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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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怪盗少女の宣戦布告

20時。

それは竜司が果たし状に書いた時刻であり、全ての準備を終えた虎助が、月竜会を待ち構えている時刻であった。


「来ォへんな……」


虎助は、自室で大量のモニターを眺めていた。

そこには屋敷中に仕掛けられた監視カメラの映像が映っているが、屋敷の道路前を映している監視カメラには車の姿がない。


月竜会が来るとすれば、近くに車を停めて一気に門へと殺到するはず。


しかし20時となった今も、車が現れる気配は無い。


「──なっ!?なんや!?これ!?」


しかし、次の瞬間虎助は驚愕しながらモニターにかじり付くように近づいた。


庭を映しているカメラに、異変があった。


屋敷を囲んでいる塀の上が月光のような強い光に照らされたと思ったら、ずらりと20人ほどの人影が並んだ。


そしてその人影は全員、同じ格好をしている。


月光色のカクテルドレス、夜空色のマント、派手な装飾のマスカレードマスク。

そう。月虎会の屋敷の塀の上には、20人の「怪盗Witch Phantom」がずらりと並んでいる。


しかし普段の彼女の格好とは違い、今日は全員が腰に刀を差している。


20余名の怪盗少女のうちの一人が刀を抜き、刀身を夜空に掲げ、スゥと息を吸い込んでから全員に檄を飛ばした。


「行くぞォ!!月虎会のアホタレ共を、ボッコボコにいわしたれェ!!!!」


「「「「「オウ!!!!」」」」」


可愛らしい怪盗少女の一人が野太い声で檄を飛ばし、残りのこれまた可愛らしい怪盗少女が野太い声で返事をする異様な光景。


しかし虎助が口を開いて固まっていると、彼女(?)たちは塀から飛び降り、「ウオオオ!!」と雄叫びをあげながら屋敷へと突入してきた。


「き、来たぞ!?月竜会や!!たぶん!!!」


何人かの月虎会の組員が彼女(?)たちの襲撃に気付き、大声を張り上げた。


野太い雄叫びをあげながらなだれ込んでくる怪盗少女たちは、それぞれが思いを叫びながら次々に月虎会の組員に襲いかかった。


「うおおお!!!豪月組は、竜司組長のモンやァ!!覚悟せぇ月虎会ィ!!」


「月虎会なんか、金目当てのカスばっかや!!本物の極道を見せたれェ!!」


「まさか怪盗Witch Phantom様になれるなんて!!今日死んでも悔い無しやァ!!死ぬ気で戦うでェ!!」


怪盗少女の格好に変身した気合い十分の月竜会の組員に対して、月虎会の組員もまたその体から赤黒いもやのようなものを漂わせ、身体能力を強化している。


かくして「魔女の力を借りた極道」同士である月竜会と月虎会の抗争は、決戦の火蓋が切って落とされた。


─────────────────


(始まったな……)


宵は自分たちが関西まで乗ってきた軽自動車の中で、パソコンの画面を見つめていた。


「ほぼ全員が怪盗Witch Phantomの格好で突撃する」という作戦だが、敵の混乱を見る限り上手く行ったようだった。

「ほぼ」というのは竜司と彗、特別な役割がある者は姿を透明にして、独自に作戦を遂行することになっている。


パソコンは彗と組員たちにつけたカメラやマイクに繋がっており、宵は突入した月竜会と彗の現在位置や情報を把握し、全体を確認しながら細かく指示を出していた。


「竜司さんは作戦通りに虎助さんを探してください。彗はそのまままっすぐで、突き当たりを右。たぶんそこに新月刀があるはずだ」


『了解や。その調子で頼むでェ』


『おっけーお兄ちゃん。今のところ問題なしだよ』


宵の後方支援には大きな意味がある。

状況の全体把握が重要であることは無論だが、それよりも大事な役割が彼にはあった。


「ぐあああっ!!」


一人の組員の悲鳴が聞こえた。

宵が慌てて確認すると、剛田が負傷したらしい。モニターには月虎会の組員数人が剛田を取り囲んでいるのが見える。


「彗!剛田さんだ!お前の今の向きから9時の方向!」


『それってどっち?』


「左だ!!お茶碗を持つ方!!!」


『わかった、すぐやる!』


彗は左を向き、剛田の姿を頭に浮かべて魔法を使った。

すると、離れた場所にいる剛田は月光色の光に包まれたあとに姿が透明になった。


先ほどまで剛田を追い詰めていた月虎会の組員は、彼を見失った。


『あ、ありがてぇ……すまんな、魔女のねえちゃん!』


『いえいえー』


組員が窮地に追い込まれた際、彗はすぐに魔法でサポートすることにしていた。


満月鏡で魔法の効果範囲は50メートルほどであるが、それに加えて対象となる人間が誰であるか、そしてその方角が分からなければ魔法は使えない。


月竜会と魔女すいを繋ぐ役割を、宵は担っているのだ。


宵は当初「全員を透明にして突入しよう」と提案したが、彗が「全員透明はたぶんすごく疲れる」と言ったので、姿を消すのは別の作戦がある竜司と彗、そして負傷した組員に限られた。


『クッ……あかん!月虎組のやつら、ありえへんぐらい力が強なっとる!!体からは赤黒いもやみたいなもんも出とるわ!』


組員の一人の無線が聞こえた。


(やはりか……!)


