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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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バッサリいってしまうかもしれへんけどなァ?

「さてと……ほな、話してくれるか?兄ちゃん」


「ハイ……」


宵は事務所の中に置いてあったソファの上に座らせられ、小さなテーブルを挟んで向かい側に置かれたソファに「組長」と呼ばれた男が座った。


『安心してね、お兄ちゃん。私は近くにいるからね』


どうやら車の上に貼り付いてここまで来た妹は、体を透明にしたままうまくこの事務所の中に入り込んだらしい。


孤立無援に見えるこの状況で、魔女の妹がそばにいてくれることは宵にとって心強かった。


「ワシは『豪月竜司ゴウゲツリュウジ』ってモンや。職業は……せやな。街のみんなを助ける何でも屋さんや」


細身の男はゆっくりと口を開き、自己紹介を始めた。


『何でも屋さんだって。意外と良い人なのかな?』


(いやヤクザだろ!)


宵は竜司の軽口につっこむことも、イヤホンから聞こえる妹の抜けている言葉にも反論できず、震えながら口を開いた。


「えっと……中村、ヨイです……学生です……」


「ほうか、学生さんかぁ。ほんで、わざわざ中村クンがこんなところまで遠出してきて……あんな怖い事件が起きた現場におった理由を、聞かせてくれるか?」


『え、なんで私たちが遠出してきたってわかるのかな?』


宵は、おそらく自分の言葉に関西の訛りがないことから竜司はそう判断したのだと察した。


竜司は頭の回転が速い男なのだろう、と宵は思った。


(ヤバい……どうする……!?どうやって誤魔化す……!?)


宵は頭の中をフル回転させた。


正直に「実は魔女の一族の末裔で、魔法を追いかけてやって来ました」と話すわけにはいかない。


しかし、まるっきり作り話をすればこの男にはすぐに見破られるだろう。


そして黙っていてはこちらも情報が手に入らない。なんとか怪しまれずに話をして、相手からも情報を引き出す必要がある。


「フンッ!!フンッ!!!」


「!?」


背後から野太い声が聞こえて振り向くと、先ほどの筋肉質の男が上半身裸で日本刀をブンブンと振り回すように素振りをしている。


「ああ、そいつはそうやって日本刀ポンとうで素振りをするのが趣味なんですわ。お客さんは斬らへんようには注意しとるから、大丈夫。ただ──」


竜司は眼鏡を人差し指でクイ、とあげて言葉を続ける。


「──もしここで適当にホラを吹く悪い奴がおったら、間違ってバッサリいってしまうかもしれへんけどなァ?……まあお兄さんは誠実そうやから関係あらへんか。気にせんとって」


(ひいいぃ!?)


それは「嘘をついたら殺す」という、わかりやす過ぎるとも言える脅し。


『よかった、お兄ちゃんには関係ないって!』


そして、妹は竜司の言葉の裏を全く拾えていない。

彗に少し黙っていてほしいという気持ちと、怖いのでもっと話しかけてほしいという気持ちが宵の心の中で揺れていた。


「お、コーヒー入ったか。まあ飲んでや」


竜司がそう言うと先ほど車の中で宵の隣に座った小柄な男が、宵の前のテーブルにコーヒーを置いた。


そのコーヒーはゴポゴポと音を立てて沸騰しており、とても飲める様子ではない。


「ま、コーヒーが冷めるまでゆっくりお話ししようや」


「ッ……!!」


それは、「時間はいくらでもあるからな、逃がさないぞ」という脅し。


『うわあ、関西の人ってあっついのが好きなんだねぇ。わたし絶対こんなの飲めないや』


そしてやはり、妹には通じていない。

少しその性格が羨ましいと宵は思った。


(……よし!)


少しできた時間の間に、宵は頭の中で話をまとめた。

作り話でもなく、かつ相手から情報を引き出すための口実ができる言い訳を作った。


「えっと……僕、新都しんと大学の『ミステリーサークル研究会』に入っておりまして、事件やオカルトチックなものを調べているんです」


「いや『ミステリーサークル研究会』なら事件やオカルトやなくて、小麦畑とかにできた謎の模様を研究してるってことになるやろ」


(俺もそう思う)


宵は竜司のツッコミに少し怯んだが、「いえ、事件やオカルトを調べています」と返した。


「………」


竜司が少し無言になって小柄な男に目で合図すると、小柄な男はポケットからスマートフォンを取り出して何かを調べ始めた。


『わ、お兄ちゃん。この人「新都大学 ミステリーサークル研究会」で検索してるよ!』


透明な彗が回り込んで小柄な男のスマートフォンを覗き込み、宵に報告した。


先ほどの竜司の合図は「裏を取れ」というサインだったのだ。


『あ、明智江戸川金田一が作ったホームページ見てる!』


小柄な男は宵の話が嘘ではない事を確認し、竜司の方を見て頷いた。


「スマンなぁ、あんまりにもオモロい名前のサークルやったもんでちょっと確認させてもろたわ。でも大丈夫、続きを聞かせてくれるか?」


竜司はそう言って宵に笑いかけるが、その眼光は鋭い。


「……え、ええ。それで……」


(抜け目ない性格だな……)


