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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
ジンギなき戦い

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47/72

母からは魔法を、父からは──

本日(2026/1/29)から、「あとがき」に小ネタを書くことにしました。


また、この47話からだけでなく1話-46話までもあとがきを追加しました。(あったりなかったりですが…)


本編に書かれていない設定や、彗や宵の施設で暮らしていたころ、各キャラクターの過去の話などを書いていますので、現在最新話まで読んでいただいている方ももしよければ覗いてみてくださいね。

「おいッ!中村ッ!!真面目にやれ!!こらっ!!」


顧問の田中が声を張り上げるが、彗は聞いていない。


正確には、「聞こえていない」。


彼女はいま、東条が自分に向けて間合いを詰めてくるその一瞬のみに集中して待っているのだ。


(……突き、か)


東条は彗の狙いを正確に見破った。

自分がここから少しでも彗に打ち込むそぶりを見せれば、彼女の剣先が自分の喉を突く。


彗は東条に体力や力、技術で劣ると判断し、捨て身での一瞬の勝負に全てを賭けたのだ。


(この発想の柔らかさと判断力、そして動きの読めない剣……どこかで……?)


東条は10年以上前、まだ自分が特連プロとして剣道をやっていた頃に似た剣道をする男を相手にしたことを思い出していた。


(まあいい。今はこの子に集中だ……しかし、すごいな)


東条は彗の狙いと勝負強さ、そして発想の柔らかさを評価した。こんな女子高生は普通いない。


剣道は人生が反映される。


そして東条はこうして剣をわせば、その人間がどういった人生を歩んできたかを知ることができると考えていた。


(おそらくこの子は……この歳で多くの修羅場を潜っている)


この歳の子供では想像できないほどに辛いことや、苦しいことがあり、この子はそれに立ち向かってきたのだろう。


とても立派で、強い子だ。


(だが、まだまだ若いな!中村さん……!)


東条が間合いを詰めた瞬間、床の近くまで降ろされていた彗の剣先はとてつもないスピードで東条の喉に迫った。


その場にいた部員や顧問はその動きを全く見ることはできなかったが、東条だけはその弾丸のような剣先を視認した。


(ぐっ……!!)


東条は紙一重でその剣先をかわした。


彗の剣先は、東条の首の皮を薄く切りながら彼の背後へと通り抜けた。


(うそっ……!?)


捨て身の一撃を外してしまった。


当たった……いや、絶対当てたと確信していたのに。


彗が外した理由──。


それは東条刑事の反応速度が、彼女のこれまで対戦した全ての相手よりも大きく上回っていたこと。


隙だらけになった彗に、東条は一瞬で間合いを詰め、竹刀を打ち込んだ。


バシイイイインッ!!


東条が使った技は、「胴」。彗の右腹を斬るように竹刀を振るった。


しかし、


「ふんぎいいいい!!!」


彗は驚異的な反応速度と運動神経をフルに使い、自分が左手で持っている竹刀のつかを使ってそれを防いだ。


先ほど全速力で前に「突き」を放った竹刀を引き戻して防御に使うのは骨が折れたが、負けず嫌いの彗は意地でそれをやってのけた。


しかし──


ズパアアアアアアアンッ!!!


