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なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか

いつか立派な剣になる

作者: マンムート
掲載日:2026/06/04

 わたしは聖剣である。


 名前はまだない、と言いたいが聖剣である。


 かつては聖剣以外の名前があったが、忘れた。


 男か女かそれ以外だったかも、忘れた。


 自分の顔すらも思い出せない。



 雑居ビルの屋上で、手すりにもたれてタバコをふかしていたら、不意に手すりが、ぽきっとなって落下して、そのままお陀仏。


 築55年のビルであるから、手すりが腐食していたのであろう。


 なんとも間抜けな死に方である。


 その直後、足元に、頭がぱっかーんと割れて潰したトマトみたいになった死体を見て『あ、これわたし?』と思ったら、いきなり空にひきあげられた。


 まぶしい光の中で、なんだか神様っぽいものがおっしゃることには。


「お前は手ちがいで死んだので、転生させてやろう」


 そこでわたしは、落ちても死なない、いや、とにかく死なない体が欲しい。


 ついでに、家と会社の往復の日々、しかも毎日残業で、早朝と深夜以外の世界が懐かしかったから、いろいろな景色を見られたらいいなぁ、と欲張ってみた。


 まぁ、かなえられんだろうな、と思ってたら。


「物好きだな。だが()()()()()()。よかろう。では、転生!」


 え、いいの? と思ったら、なんだかもっとまぶしくなって。



 気づいたら、なにやら暗いところに、立っていた。



 足元は何かで固定されていて、動けない。


「どゆこと?」


 思わずつぶやいたが、声が出ない。


 なんだこれは? わたしは何になったのだ?


 と、急に、がやがやと声がして、


 ランプらしきゆらめく灯りが近づいてきて、4人の人間が現れた。



 先頭の男は立派な鎧を着ていて。


 その次のは半裸の屈強な斧もち男。


 それに続くはローブをまとった、薄暗い感じの男。


 最後が、純白のローブを着た、いかにも聖職者っぽい女だった。


 なんかRPGのゲームキャラみたい。と思ったら。



「おお! 言い伝えの通り岩に刺さった剣! そして鎖で縛り上げられた金色のさや! これが聖剣か!」


 と先頭の奴がいった。


 いや、ちがいます、わたしはそんなものではありません……と答えたかったが、ではなんだと言われても答えられないので、黙っていた。


 先頭の男は、わたしの首根っこをつかむと、えいや、と引き抜いた。


 すぽっ。


 わたしはあっさりと岩から抜けて、そいつの手に握られた。


 汗くさくて、ごつそうな手だったが、幸いなことに、そういう感覚はないらしい。


「抜けたぞ! オレが勇者だ!」


 いや、わたしなんか抜いても、大したもんじゃありませんよ? と思っていたが、他の3人も大騒ぎなので、水をさしては悪いと思って黙っていた。


 男に握られたまま、暗闇から外へ。


 わたしがいたのは洞窟だったらしい。


 男は、わたしを高々と掲げた。


 その姿が泉に映っていた。


 男が、剣をもっていた。


 マジですか!? わたしは剣ですか!?


 と思わず叫んだが、声は出ない。


 剣がしゃべれるわけがなかった。



 死なない体、と言ったが、人間で、とは言っていなかった。こちらのミスである。



 こうして、わたしの冒険の旅(?)がはじまったのだが……。


 ほとんど景色を見ることはできなかった。


 なぜなら、剣は普通、さやにしまわれているからだ。


 しかもこのさや、完璧にわたしに合わせて作られてるらしくて、隙間がなくて、全く音が聞こえない。


 そして、さやから抜かれる時は、戦闘シーンの時だけである。


 手入れされる時は?


 聖剣なので、いつでもピカピカ、手入れをする必要がないのだ。


 そういうわけで、いろいろな場所へ行ったが、見るのは殺し合いばかり。


 しかも、剣なので鎧を割り、皮膚を裂き、首を飛ばし、内臓をまき散らす光景ばっかり!!



 すさむー。



 確かに、いろいろな景色を見たいとは言ったよ。言いましたよ。


 でも、常に、振り回されているので、景色を見ている余裕なんかない。


 なんというか、勇者の旅のダイジェスト(戦闘シーンオンリー)を見せられるだけである。



 で、最後。


 頭に角のある、いかにもな魔王との戦闘シーン。


 いつものように、目まぐるしくふりまわされ、周りを見る余裕もないうちに、終了。


 かちゃり、とさやにしまわれて、真っ暗。




 で、気づいたら、最初の場所に戻っていた。


 また魔王が現れるまで、わたしはこのままらしい。


 この時だけ、さやは外れているので周囲が見えるが、洞窟である。


 真っ暗な洞窟をどう楽しめと!?


 ……


 落ちても死なない、いや、とにかく死なない体が欲しい。


 ついでに、家と会社の往復の日々、しかも毎日残業で、早朝と深夜以外の世界が懐かしかったから、いろいろな景色を見られたらいいなぁ。


 とか神(?)の前でほざいたわたしを、後ろから蹴ってやりたい!




 だが、おそろしいことに人間は慣れるものだ。


 何度も何度もそれこそ回数も忘れるほど。


 暗闇とスプラッターシーンのみのダイジェスト冒険につきあわされているうちに。


 いつしかほとんど何も感じなくなった。


 内臓飛び散るスプラッターシーンでも、退屈のあまりあくびが出る。


 剣なんで出ないけどね!


 そしてわたしの心が穏やかになればなるほど、剣としての切れ味は上がるのだ。


 不動の心が切れ味を呼ぶのかもしれない。


 うれしくないけど。



 こうしてわたしは身も心も立派な剣になった。



 唯一の望みは、いつか折れる時。


 今度こそ転生なんて絶対に願わない、ということだけだ。



 でも、聖剣って折れることあるのかなぁ……。



 どこからか声がした。


「死なない体なのでありません」


 わたしの心は死んだ。



 こうして聖剣は、揺らがず折れぬ立派な聖剣として完成した。



たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。


最後までお付き合いいただけたこと、とても嬉しく思います。


少しでも心に残るものがあったり、何かを感じていただけたなら、


評価や感想をいただけるととても励みになります。


別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。


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― 新着の感想 ―
ある意味究極生命体?ジョジョ的な意味で。 最後は考えるのをやめてるとこまで。
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