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魔女の末裔、怪盗となり月夜に舞う  作者: ぽよみ30号
閑話休題〜月詠兄妹と愉快な人たち〜

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33/50

初秋の候、朝夕にはようやく涼風を感じる折、皆様におかれましては、ますますご清祥のことと心よりお慶び申し上げます。

「あーあ、またハズレかぁ……」


満月鏡の奪取に成功してから数週間後。


彗は、宵が運転する車の助手席で今夜の『獲物』であった大きなダイヤを眺めていた。


それは二人が探している神器の一つ、「三日月ノ玉」によく似た大きさと色のダイヤモンドであったが、彗が魔力を込めても何も起こらないただの石であった。


「仕方ない。また警察にこっそり返しておこう」


彗と宵は、「怪盗Witch Phantom」としてここ1ヶ月半ほどは何度も刀や半透明の宝石を博物館や美術館から盗んでいた。


しかしその中に神器はなく、毎回警察に謝罪を込めたメッセージカードと共に返却していた。


「でもお兄ちゃん、いいの?前は危ないからあんまり目立つなー、とか言ってたくせに。連日連夜のワイドショーは怪盗だらけだよ?もう」


彗が言う通り、8月に劇場に初めて現れてから連続で犯行に及んでいる「怪盗Witch Phantom」がテレビに報道されない日はなかった。


月光色のカクテルドレスと夜空色のマント、派手な宝石が散りばめられたマスカレードマスクをトレードマークとした女怪盗が、獲物を盗んでは突然体を透明にして消えていく映像が連日テレビを騒がせていた。


「まあ私は楽しいからいいけどさ、お兄ちゃんがこんな作戦に出るのはちょっと意外だったよ」


彗は盗んできたダイヤを指先に乗せ、クルクルと回した。

時価数億円のダイヤモンドではあるが、神器でないのであれば彼女にとってはただの石である。


「……仕方ないだろ。春華も夏波もどこにいるかわからないんだから。俺だってこんな危険なことは一刻も早くやめたい」


満月鏡を取り返してから、宵は次の神器を取り返すために作戦を考えた。


しかし冬子のときのように偶然出会える可能性は限りなく低く、また宵と彗が自力で出来る調査で二人を見つけられる可能性も、同様に限りなく低い。


そんな中、宵は危険な作戦を思いついた。


「もう、魔法で目立ちまくって向こうから現れてもらうしかない」


今やあらゆるメディアで、「予告状を出し、月光色の光を放ちながら現れ、姿を消す怪盗」は紹介されている。


そしてそれは、月詠家の魔法を知っている者が見れば一目で「満月鏡による変身」だと明らかである。


そしてそれを見た夏波や春華は満月鏡を奪い返すために向こうから現れるのではないか、というのが宵の考えであった。


「まあ、逃げるだけならほとんど無敵だもんね。私」


「ああ、満月鏡それが無かったらこんなことは絶対にやらせない」


仮に新月刀や三日月ノ玉を持った夏波や春華が現れたとしても、彗は満月鏡で姿を消して耳を塞いで逃げればほとんど確実に逃げ切れると宵は考えていた。


それは、10年前に母が自分たちをその方法で逃がしてくれたことから確信している。


そして逃げる際に隙を見て二人に発信機を取り付けて居場所を特定して、後日改めて神器の奪還に行く。


また可能性は低いが万が一盗んだ刀や宝石が本物の神器であればそれはそれでラッキー、とも考えていた。


「だが……今のところ怪盗として有名になっていくだけだな……」


「なんか、グッズとかめっちゃ出てるらしいよ。怪盗Witch Phantomの」


「マジかよ……」


宵は嫌な汗をかいた。

自分たちには「神器を取り返すため」という大義があるものの、毎回大量の警察官が動員されて多大な人数に迷惑をかけているという罪悪感に、宵は押しつぶされそうであった。


大量に警察官を動員する要因となってしまう予告状だけでも出すのをやめたいと宵は思っているが、予告状を出さなければ春華や夏波が現場に現れる可能性もゼロとなるので、出さざるを得ない。


「貴重な税金を無駄遣いしてしまって申し訳ない……!」


「税金のこと考えてる怪盗なんて、たぶん世界でお兄ちゃんだけだよ」


彗の指摘に宵は何も答えず、しばらく車を運転しながら考え込んだあと、再び口を開いた。


「あっ……でも、グッズとかが売れて経済が回って社会に還元できるなら、プラマイゼロとかに……ならないかな!?」


「経済のことを考えている怪盗も、たぶん世界でお兄ちゃんだけだよ……あっ!また炎上してる!」


彗はスマートフォンを見ながら声をあげた。


スマートフォンの画面はSNSのタイムラインで、そこには「#Witch Phantom」というタグと共に今夜の彼らの犯行の映像や、怪盗に対する意見が大量に投稿されている。


中には熱心なファンも現れている。

特に「Witch Phantom様ファンクラブ名誉会長@会員No.0001〜死ぬまで永久絶対推し〜」という名前のアカウントには毎日怪盗に対する想いが大量に投稿されており、犯行の夜は特に活発に投稿が行われていた。


