表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/32

10.旅の同行者

 魔王討伐への出発は十日後と決まった。それまでモイーズは剣の訓練をして過ごす。私も一緒に訓練場までついて行くが、聖騎士たちには無視され続けていた。とても旅の仲間になるというような雰囲気ではない。そんな状態にはもう慣れたので、彼らと仲良くするのは諦めている。

 カナコも時々やってくるが、まだ聖女の訓練は終了していないらしく、不在の時が多い。


 カナコがいれば聖騎士たちはモイーズのことも無視していた。しかし、カナコがいない時は、聖騎士たちはモイーズと楽しそうに談笑しているのだった。モイーズが元々聖騎士の仲間だとわかっている。気安く話をするのは当然だろう。

 だけど、私一人が仲間外れになったみたいでちょっと心細い。だからと言って、カナコがここに現われても、聖騎士たちとの仲の良さを見せつけられるし、何気に嫌味を言われるので鬱陶(うっとう)しい思いをする。


 それでもモイーズから離れるのは怖かった。昼間だって油断はできない。警備担当の聖騎士や掃除人に出会ってしまう可能性があるのだ。彼らが私を傷つけないとは限らないのだから。

 一人になる勇気もない私は、モイーズの訓練をぼんやりと見ていることしかできなかった。


「ミキ様、ちょっとよろしいですか?」

 そう声をかけられたので振り向いてみると、モイーズよりも少し年上らしい聖騎士が立っていた。声はとても優しそうだったけれど、今まで聖騎士に無視され続けていた私は、何事かと咄嗟に返事ができなかった。


「私は魔王討伐隊の隊長に任命されたオディロンと申します。エヴラールのことは本当に申し訳ありませんでした。彼は最近ここに来ましたので、貴女のことをよく知らなかったのです」

 なぜかエヴラールのことを謝られてしまった。でも、知らなかったなんて言い訳で許せるはずはない。

「聖女様は私を小間使いのように扱っていましたから、侍女だと気づかなかったのは仕方ないと思います。でも、小間使いであっても、仕事中にいきなり水をぶっかけたり、性行為を強要したりするのは駄目だと思うのです。そんな言い訳は聞きたくありません」


 モイーズは侍女相手にそんな行為をすれば最悪断罪もあると言った。侍女長は私が元聖女だから傷つけては駄目だと怒ったのだ。

 私が侍女でもなく元聖女でもなかったら、エヴラールは罪に問われることもなかったらしい。

「そういう意味ではなくて」

 オディロンはまだ言い訳をするつもりらしい。でも私は聞きたくなかった。

「もう結構です。お願いですから思い出させないでください。痣ができるほど腕を掴まれ、卑猥な言葉で貶められた。その上、髪まで強く引っ張られたのですよ。男性の貴方には理解できないと思いますが、本当に怖かったのです」

 もしあの時、反対の方向に逃げてあの牢にたどり着けなかったら、私はエヴラールに捕まって、最悪殺されていたかもしれない。どんな理由があろうとも、あいつを許すことはできない。


「申し訳ありません。怖いことを思い出させてしまいましたね。魔王討伐にはエヴラールも連れて行きますので、ご報告しておこうと思いまして。それと、ミキ様。旅の仲間になるのですから、我々聖騎士は貴女を全力で護らせていただきます。それだけは信じてください」

「私が怖がって旅立ちを拒否するかもしれないから、安心させて来いとでも聖女様に言われたの? 心配しなくてもいいわ。旅にはついて行くから。でも、貴方たち聖騎士には何も期待していない。今まで通り無視してくれていいのよ。それの方が聖女様との関係が上手くいくでしょう? 聖騎士が私を傷つけないのならそれで十分よ」

 自分の意思で魔王討伐に同行すると決めたのだ。今更魅了されたいとは思わない。


 私が信じるのは誰よりも強いモイーズだけ。

 でも、楽しそうにエヴラールと話しているモイーズを見ていると、私は彼に見捨てられて、二度とこの地を踏むことはないかもと不安になる。戻ってきたところで、楽しい生活が待っているわけでもないけれど。見知らぬ場所に放置されるよりはましだ。


 オディロンは私が旅に同行すると言い切ったことに安心したのか、軽く礼をして去って行った。

 すると、入れ替わりにモイーズがやって来る。

「隊長と何を話していたんだ?」

「魔王討伐の旅にエヴラールが同行するんだって」

「だろうな。あいつは珍しい氷剣の使い手だし、腕もいいからな」

 嬉しそうにエヴラールを褒めるモイーズにちょっと苛つく。

「ねえ、本当に私を護ってくれるの?」

「当然だ。俺はミキ様の護衛だから」

 即答された。それはちょっと嬉しいかも。


「でも、エヴラールが私を襲ったらどうするの?」

「あいつをぶっ殺すに決まっている」

「仲の良い後輩なのに」

 エヴラールが魔王討伐に同行すると聞いて、あんなに嬉しそうにしていたのに、殺すなんて本当にできるのだろうか?

 エヴラールを殺して欲しいとまでは思わないけれど、本気であいつに襲われるようなことがあれば、殺すくらいの気持ちであいつを止めて欲しいと思うから。

「そんなことは関係ない。貴女を傷けるような奴は、誰であろうとも俺は許さない」

 そう言い切るモイーズを信じてみたい。もし裏切られたって、呪う相手が増えるだけだ。


「モイーズはどんな剣を使うの?」

 エヴラールが格好良さげな氷だとは驚いた。でも、だから性格も冷たいのか。あの時、井戸の水を氷水に変えられなくて良かった。それでなくても井戸の水はとても冷たくて、凍えそうだったから。

「俺は炎を剣に(まと)わせて戦います」

「そうよね、モイーズは炎っぽい」

 確かに炎はモイーズのイメージ通りだ。炎を纏った剣で戦うモイーズをちょっと見てみたいと思う。



 それから、私の体力をつけるためと、気晴らしのため庭をモイーズと一緒に散歩することにした。私を護るとはっきりと言ってくれるモイーズが側にいると、やはり安心する。

 未だにここから外へ出たことがない私は、この世界のことを何も知らないけれど、モイーズが側にいてくれるのなら、何とか生きていけるのではないかと思い始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