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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
閑話休題2〜使いこなせ闇の魔法〜

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スイ・ツクヨミと闇の魔術に対する防衛術

「今日も闇の魔法の練習だよ」


「え、2話続けるの?」


「あれ?お兄ちゃん。『話』ってなあに?」


「……なんでもない」


日曜日の朝。

ニヤニヤと笑いながら煽るように下から見上げてくる妹を手で押さえ、宵は朝食の片付けを続けた。


「昨日はさ、満月鏡の闇の魔法の『暗雲』をやったじゃん?」


「ああ、アイマスクと耳栓な」


宵は不機嫌そうに答えた。

昨日、3時間妹の寝顔を観察させられた恨みはまだ消えそうにない。シュークリームは美味しかったが。


「今日は、新月刀の闇の魔法をやるよ」


「ッ……!!」


宵は背中がゾワリと冷たくなるのを感じた。


新月刀の闇の魔法は、よく覚えている。

刀を振るいながら、影のような斬撃を飛ばして相手を両断する恐ろしい魔法だった。


夏波はあの技を「飛影刃斬ひえいじんざん」と呼んでいた。


「お、お前、あれをやるのか……?」


宵はゴクリと唾を飲んで彗に尋ねた。

あれが出来るとなれば、非常に強力で恐ろしい戦力となるだろう。


「いや、実はこっそり練習してみたんだけど……全然できなかったんだよね」


彗は「えへへ」と笑い、スマートフォンで宵に動画を見せた。


そこには深夜、アパートの駐車場で「ひえいじんざんっ!」と叫びながら、二人が買った軽自動車に向けて刀を振るっている妹の姿が映っている。


「おいお前、深夜にこんなことしてたのか!?またご近所さんに怒られるだろ!!あとこれ、成功したら俺たちの車が真っ二つになってたんじゃないのか!?」


彗は怒鳴る宵を「うるさいなぁ」と押しのけ、「出来なかったんだからいいでしょ!」とスマートフォンを取り返した。


「で、他になんか出来ないかなって思って色々試したんだけどさ。どうやら新月刀の闇の魔法は、さわれる『影』を作り出す魔法らしいんだよね」


「満月鏡の『暗雲』とは違うものなのか?」


「うん、全然違うみたい」


彗が言う通り、満月鏡が作り出す「暗雲」はそれで覆った範囲から光と音を奪うもので、雲のように形がない。

新月刀が作り出す「影」は直接触れる、固い物質のようなものであった。


「ん?触れる影……ってことは、それを作り出すことはできたってことか?彗」


「そうなんだよ……一応ね」


そう答えた彗の表情は、微妙に暗い。

飛ばす刃をやりたかったのに出来なかったのが悔しかったのか、と宵は妹の気持ちを推察した。


「じゃあやるよ。見てて。まずは黒い魔力を出すね」


彗は新月刀を掴み、黒い魔力を出すために心の中に負の感情を溜め始めた。


「お兄ちゃんが作るご飯が美味しいから、一緒に住み始めてからちょっと太り始めちゃった……ムカつく……!!」


「黒い魔力って、逆恨みでも出せるんだなぁ」


宵が感心していると、例によって彗の胸から黒い糸のようなものがニョロリと出た。


彗はその黒い糸のような魔力を新月刀に込め、魔法を発動した。


そして彗は「ふぅ」とため息をつきながら部屋の中を少し歩き、「終わったよ」と宵に言った。


「え!?何が起きたんだ!?」


宵は全く分からない。

刀から何かしらが出ると思っていたのに、全くそんな様子はない。


彼がキョロキョロと周囲を見ていると、彗が「下だよ」と床を指差した。


「ん!?なんだこれ!?」


宵が床を見ると、そこには妹の足の形と全く同じ形の真っ黒な足跡が残されている。

それは足の指の形までが綺麗に写されており、見事な足跡だった。


それを見て、彗は俯きながら話し始めた。


「なんか私さ、大西先輩にこの刀を渡されながら『闇に堕ちるな。そんなものは踏みつけて進め』って言われたのが心に残りすぎて……」


彗はゆっくりと顔をあげ、兄の目を見つめた。


その目には、諦めと悲しさが詰まっている。


「足の裏に『影』が具現化されるようになったみたい……」


宵は何も言えなかった。

敵はこれと同じ魔法で刀の影を具現化し、影の刃を飛ばす「飛影刃斬」という必殺技を使っていた。


その技に彗は手も足も出なかった。


だが、戦い自体はなんとか終わりこの刀を手に入れた。


彗は敵の必殺技を自分も使えるようになったはず、と思っただろう。


少年漫画に憧れ、彗は施設でもいろんな漫画をずっと読んでいた。

新月刀を手に入れてから今日まで、内心ウキウキで練習を重ねたのだろう。


それなのに、出来たことは黒い足跡を残せるようになっただけ。


妹の気持ちを考えると、宵はかける言葉を思いつかなかった。


「彗……」


宵が顔をあげると、妹の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「うえええ……お兄ちゃあん……」


彗が兄の胸に飛び込むために歩いてくると、その歩いた場所にさえ黒い足跡が残っている。


宵はその役に立たない「足跡」を見つめながら、悲しいのか可笑しいのか分からない感情のまま妹を受け止め、強く抱きしめた。


「私も刀からビュンッて飛ばす、かっこいい必殺技みたいなのやりたかったああぁぁぁ……!!」


「うんうん、残念だったな」