そのアカウントはヴェルサイユ・ロゼで2人が満月鏡を奪取した日に作成されており、初めてこの世に「怪盗Witch Phantom」が現れてから今日まで、熱心に投稿が続けられている。


彗はそのアカウントを親しみを込めて「ファン1号さん」と呼んでいる。


「ファン1号さんに大量の怪盗アンチが突撃して荒らしてる!!」


「『怪盗』なんて狂った犯罪者に怒っている、極めて善良なモラルを持った人達だぞ。アンチなんて呼び方はよせ」


「でもムカつくじゃん!特にこのアカウントが酷いよ!」


宵の言葉に耳を貸さないまま、彗は宵にスマートフォンを見せた。

ちょうど赤信号で車を止めた宵は、首を回してその画面を見た。


そこには「名探偵・明智江戸川金田一」というアカウントが表示されていた。


「なんだこいつ。なんで全部苗字なんだ!?」


「そんなことはどうでもいいよ!投稿が酷いの!ほら、『怪盗は卑劣な犯罪者だ』とか、『私が奴を監獄という墓場に入れてやる』とか!あとはなんか動画とかをすごい解析してここが変、とかあそこがおかしい、とかネチネチネチネチと……」


彗は続ける。


「それに対してファン1号さんはすごい反論してくれてるの。ほら、これ。『怪盗は鮮やかに獲物を盗み出す創造的な芸術家だけど、探偵はその跡を見て難癖つけるただの批評家に過ぎない』とか!」


彗がそう言いながら画面をスクロールすると、画面にはものすごい長文で「ファン1号」と「明智江戸川金田一」がレスバトルを繰り広げているのが宵には見えた。


宵はそれを見て「暇な連中がいるんだな」と思ったが、熱心に「ファン1号」を応援している彗を見て何も言えなかった。


「しかし、世間に迷惑をかけて申し訳ないな……」


宵は長いため息をついた。


「あれ、じゃあ私はあんまり目立つことはしない方がいい?」


「いや、春華と夏波の目に留まる必要があるからな。彗はこれまで通りの派手なパフォーマンスでいい」


彗は毎回「怪盗Witch Phantom」として、まるで舞台に登場する怪盗のように、満月鏡を使った派手な動きや演出、やや挑発的な語り口を意識していた。


彗の怪盗としての初登場は「ヴェルサイユ・ロゼ」の舞台であり、その際に急遽作ったキャラクターをそのまま踏襲することにしたのだ。


「いや、それより俺が書く予告状をもっと丁寧な文体にするよ。警察の人を刺激しないように……」


「わかった。よろしくね。これからも私はいつも通りいくから」


初心者マークが貼られた白い軽自動車は、二人を乗せて夜道の走行を続けた。




─────────────────



ここはこの国で有数の博物館である「グランドジュエリーミュージアム」。


博物館の入り口からずらりと警備の警察官が並び、博物館の最上階の一番奥に展示されている、世界で有数のダイヤモンドである「女神の落涙らくるい」を取り囲むようにして警察官が立っていた。


「いいか!今夜こそあのふざけた怪盗娘をとらえるぞ!警察の威信にかけて、絶対にだ!!」


「「「はい!!」」」


怪盗Witch Phantomの担当刑事である東条忠雄トウジョウ タダオは、現場の警察官たちにげきを飛ばした。


Witch Phantomが初めてあの劇場に現れて以来、今回で犯行は7回目だ。

警察はこれまで彼女の犯行のトリックを見破ることができず、取り逃し続けていた。


「この、ふざけた予告状を出せるのも今夜が最後だァ!」


東条刑事は、床に一枚のA4用紙を床に叩きつけた。

それは怪盗Witch Phantomから博物館、報道各社、そして警察に届けられた予告状のコピーであった。


『拝啓

初秋の候、朝夕にはようやく涼風を感じる折、皆様におかれましては、ますますご清祥のことと心よりお慶び申し上げます。


さて、この度はグランドジュエリーミュージアムに展示されている「女神の落涙」が私たちのものである可能性がある、ということでこのような予告状を出す運びとなりました。


毎度のことで大変恐縮ではございますが、一度私めの手に取り、確認をさせていただきたく思います。


9月19日の深夜零時にお伺いさせていただきたく思いますが、毎度の如く大量の警察官を配備されますと、人件費等がかさんでしまうのではないかと邪推じゃすいします。


またこれまで同様、私を捕えるのは不可能かと思いますので、どうか警察の皆様におかれましては無駄な出動を控え、私が獲物を返却するのをお待ちいただければと思います。


毎度のことであり大変恐縮ですが、何卒、どうかよろしくお願い申し上げます。

敬具』


「なんだこれはァ!?丁寧なのかナメてんのか自信過剰なのか知らんが、大概にしろォ!!」


東条刑事は怒りを込めながら、ダンダンと地団駄を踏むように予告状のコピーを踏みつけ、「あの社会を舐めた怪盗娘、絶対にとっ捕まえるぞ!!いいなァ!!」と警官たちに声を張り上げた。

宵は自分の馬鹿丁寧な予告状が警察への皮肉になるとは微塵も考えていません。

毎回本気で申し訳なく思いながら、毎回本気でしたためているのです。

そういう男なのです。彼は。

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