──東条は流れるように体勢を直して彗の「逆胴」を、左腹を斬った。


東条は高速で「X」の文字を描くように竹刀を振るい、その二撃目で確実に仕留めたのだ。


「ッ………!!!」


彗は防具から伝わる左腹の衝撃に、完全な「敗北」の感触を味わされた。


────────────



「スイッ!!すごいよ!!あんた、ほんとに!!」


「はぇ……?」


東条との死闘を経て汗だらけになった彗が防具の面を外すと、玲香が勢いよく駆け寄ってきた。


「お父さんがあんなに本気でやってるの、私が子供の頃以来だよ!お父さんを剣道で本気にさせちゃうなんて、すごいよスイ!!」


「あぁー……?」


彗は呆けた顔で玲香を見ることしかできなかった。

彼女は先ほどの勝負で集中力を使い切り、今は何も考えられない状態であった。


「中村さん、見事だったぞ」


「東条、刑事………」


彗が顔を上げると、目の前に東条が立っていた。その表情はとても晴れやかに笑っている。


「でも、私、負けちゃって……」


「え?」


東条は少し驚いた顔をした。

女子高生が六段の男に負けて本気で悔しがっていたからだ。


だがその負けん気と意地の強さは武器になる、と東条は思い少し微笑んでから彗の頭を撫でた。


「実は最後の技はね、私の警察の先輩が使っていた技なんだ。君たちもよく知っている人だよ」


東条がそう言うと部員たちはざわめいた。

何故なら、自分たちが知っている警察の人間などいないからだ。


「はっはっは。みんな、勘が悪いな。ほら、あの人だよ」


東条がそう言って指差したのは、神棚に飾ってある「大西先輩」の写真。

過去に望が丘高校から唯一のインターハイ優勝を成し遂げた人物だ。


「あの人は私より随分歳上で、とんでもなく強かった。私も若い頃はよくしごかれたものだ」


東条は「はっはっは」と笑い、続ける。


「あの人の必殺技が、さっきの『十字胴じゅうじどう』というわけだ。漢数字の十……というよりはアルファベットのXを描くように、左右の胴を二連撃で斬る……私のは猿真似だが、大西先輩のはすごい威力だったよ」


部員たちと顧問の田中は東条の話に感心するように頷きながら聞いていた。


「そうだ、中村さん。最後の捨て身だがね……どうせ捨て身にするなら下段げだんに構えるのではなく上段じょうだんに構えたらどうだ?」


「上段……ですか?」


上段、というのは竹刀を頭の上に振りかぶった状態で戦う構えのことだ。


「ああ。下からだと『突き』ぐらいしか狙えないが、上からなら『面』や『小手』も狙えるし力も速さも乗る。まあ、もし外したらさっきみたいな防御はできないがね」


東条はニコリと笑う。


「攻撃力は増すが防御力は下がる……といった選択肢だが、君の性格には合っているだろう」


「ああー……」


彗は頭の中で想像した。

そして「確かにどうせ捨て身なら、攻撃力が上がる方が良さそうだ」と彗は判断した。


「ありがとうございます。次はやってみます」


「うむ。またやろう。楽しみにしているぞ!」


その日の稽古はそこで終了となり、各々が着替えて帰路につき始めた。


─────────────────


「あ、中村さん!ちょっと!」


「?」


着替え終わり、彗が帰ろうとしていると東条に呼び止められた。


「最後に一つだけ、いいかい?」


「え?な、なんですか……?」


彗は背筋が冷たくなるのを感じた。

東条は怪盗Witch Phantomを追う刑事。

もしかすると今日のことで何か勘付いたのかもしれない、と彗は嫌な想像をした。


何せ彼の娘である玲香は、彗と怪盗が同じ体だと気付いた女。

東条も何か鋭い気づきがあったのかもしれない。


「いや、もしかすると君には関係ないかもしれないが……」


「ッ……」


彗はゴクリと唾を飲んだ。


「月詠先生を知っているかい?昔、隣町で医者をしていた」


(!?)


