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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
閑話休題2〜使いこなせ闇の魔法〜

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天空の奇術師

「いいかぁ!今日という今日は!あのふざけた怪盗娘を捕まえるぞぉ!!」


「「「オウッ!!」」」


東条刑事の檄に、大勢の警察官が応じた。


ここはルミナス・ジェム博物館。

大きなドームのような形の建物で、一味違う珍しい博物館として人気を博している。


この博物館の一味違う点──それは、宝石が天井近くに吊るされるような形で展示されているということ。


下から見上げると黒い天井が背景となり、宝石を星とした美しい夜空のように見える。


ルミナス・ジェム美術館の一番の売りである「宝石の夜空」だ。


赤、青、緑、黄、白。様々な色の宝石たちが星を模して夜空を彩っている。


「あそこまで高い位置にあれば、奴と言えども盗むことはできないだろうな……」


怪盗Witch Phantomは空を飛ぶ──と思われがちだが、警察と熱心なネット上の有志によると「それは違う」という説が現在は濃厚であった。


空を飛んでいる怪盗少女は、実はホログラム……もしくは「現代科学では解明できない技術」によって作り出された幻影で、本物はどこかに隠れている。


これまで十数回、彼女の犯行を止められなかった警察はついにこの結論に辿り着いたのだ。


「確かに、空を飛ぶあの小娘をいくら捕まえても手がすり抜けた……飛んでいた怪盗は偽物で、本物のあの小娘は空なんか飛べないんだ!考えてみれば当たり前のことだな!わっはっは!」


よくよく考えてみるとこれまで盗まれた獲物はすべて地上に置かれたものばかりで、現場には正体不明のスニーカーの足跡などが残されていた。


本当に空を飛べるのであれば、足跡を残していくはずがない。


ならば結論は一つ。怪盗Witch Phantomは空を飛べない。


つまり、天井近くに吊り下げられた宝石を盗むことは不可能ということだ。


「どうだ、お手上げだろう!怪盗娘!今回は諦めて家に帰るんだな!わっはっは!」


東条は天井近くに吊るされた宝石たちでできた夜空の星を眺めながら、高笑いをあげた。


「……なーんてこと言ってるよ、お兄ちゃん」


『じゃあ何故怪盗がここに予告状を出したか、までは考えないみたいだな』


この博物館は「宝石の夜空」を深夜まで展示している。


そのため現場には警察官と博物館の客が混在しており、その客の中に紛れている一人の少女がイヤホンを使って何者かと話していたが、それに気がついた者はいなかった。


「あれ?いま何時?」


『23時58分、40秒だ』


「え、もうそんな時間?やばいやばい。さっき着いたばっかりなのに」


『やっぱり、予告を毎回0時ピッタリにすることはないんじゃないか?学校終わってからこうして車飛ばして来るとなると、距離によっては今日みたいにギリギリに……』


「はぁ……お兄ちゃんには本当に怪盗の美学ってもんがないね。いい?『怪盗は0時ぴったりにお宝を盗まなきゃいけない』ってちゃんと法律で決まってるの!」


『多分、実際の法律には「ものを盗んではいけない」って書いてあるぞ』


「うるさいなぁ……よし、準備OK。出るよ」


「ああ、気を抜くなよ」


──────────────────


今回博物館に集まっている客の目当ては、夜空に展示された宝石たちではない。


「はああ……Witch Phantomさまぁ……そのお姿をこの玲香にお見せください……そしてあわよくばこの私自身も盗んでいってください……♡」


集まっている客のほとんどは、怪盗Witch Phantomが目当てであった。


多くの者が、彼女のその姿を動画として残すためにスマートフォンを構えている。


ドーム状に建てられているこの博物館には8つの入り口があり、それぞれの入り口から入って来た観客は床を埋め尽くさんばかりに集まっており、天井を見上げている。


時刻は23時59分50秒となり、観客たちはカウントダウンを始めた。


それを聞いた現場の刑事が「やめろ!あと野次馬は帰れ!」と怒鳴るが、観客たちはやめなかった。


6,5,4,3……と大勢の合唱によるカウントダウンは進み、時刻はついに0時となった。


その瞬間、騒がしかった観客たちは一瞬だけ静かになった。


宝石の夜空を背景に、一人の少女が空中に姿を現したからだ。


それを見て観客と警官たちはそれぞれの反応を見せた。


「出たぞ!!怪盗だ!!空中に立っているぞ!!」


「慌てるな!あれはホログラムだ!本体は下にいるはずだ!」


「キャアアアアアアアアアア!!!!私を盗んでええええええええ!!!!」


怪盗少女はもはやお馴染みとなった月光色のカクテルドレス、夜空色のマント、極彩色の飾り羽と数多あまたの宝石で彩られたマスカレードマスクを付けている。


しかし熱心なファンは、彼女の腰に前回までは無かったはずの日本刀がげられていることに気がついた。


「……みなさん、こんばんは。今宵も私の舞台にお集まりいただきましてありがとうございます」


少女の名は、怪盗Witch Phantom。


空中に突然現れた彼女は、まずは観客たちに向かって深々と頭を下げて礼を言った。


「キャアアアアアアアア!!Witch Phantomさまぁ!!!また!この私に!キッスをしてくださいっ!!そしてあわよくば私を今夜の獲物にしてくださいいいいいい!!」