宵は少しでも言葉を誤れば死ぬことになるかもしれない……と、竜司の態度を見て、そして背後の男が「フンッ!フンッ!!」と日本刀で素振りしている音を聞いて思った。


「ネットで有名になった例の動画を見て、調べてみようと思ったんです。僕らが調べたのがコレなんですけど……」


宵はそう言ってカバンの中から、明智が作ったレポートを取り出して机の上に置いた。


「ほう……」


竜司はそれを手に取り、読んだ。


そのレポートには例の動画が偽物ではないことと、あの場所で行われたものであるということが証拠付きで詳細に書かれている。


「よう調べたなァ、大したもんや」


竜司は素直に感心した様子で、紙を机の上に置いた。


「なるほどなァ、キミは不思議な事件を追うてるミステリーマニアってとこか……」


宵は竜司の態度が少し軟化したのを見て安心し、「はい」と答えた。


「どうやら、月虎会げっこかいが雇ったスパイとかではなさそうですね」


「ああ。虎助んとこは無関係やな、たぶん」


小柄な男と竜司の会話から、宵は小さな情報を二つ拾った。


まず「月虎会」という組織……おそらくここと同じくヤクザの組織が存在すること。


そして「虎助んとこ」という言葉から、それがある程度近しい間柄の組織だということもわかった。


宵はもっと知りたいことはあるが、こちらからその手のことを質問して答えさせるのは難しい。下手をすれば殺されるかもしれない。


「えっと……それで、その紙に書いてある通りあれはAIでもフェイクでもない。つまり『常識を超えた何か』なんです。それを知りたくて俺はやって来たんですが……何かご存知ありませんか?」


「……うちに帰りィ、中村クン」


竜司は宵の質問には答えることはなく、事務所の入り口の方を顎でクイと指した。


「え?」


「この件はなァ、君みたいな一般人カタギが首突っ込んでええ話とちゃうねん。ワシらヤクザ同士の内輪揉めや」


竜司は目の前の若者が一般人と分かった以上、もう話をする気はなかった。


「で、でも!あんな、刀から刃が飛ぶような現象は……あなた達でも、何が起きてるか分からないことでしょう?」


ここで追い出されてしまえば一気に新月刀は遠のく。そう考えて宵は食い下がった。


「それは普通の学生のキミもおんなじやろ。ほら、はよ帰ってミステリーサークルでも調べに行きィ。なんなら、知り合いの小麦畑紹介したってもええで?」


(ぐっ……ダメだ、もう相手にされていない……)


一般人は巻き込まないという竜司の判断は正しく、宵も納得できる。だから、反論も食い下がる理由も思いつかない。


「骨川。なにぼさっとしとんねん。この兄ちゃん、駅まで送ったれや」


竜司がそう言うと骨川と呼ばれた小柄な男は「はい」と返事をして、車の鍵を取りに別室へと姿を消した。


「ほな兄ちゃん、すまんかったなぁ。明日から学生らしく勉強に励んでくれや」


竜司は宵に向けてヒラヒラと手を振り始めた。

彼の眼鏡の奥に見える細い目は、完全に宵への関心を失っている。


(くっ、ここまでか……?もっと、情報を……でも、下手な事を言えば何されるか分からない以上は……)


宵は竜司の態度から、もっと粘りたい気持ちがあるがそれが難しいこともわかっていた。


「ぐっ……!」


これまでか、と宵が諦めかけたそのとき──


「フッフッフッフッフ……」


「な、なんや!?その光!誰かおるんか!?」


──宵の背後で、月光色の光に包まれながら一人の少女が不気味な笑いと共に姿を現した。


その姿は淡い黄色のカクテルドレス、夜空色のマント、宝石が散りばめられて極彩色の飾り羽が付いたマスカレードマスク。


「なっ……バカ、お前!何考えてッ……!」


「お話を終えるのはまだ早くてよ?ヤクザのお兄さん……」


現れた怪盗少女は口元にニヤリと不敵な笑いを浮かべ──


「まだ……私の話を聞いてないでしょう?」


──膝をこれでもかというほど、ガタガタと振るわせていた。



☽ あとがき ☾


ヤクザの事務所に連れ込まれ、背後には日本刀で素振りする男、机の上には沸騰するコーヒー……これでもかというほど脅されている宵ですが、その思考能力を落とさずに竜司の追求をかわしながら情報を集めています。


極限状態でも思考を鈍らせない宵の勝負強さ。

それは、10年前に春華たちに殺されそうになりながらも冷静に戦い、子供たちを守り抜いた秋奈の姿によく似ています。


彗の「魔力」のように分かりやすいものではありませんが、彼もまた母から素晴らしい才能を一つ、受け継いでいるのです。

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