第十話
最近の我がロシェール家はいい雰囲気に包まれており、この世の春を謳歌していた。
「ねぇ、お父様。デビュタントの際のアクセサリーだけどこのブローチもつけていきたいから欲お願い!」
今までなら手が出せなかったであろうアクセサリーを欲しがるシャルロッテを見てあっさり許可を出した。あの出来の悪い娘とは違い、愛する娘の初舞台なのだドレスを注文したときは金に余裕がなく妥協した分アクセサリーは望むものを買ってやろう。
上機嫌で部屋を出ていったシャルロッテと入れ替わりで入ってきたのはエルザだった。最近は美容に余計に金をかけているようで美しさに磨きがかかっている。
「シャルロッテが上機嫌で出ていったけどまたアクセサリーでも買ったの?」
「あぁ、可愛い娘のデビュタントだ、ドレスは妥協したがその分他のことは好きにやらせたい。」
エルザはそれを聞いてさらに上機嫌になった。
「あの泥棒猫の娘には恨みしか無かったけど最後には役に立って良かったわ。」
「全くだ、あの公爵は家族である王家から嫌われているそうだが金は持っているようで良かった。少なくない支援金もくれてるし、あいつに似て嫌な娘だったが役には立ったな。」
元々私とエルザは恋人同士だったが伯爵家と子爵家の身分の違いで公表せずこっそりと付き合っていた。それを知らない両親が死ぬ前に勝手に作った婚約が私と前妻の結婚だった。商売で金を持っていた前妻の実家と軍門の家で金が欲しい我が家の結婚だった。そのため義務的に身体を重ねた結果アニエスが産まれ、産褥から立ち直れず亡くなったとすればあまり疑われずに済むというエルザの指示でバレない程度に毒を盛り体調を崩させ、そのままくたばらせた。そしてもううるさい両親はいない私はエルザと再婚しシャルロッテを授かった。アニエスは前妻によく似ており、私とエルザはそれが嫌だったためあんな扱いをしたが結果的に高く売れて良かった。
エルザは買って欲しいと言う美容品のリストを置いていくと上機嫌に部屋から出ていった。私もいい気分だと酒をあおる。
今我が家は乗りに乗っている、公爵家の支度金と支援金をつかい軍を強化してそろそろ王家に許可をもらい帝国に攻め入ってその土地を奪えばもしかしたら陛爵もあり得る。
そんな想像に胸を膨らませていると私の執務室の扉が開いた。
「あの、ロシェール伯爵閣下一旦軍備拡大を止めていただいて1回領内の経済の方に目を向けてください。これ以上軍を拡大してもわが領の経済力では賄いきれません。それに現時点で軍に所属する人間による治安の悪化で領民から苦情出ております。」
アニエスが居なくなってからいつもこれだ、軍の拡大を辞めろだとふざけるな!経済など戦争で奪った土地を組み込めば解決するでないか。それに最近は国境の帝国側も騒がしい。ここで軍を縮小しては帝国から攻め入ってきてしまうではないか。
「そもそもわが領の経済はお前らが回していたのではないか今さら私を頼ろうとするな!」
「それはアニエス様が居たから回っていたのです。アニエス様が居ない今閣下を頼るのは当たり前でないですか。」
はぁ?アニエスなどいても居なくても変わらないだろう。変に理由をつけて自分たちの失敗を私に擦り付けようとしてるに違いない。
「もういい!でていけ!軍には私から伝えとくから領民は適当に黙らせろ。それと貴様らの失敗を私に擦り付けようとするな!」
私は文官を追い出すと酒を飲んで気分を変えることにした。
せっかくいい気分だったのに台無しだ。
***
部屋を追い出された文官は役場に戻ると自分の机に座りため息をついた。
(アニエス様が居なくなってから領民からは苦情が出るしアニエス様の片付けていた仕事は幾らやっても終わらないしで最悪だ。)
アニエスは実家にいた時は朝から夜中まで仕事をしており、その量は彼の普段の仕事量の3倍もの仕事を片付けていた。さらに領内を豊かにするために新たな作物や特産品の栽培にも力を入れていたがそれはアニエスがいなくなって凍結されている。実際この男は優秀でありコネさえあれば王宮の文官もやっていけるほどである。
(俺この仕事辞めよっかな。)
そしてまたロシェール家から文官が一人辞めていった。