第五話
窓の外の景色が茜色に染まっていくこうしてゆっくりと外を眺めていられるのはいつ振りだろう。
実家にいたときは外の景色など見ている暇はなく差し込んでくる夕日でもうこんな時間なのに仕事が終わっていないと憂鬱になったものだ。
なんとも思っていなかった夕日も心に余裕を持てばこんなにも美しいとは何かに忙殺させられる日々とは心を殺すのだと感じた。
ゴーン!ゴーン!
鐘の音をが響き渡る。この鐘はおそらく丘の下にある町へ時間の経過を伝えるために慣らしてもいるのだろう。
私は夕食を頂くためにダイニングへと部屋を出た。
ダイニングの扉を開けるとすでにエドワード様がダイニングテーブルの奥に座っていた。
私はギヨームに促されるままにエドワード様の向かいに座るとキッチンから二人の少女が出てきてギヨームの横に並んだ。
「奥様お食事の前に先に紹介させていただいてもよろしいでしょうか。」
「えぇ、かまいません。」
「この子たちは私の双子の娘で現在はこの家の調理を任せております。リリとルルになります。」
「初めまして、リリといいます!よろしくお願いします。」
「ルルと申します…よろしくお願いいたします。」
おそろいのメイド服を着たピンク色の髪をした元気な少女のリリと黒色の髪をした落ち着きのある少女のルルが挨拶してくれた。
「この二人はこれから奥様の身の回りのお世話をさせていく予定でございます。私を含めたこの三人が使用人はすべてでございます。」
「正直少ないと思うかもしれないがこの三人はとても優秀な使用人だ。私は彼ら以上の使用人を知らない。」
エドワード様がそう言うなら私から何か言うことはないと思い、私は二人の少女に「こちらこそこれからよろしくお願いします。」と頭を下げた。
「それではお食事にいたしましょう。リリ、ルルお食事を運んできてください。」
ギヨームが指示を出すとリリとルルは「は~い」と可愛らしく返事をしキッチンから料理を運んできてテーブルの上に並べていく。湯気を立てたシチューに香ばしい匂いのするパン、色とりどりの野菜が盛られたサラダ、デザートとして大粒のぶどうまで置かれた。
私は実家ではとても食べることのできなかった鮮やかな料理が並べられていくのを私は現実感がなくただただ眺めていると、テーブルの下座の方に3人分の料理も置かれていった。
「珍しいと思うが我が家は使用人といっしょに食事をとるのだ。君が来るまで私一人だったからな一人で食う飯は味気がなくて仕方がない。君が気にするというのなら別にするが大丈夫か?」
「いえ、私は特には気になりません。」
「なら良かった。それでは冷める前にいただこう。」
そう言われると私は温かく湯気の上げているシチューを掬って食べた。
じゃがいもや人参は柔らかくホクホクとしていて甘く、入っている干し肉は柔らかく煮込まれており肉の旨味を引き出していた。そして何より温かい。私が実家にいた頃食べていたのは毎日夜遅くまで自室で仕事をさせられていたため、使用人が部屋の前に置いていった冷めたスープと時間が経って固くなってしまったパンばかりだった。こんなに温かい料理を食べたのはいつぶりだろう15歳の誕生日のとき以来なきがする。
そう思っていると涙が頬を伝っていった。
「どうした!?口に合わなかったのか?無理して食べなくていい、別のものを準備させよう。何が食べたい?」
「私たちの料理おいしくなかった?…」
「どうしよう。私達のクビ…」
エドワードは私に駆け寄ってくださり、背中をさすりながら慰めてくださった。下座の方では椅子に座りながらメイド姉妹が心配そうな顔でこちらを見ていた。
ごめんなさい。違うんです。こんなに美味しいものを食べたのは久しぶりで。
なんとか言葉にしようとしたがでてくるのは涙だけだった。
