フェンリル
レイン立会いの元、俺と直轄騎士の対戦が始まる。
「直轄騎士のアイバンだ」
そう言って剣を抜いて構える。
硬木剣を抜くと俺も構える、こうして対峙するとアイバンの強さをしっかりと感じる。
出会い方が違えば友達になれた気がする位に愚直に剣術に向き合って来た奴だ、そう感じた。
「きぇー!」
アイバンの気合いを入れる声が聞こえる、アイバンからしたら俺がどのように見えているのかはわからない。
額に汗を流し、死を覚悟した顔をしている。
アイバンが動かないのを見て踏み込む。剣がぶつかる距離だ、アイバンには当たらない距離。
シュッ!! ザツュッ。
「それまで!!」
レインの声が響く。
俺とアイバンが対峙してから音がならなくなった。どうも、回りまで緊張していたようだ。
「タツキさん」
ミライザが駆け寄って来た。
「お怪我はありませんか?」
矢継ぎ早に言われて体を確認される。
ガラン! アイバンの持つ剣が途中から斬れて床に落ちる。
ッハ。ハッ。ハッ。
アイバンは息が出来なかったのか、やっとの思いで呼吸を始める。
国王ナルルドルとアンドール王子がアイバンに近寄る。
「何があった。ゆっくりで良い申せ」
「フェンリル」
「「ハ? フェンリル?」」
「私はかつてあの不毛の地で、フェンリルに直接会いました。
あの男はフェンリルよりも恐怖を感じる奴です」
国王ナルルドルがアイバンの両肩を掴む。
「アイバン、お前から見てフェンリルとタツキ。どちらが強い?」
「絶体にタツキでしょう。フェンリルは下級のドラゴンを餌にすると聞いたことがあります。
いかにフェンリルと言えど上位のドラゴンには勝てない。ですが、あの男なら難なく勝つことが出来るでしょう」
「な? 何を証拠にそんな事を言う」
アンドールがアイバンに凄んで聞いていた。
「あの男は木剣です。私の剣はミスリル製です。木剣でミスリルを斬ったのです。
お分かりになりますか? 折ったのでは無いのです」
国王ナルルドルが椅子に座る。
「皆、静まるように」
それまでの騒ぎが嘘のように止まる。
「タツキ、大した腕だ。
して約束の報酬をやろう。何が良い?」
「ミライザが領主となるに当たり、一切の金銭的援助がない。そう聞いた。
ミライザに金銭的援助を希望する」
「金銭的援助? それはおかしい。
すでに10億リンの援助をアンドールをかえし行っておるはずだ」
ミライザが下を向く。
「陛下、私は一切の援助を得ておりません。
これまで準備したのは、私が冒険者とした働き得たお金で買い集めた物ばかりです。
片道分の食糧を確保したくらいです。
これから王都の屋敷を処分し領地運営の資金を得る予定です」
国王ナルルドルがアンドール王子を睨む。
「な、なに(怒)
すまなかった。あの土地は我が国にとって大変重要な場所だ、その為にミライザに頼んだのだ。
ミライザ、そなたに50億リンの資金を出す。王都の屋敷はそのまま使うが良い」
「アンドール。
貴様に与えた土地と権利を戻す。
それから自らの私財を売り、国に50億リンを迷惑料として納めろ」
「な?」「ハイ、ありがとうございます」
「所でタツキ。お主は何を望む?」
「特に無い。
俺達がミライザについて来たのは海が見たいからだ、その目的が達成されればそれでいい。
俺達は冒険者だ。その日暮しも問題がない」
「はは、欲がないな。
タツキ、ダリア。2人には王都の私の私邸を自由に使える許可をだそう。
普段、使っていなく多くの客人が来た時だけ使っている。
そこを自由に使うが良い。メイドも複数おる、家賃や人件費等は我が国が持つ。
いつでも遊びに来ると良い」
「そうか、ありかとう。
この国に遊びに来る理由がミライザ以外に増えて嬉しいよ」
その日、ミライザの屋敷で領地についての話があった。
「お二人に大事な話があります」
「何よ、改まって。
お兄ちゃんと結婚したいって言っても駄目だからね」
ダリアが真剣な顔で言うが、ダリアの発言にミライザが少し引いてしまう。
「領地についてです。あの土地はかつての魔王アンダルシアの配下、フェンリルがいると言い伝えられています。
そのフェンリルの縄張りは広く人が住む場所が狭いのです。
何度も森を開拓して居住地や農地を増やそうと試みるのですが、どういう訳か皆干拓に関わった者が消えてしまいます」
「なんだそんな事? で、私達に何をしろと?」
「ハイ、出来ればフェンリルとの話し合いについて来てもらえればと思っています」
「話し合い?」
「ハイ」
何でも2代前の領主の元にフェンリル自身が来て、一度話し合いが行われたのだと言う。
その時、必要な農地の開拓の許可をもらい農地が増えた。所がその次ぎの領主がしくじりフェンリルの怒りを買い追い出されたのだと言う。
そこに白羽の矢がたったのがミライザなのだ。何でも2代前の領主ににている。ただそれだけの理由らしい。
それから数週間後。ミライザを先頭に地方移住を求めるもの達が集まり移動することになった。その中にミライザの屋敷のメイドが2人、筆頭執事の男性が一人とナダリーが続く。
他に冒険者、鍛冶士の親娘、商人、農家の二男や三男と言ったもの達が続き、総勢50名が列をなして移動する。
俺とダリアはちゃっかりとミライザの馬車乗っての移動だ。
「ねぇ、ミライザ。下の子達はどうするの?」
「あ、後一年程してから来る事になりました。タツキさんとダリアさんのお陰です。
兄のアンドールの企みがばれてだいぶ事情が変わりました」
それから、2週間をかけて領地に到着する、確かに狭く回りは森に囲まれている。そして川を挟んである程度進むと海があるようだ。
ミライザが到着した時、領地の代官が出迎えた。その顔は満面の笑みを浮かべいかにも歓迎しているような顔をしている。
たが、残念なことに俺の神目には、真逆に映っていた。