「『風の傷』とか『百八煩悩鳳ひゃくはちポンドほう』とかぁ!!刀から何か飛ばす技を私もやりたかったのにぃ!!」


「うんうん、やめような。そういうのはあんまり言わない方がいいと思うぞ?あとお兄ちゃん、伏せ字とか使ってくれると嬉しいなあ」


「オリジナルの技名も考えていたんだよ!?刀から三日月をたくさん発射して相手を一気に切り裂く、『月詠の魔女』にピッタリな必殺技!その名も!」


彗は大きく息を吸い込み、その思いを宵の胸にぶちまけるように大きな声で言った。


「『月の呼吸』!!!」


「うんうん、その技が完成しなくてお兄ちゃん本当に良かったよ。色んな人を敵に回しちゃうからな。出版社とか弁護士とか。しかも100%こっちが有責で」


宵は泣きじゃくる彗の頭を撫でながら、「何か妹の気分を変えられる方法はないか」と少し考えてから一つ思いつき、口を開いた。


「……実家、帰るか。刀を取り返したって報告もしないといけないしな」


─────────────────


「お母さん、お父さん、おばあちゃん、おじいちゃん、ただいま。新月刀……取り返したよ」


二人はアパートから実家までの道のりを歩き、彗は月詠家の先祖が眠る墓の前で、いつも通り話し始めた。


新月刀は持ち運ぶと目立つので、彗が普段剣道で使っている竹刀袋に入れて運んだ。


「今回は大変だったんだよ?新月刀は夏波が持っていたんだけどさぁ……」


彗は今回の奪還劇を最初から余すことなく墓に向けて話し始めたが、魔力が切れて夏波に挑発されたくだりを話すところで、ぴたりと口が止まった。


「……私、闇の魔法を使ったんだ。ごめんね」


そう話す彗の表情は沈んでいる。

だが家族に隠し事はしたくないという思いと、それでも神器を取り返したいという信念が目に宿っている。


「彗……」


宵は、家族に頭を下げる彗を悲しく思った。

あの場面では、闇の魔法を使わなければ殺されていただろう。


家を滅ぼした叔母と同じく闇の魔法を使った彗だが、それは家を繋ぐためにやったこと。

母も祖母も、絶対に彗を叱ったりはしない。


宵はそう確信しているが、辛そうに墓に頭を下げている妹に言葉はかけられなかった。


「あ、お母さんも、おばあちゃんも、きっと使ったことないよね。今見せてあげるね」


彗は「まずは負の感情で心を満たすんだよ」と言って、宵の方をチラリと見た。


「自分のツッコミを、たまに自分で面白いと思ってそうなお兄ちゃん……嫌だなぁ……全部私のギャグセンスのおかげで、『ツッコませてあげてる』だけなのに……」


「なんでそんな酷い言葉を思いつくんだ?あと負の感情を出すために毎回俺を使うのやめてくれないかな」


すると彗 (と宵)の心の中に負の感情が溜まり、彗の胸からは二本の糸のような黒い魔力が現れ、満月鏡と新月刀へと吸い込まれていった。


そして宵は魔女ではないので、妹の暴言により心の中に負の感情が溜まっただけで終わった。


「なあ、俺が傷つく必要あったか?」


「ほら、見てみて。アイマスクと耳栓だよ。あと足跡」


彗は満月鏡から出した暗雲で目と耳を覆い、足の裏に出した影で足跡を残しながら墓場を歩いた。


(しかし、闇の魔法と言っても役に立ちそうもないな……)


宵は墓の前でウロウロと歩き回る彗を見て、ため息をついた。


目隠しと耳栓になる「暗雲」を出す魔法と、「影」の足跡を残す魔法。


暗雲は敵に使えば上手く目隠しになるかもしれないが、相手が動くたびに位置を調整しなければいけないので使いづらいだろう。


そして黒い足跡に関しては、全く使い道を思いつかない。

怪盗という泥棒が「足跡を残す魔法」を使えるようになるとはなんて皮肉なことか、と宵は再び悲しい気持ちになった。


「ほらほら、これすごいんだよ。何にも見えないし聞こえないの」


月詠家の墓は少し高台にあり、すぐ近くが崖になっている。


彗は自分で出した暗雲で目隠しと耳栓をしたまま、歩き回りながら崖の方へと歩いていった。


「彗、あぶなっ……!!」


宵がそれに気づいて声をかけたが、彗の耳に付けている暗雲が彼の声を吸収してしまったため、意味はなかった。


「ッ………!?!?」


そして、宵は恐るべき光景を見た。


妹は、目隠しをしたまま崖の方へと歩いていった。


しかし崖の下へと落ちることは無かった。

崖の方へと歩いた彗は、落ちることなく空中を歩き続けたのだ───


「へへ、どう?お母さん。面白いでしょ?真っ黒な足跡が残るんだよ。まあそれだけの魔法で……なんの意味もないんだけどね」


──真っ黒な足跡を、空中に残しながら。



☽ あとがき ☾


1839年、ある男はとある「柔らかい物質」に執着していました。


その物質は一見すると何かに使えそうでしたが、夏にはドロドロに溶け、冬になるとカチカチに固くなり割れてしまうため、人々からは「役に立たないもの」と笑われていました。


しかしある日、彼は実験中のその物質を誤ってストーブの上に落としてしまいました。


溶けて終わるはずだったそれは、なぜか形を保ったまま、これまでとは違う感触……ブニブニとした弾性を示しました。


それが、現在「ゴム」と呼ばれている素材の始まりです。


最初は「使えない」と判断されたものが、ちょっとしたきっかけで大発見となるのはよくあることなのですね。


そう。彗の「足の裏に影ができる」という一見意味がないように見えた魔法は、実は「空中に足場を作る」という凄まじい魔法だったのです。

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