第六話
コンコンとドアをノックされたのでドアを開けるとエドワード様が立っていた。
「準備ができたのでな。迎えに来た。」
エドワード様はそれだけ伝えるとすぐ隣の部屋に入ってしまった。
粗相をしないようにとガチガチに緊張しながらわたしはエドワード様のお部屋にお邪魔した。
「こっちに座るといい。」
「はい。」
ガチガチに緊張した私は言われるがままに窓の前にサイドテーブルをはさんで並べられた椅子の片方に座った。
「そんなに緊張してどうした。君に聞いてほしいこともあるし親睦を深めるために一緒に酒でもどうかと思っただけだ。」
「すみません、私はてっきりその…そういうとこをするのかと思い…」
「いやそれについては私の言い方が悪かった。ギヨームにも同じことを言われたんだ。変な心配をさせてすまない。君が嫌なら子供も望まないし私から手を出しはしないから安心してくれ。」
そういうとエドワード様は二つのグラスにワインを注いでくださった。
「それじゃあ乾杯。」「乾杯」
お互いに一口ワインを含みそれを嚥下するとエドワード様が語り始めた。
「正直君が来るまで適当な理由をつけて結婚した後こっちの有責で離婚して家に送り返そうとしていた。」
「え、それは困ります。」
本当に困る、まだ来て初日だが実家になんて帰りたいなんて気持ちは全くないむしろ、使用人でもいいからこの家にしがみつくことまで考えていた。
「君が来るまでといったろう。使用人の一人もつけず捨てられるようにここに来た君をあんな家に送り返せるわけないだろう。しばらくは我が家で過ごして好きな事をしろ、と言っても大したものはこんな田舎にはないがな。それで君の過去を聞いて私が話さないのも不公平だろうと思ったのでこういう場所を用意した。暗い話になるが聞いてくれるかい?」
「えぇ、私が聞いてもよろしいということであればお世話になる身です。ぜひともエドワード様のことを教えてください。」
彼は私の過去を聞いて慰めるだけではなく怒ってくれた。そんな彼が自分の過去も知ってほしいというのであればとてもじゃないが断れない。彼はゆっくりと話し始めた。
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私はその人柄とコミュニケーション能力の高さから人望のある第一王子のシモン兄上、様々が学問で優秀な成績を収める第二王子のマエル兄上の弟として生まれた。優秀な兄上達と違い自分は何の才能も無かった。それ故に両親からは認めてもらえず王宮内では無能の第三王子と周りに呼ばれる中育ったんだ。
私は兄上達にできないことを探そうと必死だったそこで思いついたのが軍に入る道だった。この世界では限られた人類の領地ゆえに国同士での小競り合いが絶えないため軍の重要性はとても高い。そこで功を上げれば両親や官僚たちにも認めてもらえるのだと思い、私は軍に入った。
幸い私には少しばかり戦闘の才能があったようで貴賤関係なく実力主義の軍隊のなかで頭角を現していくのは自分が認められていくようでとても幸せだった。
今考えるとこの頃から兄上達から疎ましく思われていたのだと思う。
ある日私は軍の山中訓練でシャルル侯爵領で訓練をしていた。山中訓練は文字通り山の中でそれぞれ5人の小隊に別れ山中を行軍し予定の時間にゴールに集団すると言うものだった。
軍では定番の訓練であるが兄上達が私を亡き者にしようとして偽の行軍計画書と地図を渡し我々の小隊はシャルル侯爵領から離れ今のカルマン公爵領、当時は人類の版図から外れたこの地に迷い込んで来た。
そこで我々は山の奥で暮らす一人の青年に出会い彼に迷ったこととシャルル侯爵領に戻る道を尋ねた。
すると彼は唐突に槍を投擲するとその槍は5本に別れ私は何とか剣を折られたが防ぐことができた。しかし後ろを振り向くと私の部下達4人は皆槍に貫かれ木に縫い止められていた。
「ほう、俺の不意打ちの初撃を防ぐとはなかなかの腕だ。褒美に俺の名を教えてやろう。我が名はベル、この地を守る神にして貴様ら人間の敵だ。」
その青年は面白そうに私に話しかけると彼は何もないところから剣を取り出し私に投げつけた。
「貴様はなかなか武の腕がたつようだ我が剣アイムールをやろう。これで俺と戦うが良い。」
私はその覇気に圧倒されながらも剣を構えると彼に飛びかかっていった。どう考えても私より格上の相手まずは機動力から削ごうと足を狙ったが軽々と躱されてしまった。
そこからは防戦一方だった。軍に入ったころに教官が教えてくれた「力で勝てないのであれば正面から受け止めてはならん、出来るだけ力を流すように受け流すのだ。」という言葉通り真正面から受け止めるのではなく受け流していくが圧倒的な力を前に完全には殺しきれず、徐々に身体中に傷が増えていく。どれも致命傷は避けてはいるが時間の問題だ。
「ふむ、なぜ貴様は諦めない?貴様の勝ち目はほぼ0だと思うが。」