宵の予想通りだった。

月竜会が満月鏡の魔法を使うように、月虎会は新月刀の魔法をかけられている。


そして今は満月鏡の魔法で姿を変えたり消したりしているが、基本的にこちらの方が不利。


新月刀の魔法で身体能力をあげている人間は刀や弾丸を避け、人を殴れば骨まで砕くほどの力を持つ。


既に何人かの月竜会の組員が、月虎会の組員の手によって倒れていく声が聞こえている。


その度に彗に指示を出して魔法で姿を消させて助けているが、戦況としては長くはもたないだろう。


「彗、やっぱり魔女を叩かないとダメだ!急げ!!」


『わかってるよっ!!』


怪盗少女は、今夜の獲物である新月刀の元へと急いだ。


──────────────────


「………………」


ここは静かな道場。

照明によって白く照らされた板間は美しく磨かれており、澄んだ空気がこの空間を満たしている。


そんな道場の中心にただ一人、和服の男が正座をして佇んでいる。

その男は顔に赤鬼の面を付け、自身の左側に「新月刀」を置いていた。


一人で静かに瞑想をしているような彼であるが、その胸中は血湧き肉躍るような感覚であった。


彼の名は、鬼坊。

今夜の彼は、一人の「怪盗」を仕留めるように豪月夏波から命令されている。


(早く……早く来い……)


彼は、怪盗を待ち焦がれていた。


(なんと、清々しい者よ……)


事前にこの刀を、堂々と「盗む」と宣言してから討ち入る。


女だと聞いているが、男でさえ小便を垂れながら泣き叫ぶような今の世で、これほどに堂々として外連味けれんみの無い者は珍しい。


しかも、彼女は魔女だという。

鬼坊は「魔女」というのは自分の代わりに他人を魔法で強化して利用する女のことだと考えていたが、今夜来る怪盗は違う。


魔力を自身に使い、その身一つで刀を奪いにくるという。


(早く……戦いたい……!正々堂々……一対一で……!!)


バァンッ!!!


道場の扉が音を立てて勢いよく開き、姿が見えない「何者か」が自分の方へと勢いよく走ってくる足音が聞こえる。


「来たわよ」


「承知」


鬼坊は夏波に返事を返し、新月刀を手にした。


夏波はいつも鬼坊と仕事をするときと同じ、喪服のような黒い服を着て、黒いベールが垂れた帽子を被っていた。


彼女は道場の扉を閉め、鍵をかけた。

月虎会の敷地内にあり、普段は夏波と鬼坊が魔法の練習に使うこの道場は入り口が一つしかなく、窓はない。


つまり一度鍵をかけてしまえばここは密室となる。

夏波から鍵を奪い、再び開錠しなければもう出られないのだ。


「でりゃあああああああああっっっっっ!!!!」


姿が見えない何かが、鬼坊に迫ってくる。


(この気配は……上っ!!)


彼がそう判断し、鞘に入ったままの新月刀を頭の上に掲げると、ギィン!と音が響き新月刀は何かにぶつかった。


「はは、やっぱ……そう簡単にはいかないよね?」


「むんっ!」


鬼坊が刀を横に振るうと、姿が見えない何かは大きく後ろに飛んでそれを躱し、月光色の光を放ったあとに姿を現した。


彼女が身につけているヒラヒラとはためく黄色い服や、背に纏っている黒いマント、顔につけている派手なマスクは、彼にとってどうでもよかった。


鬼坊が注目したのはただ一つ、彼女が持っている武器のみ。


彼女が持つ武器──それは、彼が大好きな「刀」であった。


怪盗は刀一本を携えて、敵陣のど真ん中であるここに、たった一人で乗りこんできたのだ。


自分と戦い、この刀を奪うために──!!


「──最高だッ!最高だぞ!貴様ァ!!!たった一人で!!その刀を持って!!この私に挑みに来たのだな!?」


彼は興奮を隠す様子もなく、大声で嬉しそうに怪盗に声を放った。

しかしその声は威厳に満ちた低い声であり、決して軽口には聞こえなかった。


「気に入った……本当に気に入ったぞ、怪盗!名を名乗れ!この私と、本気の『死合い』をしようぞ!!」


鬼坊は刀のつかを掴み、シュラリと音を立てて新月刀を鞘から抜いた。

彼が10年間使い続け、多くの者をその手で斬ってきた愛刀だ。


そして怪盗少女は、その刀の鞘に刻まれた三日月のマークを確かに見た。

それは月詠家の家紋であり、その刀が彼女の一族のものである何よりの証。


「ぐっ……!」


刀を抜いた赤鬼面の男は途轍もなく強い気迫を放ち、気が弱い者であればそれだけで気絶させてしまいそうな、ビリビリと痺れる雰囲気を纏っている。


この男は、強い。

幾重もの勝負に勝ち、確かな実力と自信を身につけている強者である。


怪盗少女は彼の姿を見て、声を聞いただけでそれがわかった。


「シィッ……!」


鬼坊が間合いを詰めて横に薙ぐように新月刀を振るうと、彼女はそれを後方へ跳ねるように躱し、空中で一度回るように身を翻してから華麗に着地した。


「ほう……」


少女剣士の猫のように身軽な動きを見た鬼坊は、今から始まる戦いが楽しめるものであることを確信し、赤鬼面の下でニヤリと笑みを浮かべた。


そして面の下で笑う男とは対称的に、彗はマスクの下で頬に冷や汗を垂らした。


(この赤鬼マン、たぶん超強い……!でも、怯んでなんかいられない!)


彗は大きく息を吸い込んだ。


「……私は、怪盗Witch Phantom!」


怪盗少女は赤鬼面の男の気迫に怯むことなく、持っていた刀の切先を彼の首に向け、大声で名乗りをあげた。


「あなたが持つその刀は、私たちのもの!!絶対に返してもらうよ!!」

敵は最強剣士と闇の魔女。


強いし怖いし恐ろしい。


だけど怯えてなんていられない。


何故なら彼女は確かにそこに見た。


兄妹ふたりで探し続けた新月刀──!!

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