「………」


怪盗少女が観客の中にいる一際やかましい女子に、心から軽蔑するような冷たい視線を送ると、その女子は嬉しそうに声をあげた。


「ああ!冷たい目線!それもご褒美ですブヒイイイイイ!」


「っ……!」


それを見た怪盗少女は口元を歪めて露骨に嫌そうな顔を浮かべた。


そして怪盗少女はその女子を無視すると決めたのか、次は警官隊の方を向いた。


「そして警察官の皆さま。今宵も無駄とは分かりながらもご出動いただきありがとうございます」


皮肉が篭った怪盗少女の言葉だが、警察官たちはあまり彼女に注目している様子はなかった。


あれはホログラム──


そうだと知っている警官たちは、地上にいる本物の怪盗を探すために地上に目を光らせていた。


しかし怪盗少女はその様子を見て「ふふ」と少しだけ笑みを浮かべ、ゆっくりと夜空の星に向かって歩き始めた。


一歩、また一歩と、星空のダイヤモンドへと向かって登っていく。


「なっ……!」


それを見た東条忠雄刑事は、すぐに彼女がいつもと違うことに気がついた。


Witch Phantomは空を飛ぶときはフワフワと浮かぶように飛んでいた。

あんな風に、足を動かして空中を歩くようなことはしなかった。


(──もしかして、あれは『本物』では……!?)


東条は叫ぼうとして、口を開きかけた。


しかし──何を叫ぶ?


「空中に本物がいるぞ」と?

そんなことを言えば、部下たちは混乱するだろう。

そもそも、20メートルの高さにいる怪盗娘をどうやって捕まえる?


(くそっ……!)


東条にできるのは、いつもと違う方法で空を「歩く」怪盗娘を眺めることだけだった。


怪盗少女が歩いた跡には彼女の黒い足跡のようなものが空中に浮かんでいるが、人々の視線は輝く宝石を盗む怪盗少女の手元に釘付けで、薄暗さもあり彼女の足元の黒い影など誰も気づかなかった。


観客は夜空の星へと向かって歩を進めていく彼女に見惚れ、警官たちは地上にいるはずの「本物」を必死に探している。


「わぁ……すっごい綺麗……」


怪盗Witch Phantom──もとい彗は、新月刀の闇の魔法で天井近くまでを歩いて登りきり、自分の周りに大量に浮かんでいる宝石たちに見惚れていた。


『どうだ?神器はあるか?』


「んー、やっぱ見ただけじゃわかんないや。白い宝石は全部持ち帰るね」


『致し方ないか……』


彗は腰に提げている新月刀をシュラリと抜き、宝石を吊るしているワイヤーを刀で斬っていった。


そしてワイヤーを斬った宝石が下に落ちる前に手で掴み、背負っていたリュックにそれを詰めていく。


リュックは最初から透明にしてあるので、周囲の人間には見えていない。


「け、け、刑事。か、怪盗が……その、宝石を……」


「落ち着け!あれはホログラムだと言っているだろう!」


地上にいる警察官のうちの一人が東条に進言するが、東条は耳を貸さなかった。


「で、ですが!その、まるでリンゴ狩りでもするかのようにダイヤを……」


「ぐう……!!」


下から見える光景。

それはあのにっくき怪盗娘が、果物狩りでもするかのように宝石を掴み、ワイヤーを刀で斬り、どこかにしまってからまた次の宝石を掴む。


警察官としては、見ていて頭がおかしくなるのではないかというほど悔しい光景であった。


「んー、白い宝石はこれで全部かな?」


『よし、撤収だ。気をつけてな』


「あ、この黄色い宝石キレイ。ねえ、持ち帰っていいかな?ついでに」


『ダメに決まってるだろ。関係ないものは盗むんじゃない』


「ちぇー。じゃ、降りるかぁ」


怪盗少女は少し動きを止めたあと、天井近くからピョンと飛び降りるような動作をしたあと、観客の中心に向かって落下してきた。


ドレスとマントを翻しながら落ちてくる怪盗を見た観客の9割ほどは悲鳴をあげてその場から離れ、残りの1割は彼女を受け止めようと両手を広げて待った。


怪盗少女がいた天井付近の高さは20メートル近い。そこから落ちて来た人間とぶつかったら、大怪我では済まない。つまり逃げ出した9割の観客の判断は正しいと言える。


しかし、両手を広げて待っている1割の観客は微塵も怯えていない。「Witch Phantom様に潰されて死ぬなら本望」と言わんばかりの、覚悟が決まった表情でその場から一歩も動かなかった。もちろん、その1割の中には東条玲香も含まれている。


しかし、怪盗少女はその熱心なファンたちを踏みつけるようなことはなかった。


床から3メートルほどの高さで彼女は「何か」に着地し、落下は止まった。


そして彼女は3メートルほどの高さに浮いたまま、月光色の光に全身が包まれたあと、8人に「増えた」。


「それではみなさん、ご機嫌よう♪」


8人のWitch Phantomは観客と警察官にそう言って微笑んでから八方向に同時に走り出し、それぞれがこのフロアの8つの出口を目指した。


「お、追ええええー!!!」


「ど、どれをですか!?」


「全部だ!8手に分かれろ!!」


東条が叫ぶと、大勢いた警察官は8等分されてそれぞれの出口に向かって走った。


そして同じく、観客たちも怪盗を追ってそれぞれの出口から飛び出して行った。


どこまでがホログラムで、どこからが本物なのかは分からない。

だが、ここで逃すわけにはいかないと判断した東条はとにかく怪盗を追うように指示を出した。



☽ あとがき ☾


東条刑事は不運な男です。


「怪盗」なんて妙な泥棒の担当にされてしまった上に、Witch Phantomは本当に「魔女ウィッチ」だったのですから。



しかし彼は優秀な男です。


過去に怪盗少女が夜空を駆け回る様子をその目で見ながらも「人は飛ばない。あれは幻だ」という答えを出せたのですから。

これは、彗が持つ満月鏡の魔法を見破ったことに他なりません。



ですがやっぱり彼は不運な男です。


怪盗は今夜から、本当に空を駆けるのです──。


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