みずがめ座 アクアリウスの勇者
誕生日を祝ってもらった数日後。
休みを取り雑貨店や、素材屋を巡り暇潰していると全く隙の無い、まるで刃をまとったような物凄く刺々しい魔力を放つシスターと出会った。
肉串を食べ、ベンチにすわる。
シスターが俺の前を優雅に通り過ぎるがその動きを見て恐怖した、冒険者のランクにするなら優にSランクを越えると思える実力者だ。世の中はまだまだ広い。あれだけの実力者が何の欲もなく唯歩く姿に恐怖を覚える。
次の日、1人でぶらっとギルドに来る、1人でギルドに来た事が珍しかったのか職員に声をかけられた。
「タツキさん。おはようございます。
お一人で依頼ですか?」
「ハイ、何か簡単な物でもと思っています」
「一つ、良いのがあります」
そう言って渡されたのがスラムにある教会兼孤児院の依頼。
内容は書かれていなく、"手伝いをしてくれて体力に自信のある方"と不思議な書かれ方がされていた。
「これは?」
「あ、い、いえ。
別に塩漬けっ。
いえいえ、受け手がいなく困っておりまして。誰か受けて頂けないものかと」
この手の依頼はGランクやFランクが中心でやるはずだ。
危険がなく確実にお金が手に入る。にも関わらずここまで放置される、確実に面倒事だ。
「了解しました」
「やって頂けるんですね」
「条件があります。この依頼金額では受けるつもりはありません。
冒険者はボランティアでは無いですから」
職員がニヤっと笑うと袋を取り出す。
「10万リンあります。こなして頂けたら追加報酬を出しましょう」
「後で言ってない、とか無しですよ」
フフ。ハハ。
お互いに相手を見て笑いながら承諾する。
1度宿に戻り全身鎧を脱ぎ、日照だけ帯刀して依頼のあった教会兼孤児院に向かう。
教会とおぼしき場所に付くと、かなりおんぼろな建物があった。少しぼーぜんと眺めていると年老いたシスターが出てきた。
「すまない、ギルドの依頼できた。この依頼はここで良いのか?」
年老いたシスターが俺をマジマジと見る。
「あんた、壁の修繕や草取りなんてできるかい?」
「やらせてもらう、久しくやってないからお手柔らかに頼む」
ちょっと訝しげに見てはいたが壊れた壁の所に俺を連れてきた。
「シスター、聞いてもいいか。
この辺の壁の傷はあからさまに何かで斬った傷だ。この辺りはモンスターでも出るのか?」
シスターが俺を見る。
「周りの連中だよ。虐げられた奴らが憂さ晴らしでやってくるのさ」
「そうなのか。取りあえずこの辺りに散らばっている壁も使って良いのか?」
「あんた、本当に経験があるのかい?」
「兵役上がりだ、得意だから任せておけ」
年老いたシスターが初めて笑った。
それから壁の補修を開始する。その内に孤児院の子供達が手伝ってくれて、お昼前には修繕を終える事が出来た。
年老いたシスターが子供達を迎えに来た。
「さあ、あんた達。お昼にするよ」
「お兄ちゃんバイバイ!」
元気な子供達を送り出し壁に座る。
周りから俺を見る者達がいる、そいつらが何故か一気に消えた気がした。
咄嗟の事で思わず逆手で日照を抜き、上段から剣を前にたらし、対峙する。
目の前には誰もいない。いや、見えないだけで誰かいる。
良くわからないがそう思った。ドクン、ドクン、ドクンと心臓が音をたてる。
教会の中から、シスターが来た。昨日あった刃のような魔力のシスターだ。
全身から汗が吹き出す、シスターが俺の前まで静かにくる。
「貴方でしたか、昨日ぶりかしら?」
「あんた、本当にシスターか?」
「あら、貴方こそ冒険者ですか?
貴方の雰囲気からすると、第2旅団か急襲隊の人間にしか見えないけど」
「俺は冒険者だ。元、急襲隊出身だかな」
「そうか、私も第2旅団 第3小隊長だった」
日照をしまい、謝罪をする。
「失礼しました。元急襲隊 隊長タツキ ムルシアと申します。
第2旅団の皆様には大変お世話になりました」
「良い、私も退役した身だ。
それとタツキの話は耳にタコが出来る位に良く聞いている。
王妃奪還の為の特別隊の隊長は私の兄だ。兄達の思いを繋いでくれた事に感謝している。
所でタツキは何の用でここに来ている?」
「ハイ、ギルドの依頼で、壁の補修と草刈りの予定です」
「まさかと思うがまだGランクか?」
「いえ、ギルドから頼まれました。現在はCランクです」
「わかった。仕事の邪魔をして悪かった。
私はマリアだ。みずがめ座 アクアリウスのマリアと言えば分かりやすいだろうか」
「みずがめ座 アクアリウスのマリア?
すでにお亡くなりになったと聞き及んでいましたが?」
「てんびん座 リプラにはめられてな、マタベリア辺境伯も知っている」
マリアはそう言うと静かに教会に戻って行った。
もしかすると監視されているのか? ギルドが俺を寄越したのはそれを駆除しろと言う事か?
その後孤児院の子供達と一緒に草むしりを行い作業が終わった。子供達と書類にサインをもらおうと教会に入るとマリアさんがいた。
「タツキは子供が好きなんだな。こんなにこの子達が懐くのは珍しい」
「そうですか? 俺もダリアも孤児みたいなものですから」
「ダリア?
ひょっとしてダリアが言うお兄ちゃんはタツキか?」
「え? ダリアを知ってるのですか?」
「ああ、マーチが連れてきた。先週も会ったばかりだ」
マーチさんがダリアを連れて来た、何故俺は連れて来ない?
サインをもらった書類をもらいながらマリアさんが小声で話す。
「お前達も注意しろ。聖教ナイトの一件でお前達は賞金首の仲間入りだ」
「賞金首?」
「そう。私やマーチ、マタベリア辺境伯。後は宰相と国王だな。
まあ、お前達の金額はたいした額じゃない、だからこそ沢山群がって来るぞ。
アイツらはアント系のモンスターと一緒だ。グルメじゃない選り好みはしない」
「十分に注意します」