「私は諦めたくない!私は何もまだ成し遂げていない、こんなところで死んでたまるか!」
「まぁいい。諦めが悪いのは嫌いではない。だがそろそろその未練断ち切らせてもらおう。」
そういうとベルの槍を持つ腕に力が入るのを感じた。全力の一撃が来る。私は剣を強く握り直すとこの一撃を受けてその後隙を狩るために精神を研ぎ澄ませた。
ベルの一撃を私は左腕で受けると鋭い痛みで一瞬怯んでしまうが私は槍を受けた左腕を引くと右足を踏み出し全力で剣をバランスを崩したベルの喉元に突き刺した。
ベルはそのまま仰向けに倒れると私に話しかけてきた。
「はは…まさか腕を犠牲にして捨て身の攻撃をしてくるとはね、久しぶり過ぎて油断したかもな…君が何を成し遂げたいのか分からないが私の力を使うが良い…君の未来に幸多からんことを」
どうして喉を貫かれたのに喋れるのだろうか、まぁ神だ人とは違うのだろう。ベルはそう言い残すと光の粒となって私の体に入ってきた。身体中に力が漲っていく、全ての光の粒が体に入り切る頃には左腕の傷も薄っすらと跡を残しているが治っていた。頭の中にベルの力がと情報が流れてくる。どうやら彼は天候と水を操り豊穣をもたらす神らしい。使えそうな力は電気を操り全身の身体強化をすることと天候の操作だろう。膂力も上がっているのか今までより力がみなぎる。試しに木に刺さって亡くなった部下たちを弔おうと木を触ると軽々と木を圧し折り片手で持ち上げれてしまった。これなら彼らをここに埋めるのではなく家族の元に返してあげられる。そうして私は彼らを縄で縛り一纏めにすると歩き続け一旦山を登り頂上から現在地を確認すると山を降りて侯爵領まで戻っていった。
軍は戻って来た私を出迎え労ってくれたが神殺しとなったという報が王都に伝わると私はすぐに父上に呼び出しを受けた。
私はやっと私のことを認めてくれると上機嫌で王宮に向かったがそこで私は絶望したんだ。表向きは英雄として迎えられたが父は相変わらず無表情のままで兄上達はあからさまに不機嫌でいた。
一番ショックだったのが軍にいた頃は「やっとあなたも得意なことを見つけられたのね」と喜んでいた母上が化け物をみるかのような目をして明らか様に怯えていたのをみたことだった。
私はその場でこの土地の領主として生きること、王都には王の許可なく領地から離れないことを約束させられて今ここにいる。
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エドワードが話し終えるころにはお互いに2杯目のグラスを開けていた。
「お互い本当にひどい家族ですね!私達似た者同士かもしれないですね!」
アニエスはあまりお酒を飲んだことが無いのでアニエス自身も知らなかったがアニエスは酔っ払うと日頃抑え込んでいた感情が爆発するタイプだった。
「そうだ!思いつきました。私がエドワード様のお姉さんになってあげます!これで家族です!アニーお姉ちゃんです!」
アニエスは急に立ち上がるとエドワードの肩を掴んでエドワードのお姉さんになろうとした。
「ちょっと待て!お前のほうが年下だろう!そもそも私達は夫婦な時点で家族だ!」
エドワードは驚きながらも反論したがアニエスはエドワードの横へと移動し
「弟ならお姉ちゃんの言うことは素直に聞きなさい!」
と言った。エドワードは本能的に敵わないと悟り、諦めて小さな声で「アニエス姉さん」と言った。
「良い子にはご褒美をあげましょう。よしよし〜よし、よし………」
アニエスはエドワードの頭を撫で回し始めるとそのままエドワードの頭を抱きしめたまま眠ってしまった。
「なんだこれ…」
エドワードはそう呟くとアニエスを抱えアニエスの部屋に行きベットに寝かせた。
「こんなか弱い娘に慰めされるとはな、家族になろうか…まさか向こうからそういってくれるとはな。」
エドワードはそう言い残すと自分の部屋に帰っていった。
ゴーンゴーン
世の中お酒の失敗を忘れると言う人がいるがあれは少数派でほとんどの人は覚えている。アニエスも覚えているタイプの人間だった。
(あ~、お姉さんになるって何!?恥ずかしくて顔合わせられないよ。やらかした…)
アニエスは朝食の席で顔を真っ赤にしながらエドワードをチラチラ見ながら食事をしていた。
「どうしたんだ?アニエス姉さん?」
こっちを見ていることに気付いたエドワードは目があった瞬間にアニエスをからかった。
「エドワード様!忘れてください!」
「旦那様一体昨日の夜何があったのですか…」
「「夫婦じゃなくて姉弟?どういうこと?」」
アニエスは顔を真っ赤にしてバンと机を叩いた。
そこへ疑問に思った使用人たちの質問攻めにより随分と賑やかな朝食となった。
やっとエドワード君についてを書けました。
もっとサクサク行く予定だったのにへたくそで変に長くなってしまいました。
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