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赤いマントを拾っただけなのに

作者: 右京之介

        「赤いマントを拾っただけなのに」


                        右京之介


 ボクは公園の片隅で、丸まった赤い布のような物を見つけた。

 これは何だろう?

 さっそく手に取って、広げてみた。

「すげえ、スーパーマンのマントみたいだ!」

 ボクはあたりを見渡して、誰も見てないことを確認すると、赤い布を首に巻いてみた。

大きさもちょうどよく、どこから見ても、スーパーマンだった。

茶色い野良猫が不思議そうにこっちを見ていたが、ボクは気にせず、両手を空へ向けて突き上げると、「トォーッ!」とジャンプしてみた。

――飛べなかった。

 がっかり。

 これは飛べないマントか。


 だったら……。

ボクは「オリャー!」と叫んで、全速力で走り出した。

「あっ、変なお兄ちゃんが走ってる!」

ボクの隣を小さな男の子が追い抜いて行った。

 ――少年に負けた。


だったら……。

ボクは全身の力を込めて、「ソリャー!」とシーソーを真ん中から持ち上げてみた。

ビクともしなかった。

地面にへたり込んだボクを、さっきの茶色い野良猫が不思議そうに見ていた。


だったら……。

富士山の高さは? 分からない。

五十七×六十三は? 分からない。

フランスの大統領は? 分からない。

ボクはまたがっかりした。


赤いマントを羽織ってみたけど、空は飛べないし、足は速くならないし、力持ちにもならないし、頭も良くならない。

 なんだ、ただの赤い布か……。

 全身の力が抜けてしまったボクはベンチに座りこんだ。

さっきの茶色い野良猫がピョンとベンチに飛び乗って、ボクの隣に座った。

そうか!

このマントを着ると、野良猫が仲良くしてくれるんだ。

「やあ、猫くん。今日はいい天気だねえ」

ボクは野良猫に手を差し伸べた。

猫はシャッといって、ボクを威嚇すると、一目散に逃げ出した。


ボクはマントを脱ぐと、元あった場所に丸めて置いた。

木陰に隠れてそっと覗く。

 誰かが拾って、スーパーマンごっこを始めないかなあ。

 しばらくすると、腰のあたりをトントンと叩かれた。

 振り向くと、さっきボクを走って追い越した少年が立っていた。

「あれはボクが置いたんだよ」少年は言った。

「えっ、何のために?」ボクはきいた。

「マントと勘違いした人がスーパーマンごっこを始めるのを見て、笑い転げるためだよ」

「えっ、あれはマントじゃないの?」

「おじいちゃんが赤いフンドシを作るため、押入れに入れていた布だよ。ボクが勝手に持って来たんだ。なのに、マントと思い込む人がいて」

「つまり、ボクは……」

「今日、三人目のスーパーマンだよ!」

 ボクは少年に騙されたことが悔しくて、こう言ってやった。

「ヒーローがたくさんいるほど、世界は平和になるんだ」

 しかし、少年はボクの強がりをスルーして、

「お兄ちゃん、あそこを見て!」

 若い男が赤い布を広げて、首に巻こうとしていた。

「あっ、クラスメイトの陸くんだ!」ボクの友達だった。

 陸くんはマントを装着すると、両手を空に突き上げた。

「トォーッ!」

 ボクと少年はその姿を見て、笑い転げた。

「四人目のスーパーマンの誕生だ! その名は陸くんだ!」

 しかし、ボクと少年の笑い声はたちまち消えた。

 陸くんが赤いマントをひるがえし、空に向かって、飛んで行ったからだ。

「赤フンで飛べたよ!」

「マジか?」


                    (了)

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