10分近く泣いていただろうかやっと私が落ち着くとエドワード様がメイド姉妹に別のものを用意させようとしたため私は声を上げた。
「エドワード様、リリ、ルル、私美味しすぎて泣いちゃったの心配かけてしまってごめんなさい。」
そう言うとメイド姉妹は嬉しそうに表情を明るくしたがエドワード様は何とも言えない表情をしたかと思うと私に問いかけた。
「確かに、この2人の料理の腕は確かでうまいものを出す。だがこれくらいの料理が貴族に美味しすぎるということはないだろう。貴族なら特に伯爵家ともなるとこれ以上の料理は食べてきているはずだ。君は一体どんな食事をしていたんだ?」
エドワード様の鋭い視線は絶対に逃さないと言う意思を感じて私は下手な嘘は効かないだろうと思い実家での生活の一部を明かした。
毎日遅くまで父の政務を手伝わされていたこと。食事は終わるまで取るなといわれ、ほぼ毎日深夜に使用人が部屋の前に置いていった冷めたスープとパンだけで生きていたことを話した。
すると、エドワード様は怒りを露わにして拳を強く握りしめた。
「それが家族と言えるのか!それではまるで奴隷ではないかなぜ君もそれで納得していた。」
「反抗しても無駄だったからです。初めて反抗したときは納屋に入れられ2日水だけで反省させられました。」
そう返すと「だが!」とエドワード様は返そうとしたがここまでずっと静かだったギヨームが声を上げた。
「旦那様、今はお食事の時間です。せっかく私の愛娘の作った料理が冷めてしまいます。お二人は時間があるのです。ゆっくりお互いを理解するのもよろしいかと。」
ギヨームの話は大人しく聞くのかエドワード様は渋々席に戻られると食事を再開された。
その後は特に何事もなく少しの雑談を挟みながら食事を終えた。
私はダイニングを出て部屋に戻ろうとするとエドワード様に呼び止められた。
「このあと私の部屋に来い。私の部屋は君の部屋の隣だ。そこでゆっくりと話をしたい。」
「はい分かりました。では後ほど」
私はそう答えるとダイニングを出て部屋に戻った。そうすると頭が冷静になってきてこのあとエドワード様の部屋に行くことについて考えてしまった。迂闊だった、旦那様となる男性の部屋に夜訪れる。完全にそういうこと(夜のお仕事)をする流れだ。だが約束してしまって行かないというのもまずいエドワード様の不況を買ってしまっては家に帰されるかもしれない。そうなったらあの実家のことだ。よくてまた奴隷のような生活、最悪の場合帰ってくるなとそのまま追い出されるだろう。そうなってはマズイ、私は自分の頬を軽く叩いて「来るならどんと来い!」と気合を入れた。
一方アニエスが去ったダイニングではエドワードがギヨームにワインを準備させていた。ギヨームはワインを持ってくるとグラスなどを用意し、エドワードの後ろを歩き部屋に向かいながらしゃべりかけた。
「エドワード様、少々お手が早いのではないですか?」
「どういうことだ?」
エドワードはギヨームの言う事の意味が分からないのか足を止めて首を傾げる。
「奥様となられる方を夜に部屋に連れ込むのは言いにくいのですが流石にそういうことをすると勘違いされるかと。」
「そういうこと?」
エドワードはしばらく悩むと徐々に顔を赤くし声を荒げた。
「ただお互いのことを理解し合うために軽く酒を飲み交わそうとしただけだ!」
「ならよろしいのですがくれぐれも奥様に恥をかかせないようにお気をつけくださいませ。それではこちらを部屋に置いておきますのでエドワード様は奥様に声をおかけください。」
そう言い残すとギヨームは足早にエドワードの部屋に入っていった。
小説は初めて書いていて難しさを感じています。完結まではあきらめずに書くつもりですがちょっと更新頻度は落ちるかもしれません。気長にお待ちくださると幸いです。
評価、感想ぜひともお待ちしております。作者のモチベーションがめちゃくちゃ上がります。