


「月詠家の魔女は、月光色の魔力の子が後継になる!先祖代々そうやってきた!何度もそう言って聞かせたじゃない!春華!」


月詠家の神器は、月詠家に産まれた女性が魔力を込めると、その魔女が持つ魔力に応じて光を放つ。

後継になれるのは月光色、つまり黄色い魔力を持つ娘であった。


秋奈も、千夜も、その母親も、月詠家の家督を継いできた魔女は全員が月光色の魔力を持っていた。


月詠家に産まれた娘は10歳の頃に初めて神器に触れ、魔力の色を確認する。

その時点で月光色の魔力を持つ娘は月詠家の魔女の後継候補として修行を始め、月光色ではなかった娘は、後継候補の娘の予備として一応修行をする。


「あーあーあー。その話はもう聞き飽きたよ、お母さん。でもおかしいと思わない?優秀な私じゃなくて、秋奈みたいなボンクラが後継なんて」


春華は続ける。


「医院を継ぐためには当然だけど医師免許が必要。お婆ちゃんとお母さんは医学部を出てたけど、秋奈はどこにも受からなかった。でも優秀な私はちゃんと医学部を卒業した。その時点で私は『継ぐのは自分だ』って確信したわ。だって、医者じゃなきゃ『医院』は継げないもの」


春華はワナワナと震え始め、「それなのに……」と、ギリギリと奥歯を噛んだ。


「お母さんは!私じゃなくて、秋奈を選んだ!ただ魔力が黄色いだけの、ボンクラ妹に!ああそうね、医者の男とうまい事結婚したから医院の相続には問題ないものね!」


春華は息を切らしながら続けた。


「子供の努力なんて関係ない!お母さんが見てたのは『魔力が何色か』だけ!!私が医学部に入る為に血を吐くほど勉強していたことも、必死に魔法の練習をしていたことも、全部関係なかった!私の努力は全部無駄で、ただ魔力が黄色かっただけの秋奈が選ばれた!!!」


春華は「……ああ、少し取り乱しちゃったみたい」と言って一度目を瞑り、何回か大きく息を吸った。


「というわけだからさ、私、同じく後継に選ばれなかったこの子達と一緒に神器をいただくことにしたの。よく考えたら魔法の力をチマチマと医療に使ってる方が勿体無いと気付いたの。ね♪」


春華が、隣にいる夏波に笑いかけると夏波が「そうそう」と笑った。


「新月刀を持ってから、私すっごく気分がいいの。この刀は体を治すだけじゃない。身体能力自体を何倍にも上げられる。ほら」


夏波が拳をダイニングテーブルに叩きつけると、テーブルはバキィ!と激しい音を立てて二つに割れて床に崩れ落ちた。


新月刀を持つ夏波は一般的な女性では考えられないほどの筋力、瞬発力を持ち、さらにテーブルに叩きつけられた拳にはかすり傷一つ負っていなかった。


「こんなすごいもので、他人の怪我や病気を治してるなんて本当に馬鹿馬鹿しい。神器の力があればなんだってできるのに」


夏波は笑い、それに同調する様に冬子も笑った。


「わ、私も!満月鏡があれば、絶世の美人になれる!私、女優になるの!」


三人が話している様子を見た千夜は「……はあ」と小さく息を吐いた。


「………首謀者は春華、計画を利用することにした夏波。冬子はお姉ちゃん達について来ただけね」


千夜の鋭い言葉に、3人は一瞬息を詰まらせた。


「あなた達は昔から変わらない。悪戯する時はいっつも春華が思いついて、夏波が利用して、秋奈と冬子は後ろからついてくるだけ。今回は秋奈はいないけどね」


「だ、黙れ!」


夏波が大声をあげたが、千夜は少しも怯むことはなく話を続けた。


「私はね、あなた達の魔力の色が大好きだった。春華は若葉のような翡翠色、夏波は燃えるような夕焼け色、秋奈は優しい月光色、冬子は海のような瑠璃色」


「嘘だ!お母さんは、秋奈の黄色以外はどうでもよかったに決まっている!」


春華が怒鳴ったが、千夜は娘を無視してふん、と鼻を鳴らしてから続けた。


「全員優しくて綺麗な色をしていたのに……それがなんだい。今のあなた達の魔力は、黒いヘドロの様なもので汚れている。昔から言ってるでしょう。魔力の色は魔女の心の状態が映し出される」


千夜の言う通り、春華が持つ三日月ノ玉からは腐った沼の様な黒緑色、夏波が持つ新月刀からは汚れた血の様な赤黒い魔力が漏れ出ている。

彼女達がまだ「少女」と呼ばれる年齢の頃に母親に見せていた、澄んだ魔力の色とはかけ離れてしまっていた。


「どれ、お母さんがまた綺麗な色に戻してあげようかね」


千夜は脚に力を込め立ちあがろうとしたが、春華の勾玉の魔法が効いている為、脚が動かない。


「ぐ、ぐうううう………」


千夜が力を込めると、千夜の体から月光色の魔力が溢れ出し、春華が持つ神器の魔法に逆らい始めた。


「なっ……『動くな!』『止まれ!』」


驚いた春華は慌てて三日月ノ玉に魔力を込め、言葉を発した。


しかし千夜は止まらず、ゆっくりと春華に向かって歩き始め、両手を春華の肩の方へと伸ばしてくる。


「ごめんねぇ、春華。あなたがそんな思いでいるなんて、お母さん…気付かなかった。だから、またやり直しましょう?」


千夜は止まらない。勾玉からの魔法を自身の月光色の魔力で跳ね返しながら、ゆっくりと近づいてくる。


千夜の手が春華の耳にまで迫ったとき。春華は「貸しなさい!」と夏波が持つ新月刀を取り上げ、そのまま母親の胸に突き刺し、引き抜いた。


「かはっ……!!げほっ……!!」


千夜の胸から鮮血が噴き出したが、勾玉の魔法の力のせいで倒れることはなく、そのまま絶命した。


千夜の遺体は両手を春華に伸ばしたまま固まっている。

彼女は自分が殺されると理解していたが、最期に母親からの愛を上手く受け取れなかった哀れな長女を抱きしめようとしたのだ。


「お前達……」


妻が目の前で娘に殺されるのを見た恒はもはや自分の命は諦め、堕ちてしまった三人の娘に向けて最期の言葉を発した。


「……春華、夏波、冬子。お前達三人はたとえここを乗り切ろうとも、必ず天罰が降る。お前達を裁く者が必ず現れるぞ」


ザシュッ


春華は新月刀で恒の首を刎ね、殺害した。


「魔力もない、ただの人間は黙ってなさい」


春華はぜいぜいと息を荒げた。

母も、父も殺した。

自分が後継に選ばれなかった時点でこんな家はどうでもいい、神器さえ手に入れば、と考えていた。

だが、母の言葉のせいでその思いに小さな陰りができた。


(……ダメ。ここで止まったら全部が無意味。秋奈を、秋奈を殺さないと……)


そう。月光色の魔力を持っていただけで後継になり、母の寵愛を独り占めした憎い妹。

自分も、夏波も、冬子も、秋奈さえいなければ母に蔑ろにはされなかった。これは、正義の復讐なのだ。


(あの子が全部悪いのよ。あの子が……)


春華は「いくわよ」と二人に言ってダイニングを出て階段を登り始めると、夏波は「はぁい」と楽しそうに返事をし、冬子は「お、おいてかないでぇ」と情けない声をあげ、震える脚で慌てて姉達の後を追った。

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