第一話
初めまして、蒼花です。
初めての投稿でつたない部分もありますが楽しんでいただければ幸いです。
できるだけ投稿間隔は短くしていきたいと思います。
感想や評価を頂ければとても喜びます。
この世界は神様がいる地
しかし神様が見ているのだとしたら呪ってやりたくなる人生だった。
わたし、ロシェール家長女アニエス・ロシェールは貢物として辺境の地カルマン領へ向かう馬車の中そう思っていた。
話は数週間前にさかのぼる。
私の実家ロシェール家は代々エリアーヌ王国の隣国ルーカス帝国に隣接する領地を治めていた。要は最前線で帝国とにらみ合いを続ける武門の家である。
そして当代の当主セヴラン・ロシェールは拡大志向が強く軍事面で領地を拡大しようとし続け軍に維持費をかけ続けていた。大して特産品の持たぬ我が領でそんなことをすれば当然お金は減っていく一方だ。多少国からの支援があるとはいえ軍というものはお金がかかる。
そこで家の資金繰りを解決するために持参金という名目で支援をもらおうとしたのが始まりだ。
そうしていろんな高位貴族家と面談をさせられていたところに突然王家から話が届いた。その内容は王家の3男、第3王子で今は辺境の新たな領地カルマン領を治めるエドワード・カルマン公爵との婚姻であった。
エドワード・カルマン、この世界が生まれてから史上6人しかいない神殺しという偉業を達成した英雄
この世界には未開の地が多く残っているそれらが手を付けられないのはその土地の守り神がいるからだ。
その神を殺しその土地と力を奪ったものを神殺しと呼ぶ。
現国王は彼が新たに手に入れた土地をそのまま新たにカルマン公爵としての地位を作り彼にその土地を開墾させているという。
しかし彼にはよくない噂も流れている。それは暴君、人の心を持たない冷徹漢、国に反旗を翻そうとしているなどなど信憑性が疑われるものまでさまざまだがどれもいいものではない。人類の手に余る力を手に入れた彼はどちらかというと英雄というよりは恐怖の対象なのだ。
「そういうわけで我が家からカルマン公爵家にひとり嫁いでもらう。」
「私は嫌ですお父様。もちろん嫁ぐのはお姉様ですよね?」
こうかわいらしくしかし強く拒否をするのは私の妹でまだ14歳のシャルロッテだ。美しいプラチナブロンドの髪にくりくりとした赤色の目、100人が見れば99人が美人というであろう容姿をした美少女である。
「当り前じゃない。シャルロッテはまだデビュタントしていないのよ。そんな歳の娘を嫁がせるわけがありませんわ。そうですよね旦那様?」
強く否定するのはこの伯爵家の夫人であり妹と同じプラチナブロンドの髪をしたエルザである。
「アニエスはもう18でしょ。デビュタントも終えて20も近いというのにまだ婚約のこの字すらないあなたならちょうどいいわよね!」
そう私に強く言う夫人は実は私とは血がつながっていない。私の母親は私を産んでしばらくして産褥で亡くなってしまった。その2年後に後妻として収まったのがこのエルザである。そういう理由もあってシャルロッテとは差別されて育ってきた。私の容姿は赤い目はシャルロッテと同じだが髪は地味な茶髪である。美しい妹と地味な姉としてこの家で育ってきた私は自信といううものがまったくもって生まれてこなかった。そのうえ毎日遅くまで父親の手伝いとして政務をさせられる日々のせいで目の下には深いクマができて、仕事が終わるまではろくな物は食べさせないと一日に二食食べれればいいほうで基本は一食という生活のせいで手足は骨のように細い。
「というわけだ。シャルロッテはまだ結婚するという歳ではない。この美しさならもっといい縁談としていい婿を迎えられるだろう。」
セヴランは愛らしい娘をとてもいい笑顔でほめた後、表情を厳しくして私のほうを見た。
「アニエスお前はカルマン公爵家のエドワード様に嫁ぐのだ。拒否権はない。我が家の政務を手伝うお前なら我が家の財政のことは理解してるであろう。」
「はい、わかりました。」
いつもなぜ私とシャルロッテの扱いがこうも違うのかと思うが悲しいという感情はとっくに枯れ果ててしまった。それが私なのだ。愛らしい妹を引き立て便利に使うためのこの家の道具なのだ。そう思うとこうしてこの家を出られるというのは幸せなのではないかと少し思った。相手がただでさえ開拓されて数年の新たな領地に重税を課しカルマン領をほぼ独裁している暴君でなければであるけど。ここで逆らったところでもっとひどい目にあって強制的に嫁がされるのであろう。もしかしたら頷くまで食事を抜かれてそのまま餓死するかもしれない。素直にうなずくのがこの家で暮らした18年間で学んだ一番大事なことかもしれない。
「アニエスお前は支度金のために嫁ぐのだあの公爵家は領地は出来立てであるが相当金をため込んでいるらしい。我が家への支援くれぐれも忘れるでないぞ。」
私はどうすれば愛されるのだろうかこれまでこの家のためにとあらゆる努力をしてきたはずなのに家族の一員として認めてすらもらえない。
神が見ているとしたら呪ってやろう。
そう思い18年間過ごした我が家を出た。面白かったのは私物が思ったより少なかったことだ。妹のようにきれいなドレスや宝飾品にあこがれたこともあったが父親にねだったところで基本は買ってもらえず数少ないアクセサリーもほとんど見目のいい奴は妹にたかられ嫌と言っても夫人に叱責されて妹のものになった。
私の18年は何だったのだろうそう思っているとどうやら国の端っこであったシャルル侯爵領とカルマン公爵領の境まで来たらしい。これまで比較的舗装された道であったがここからは石畳の舗装などないようであった。カルマン公爵領はどんな地なのだろうかと一抹の不安を抱えながらも馬車は進んでいく。
この土地が私の人生を変えるとはまだこの時は思ってもいなかった。