彗は驚愕した。

月詠とは、彗の本当の苗字。

そして東条が言っているのは自分の父のことだ。


「あ、えっ、あの……はい……」


彗は嘘をつけなかった。


「『鷹宮先輩』は学生時代、すごい剣士でね。実は私の大学の先輩なんだ。結婚して『月詠』という苗字に変わったが、変幻自在な竹刀捌きをする人だった」


東条は空を見上げたあと、懐かしむように頷きながら話した。


彗は父親の旧姓は忘れていたが、間違いなく父のことであると確信した。


「君の剣は鷹宮先輩の……月詠先生の剣によく似ている」


「ッ………!!」


「下の名前はたしかスバル……だったかな。月詠先生は君の剣道の師匠か何かだったのかな?」


彗は胸が熱くなるのを感じた。

自分の剣が、父親に似ている。


母親からは月光色の魔力を引き継いだが、父親との繋がりはあまり感じられていなかった彗にとって、東条のその言葉はあまりに嬉しく、胸を打つものであった。


「……はい。おと……あ、いや、月詠先生は……私が、剣道を始めるきっかけになった人です……」


彗は言葉に詰まりながら、なんとか答えた。


「おおー!やっぱりそうか!!じゃああれか、君は小さい頃は隣町に住んでいたんだね?」


「はい……」


隣町に住んでいたことと、月詠家と関係があると刑事に話してしまった。

そんなことは宵に知られたら大目玉だろう。

だが、彗はこのことについて誤魔化したり嘘をつくことはどうしてもできなかった。


「うっ……あ、しまっ……ぐすっ……!」


彗は唐突に父の話を切り出され、かつその剣が自分に引き継がれているという驚きと嬉しさに、思わず涙が溢れた。


(ヤバい!こんなところで泣いたら、怪しまれちゃう……!)


彗は焦ったが東条は怪しむような表情は見せずに、彗の顔をまっすぐに見つめたまま、悲しい表情を浮かべた。


「……ああ。そうだ。月詠先生とそのご家族が亡くなった火事……あれは、本当に痛ましくて残念な事件だった。剣の師匠を失った中村さんの心情は察するに余りある」


東条は、彗の涙の理由を「師匠を失った悲しみ」と推測したため、彗を怪しむようなことはなかった。


「……すまない。悲しいことを思い出させてしまったね。だが、君の剣には師匠である月詠昴の剣が確かに引き継がれている。それを心にしまっておいてくれ」


「は、はい……!!ありがとう、ございます……!!」


彗はボロボロと涙をこぼしながら、東条に礼を言った。


その礼は深く、心からのものであった。

それほどに東条の言葉から得たものは彗の心を熱く、重く叩いた。


「スイー、一緒に帰ろ……ってギャー!!なんで泣いてるの!?お父さん何かしたの!?」


着替えを終えた玲香が現れ、父親を押し退けて彗に抱きつくように肩を掴んだ。


「い、いや、すまない。過去に稽古をした素晴らしい剣士に、中村さんが似ていたものだから……」


「もう!デリカシー無いんだから!!お父さんは先に帰っててよ!!ほら、スイ。大丈夫だよ。私の部屋行こ?私が……慰めてあげるから……!!」


「ヒッ……!」


彗は玲香の言葉から、怪盗Witch Phantomのグッズだらけの部屋とスタンガンを思い出し、血の気が引いた。


「ほら、ね?行こ?私の部屋。ね、何もしないからさ、ほら!あ、服が涙で濡れてる!でも安心して、『着替え』もあるよ!」


玲香の顔は少しの興奮と狂気が浮かんでいる。

慰めることにかこつけて、また彗にコスプレをやらせようとしている魂胆が、口の端から垂れてきている涎から察せられた。


「ちょ……東条刑事!怪盗より先に自分の娘を逮捕した方がいいですよ!ほらぁ!」


「ん?よくわからんが、娘と仲良くしてくれてありがとう。それでは、私は玲香の言う通り先に帰るとするかな」


東条は彗の尋常ではない様子を見ても特に何かを察することはなく、子供のじゃれあいだと判断し、帰り支度を始めた。


「ちょっとお!!怪盗なんかより玲香こいつのがずっとヤバいんだって!!ねぇ!!」


「ふふ、大丈夫。スイ、大人しくしてたら痛いことはしないから。ほら、いこ?ね?」



☽ あとがき ☾


宵と彗の父である昴は剣道が強く、大学では医学部に在籍しながらも全国大会の常連でした。


ある日昴が大学の道場で稽古をしていたところに、看護学部に在籍していた秋奈が通りかかり、秋奈は彼の豪快で流麗な剣捌きを見て一目惚れしました。


そして月詠医院を継ぐために医者の婿が必要という事情もあった秋奈は昴に猛アタックを仕掛け、最終的には昴から婚約プロポーズさせることに成功しました。


彗がすばるから引き継いだ「剣」は、あきなの恋の始まりでもあったのです。

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