昇級試験
マーチさんを連れて来たのは宿に泊まっていた時に良く使っていた食堂だ。サーフィンとブリットも研修をした時に一番最初に食事に連れて来た事の有る場所だ。
大将とは結構仲良くなって、休みの日なんかは大将とその家族に付き合い食材集めに同行したりもしていた。
マーチさんがお店の看板を見ると。
「食材。まにあって要るのかな?」
そう呟いた。来た場所が飲食店だと直ぐにわかったらしい
「お、タツキ。良く来たな。
相変わらず、お前さんの回りは綺麗な子ばかりだな」
「からかわないで下さい。
この人はマーチさん。大将と一緒でこの街に来てからずっとお世話になってる人です」
「なんだ、いい加減腰を据えてこの街に残るのかと思ったが違ったか?」
そう言ってダリアをからかうと、ダリアも大将を睨む。
「大将、悪いけどエールを先にもらえるかい」
「あいよ、3つで良いかな」
マーチさんの顔を見ると頷くのでそのままお願いする。
エールを貰い一口飲む。
「マーチさん。
ハイこれ。私とお兄ちゃんから」
「え? 何ですか急に?」
「マーチさん、誕生日過ぎちゃったけど私達から。お誕生日おめでとう」
「あ、」そう言うと嬉しそうにしている。
「開けても良い」そう言いつつすでに梱包を外していた。
「これ、欲しかったバック。タツキさん、ダリアちゃん有り難う」
「そんなこと無いよ。何かあれこれ有りすぎて誕生日過ぎちゃったけど」
ダリアが申し訳なさそうに言う。
「ハイよ、お待たせ」
大将が食べ物を運んでくれる。
「食材は問題無いですか?」
マーチさんとしてはどうしても気になったのだろう。
「問題無いよ。俺も昔は冒険者だ。
まあ、王都でやってたけどな。この辺りのモンスター位なら自分で狩りに行けるし大丈夫だよ」
それはギルドや肉屋を通して肉を買わないお店、と言う意味だ。
基本、飲食店や宿屋にはギルドもしくは商会を通して食材を集めるようにお達しがある。だが、そのお達しを守らないお店も時々ある。
まあ、この店がそう言う店なのだが。
そこはマーチさんも何も言わずに許してくれたみたいだ。
「そうでしたか。こんな緊急時だとかえって有難いですね」
「まあ、難しい話はやめだ。今日は客足も悪いし貸し切りにするからゆっくりと楽しんでくれよ」
「「はーい!」」
俺とダリアがマーチさんに代わり元気な返事をする。
翌日、マーチさんの機嫌がすこぶる良く。ギルドに来た冒険者達とレインが恐怖していたらしい。
『あれは嵐の前の静けさ、いや、嵐の前の笑顔だ』
そう言って恐れおののいていた。
◇◇◇◇
俺達は、何時ものようにサーフィンとブリットを連れて中級ダンジョンに入ってからギルドにくる。
倒したモンスターを卸す。
今日は岩猪を10匹、オークを10匹倒して持ってきた。
「お、今日はダンジョンは通常営業だったみたいだな」
仲良くなった解体職人さんが安堵した顔をする。
その後受付にくる。
「タツキさん。レインさんが呼んでいました。お時間があればギルマスのへ屋にお願いできますか?」
「わかりました。これからでもいいですか?」
「なら、私が話を通しておきますね。ちょっとお待ち下さい」
そう言ってギルマスの部屋に向かう。
「タツキさん。ダリアちゃん。お二人でお願いします」
ダリアと2人でギルマスの部屋に入る。
「おお、良く来た。ちょっと2人に相談だ」
何故か嫌な予感がした。
「話を聞く前だが断ってもいいか? 嫌な予感しかしない」
レインが悪い顔で笑う。
「おうおう、タツキは相変わらず感が鋭いな。
ま、話はするが、その上でもう一度返事をくれ」
それはこの街の警備隊に技術指導をして欲しいと言う内容だった。
だが、警備隊は軍の所管。そこに技術指導となるとまた軍に戻る事を意味している。
「悪いが退役した身だ。技術指導は断らせてもらう。
まだ、ブリットとサーフィンも途中だしな。
悪いが断っておいてくれるか?」
「だろうと思ったよ。前もって断りは入れてある。
だが、兵士の中にも個人的に冒険者をやってる者もいる。
そう言った奴らからの依頼が入る可能性がある」
「場合による。サーフィンとブリットはFランク昇級を条件として受けている。
今の所は同じ条件であれば受けるが、昇級後は話し合いだな。サーフィンとブリットからは正式に一年間の指導依頼を受けて指導をしている。
それと最大で6人までだ。すでに2人を受け持っている。残りは4人だ」
「了解した。警備隊で冒険者登録をした奴がいる、男女2人組だ。
明日の昇級試験はその2人も受ける予定だから、お前の指導の希望があれば明日また話そう」
「わかった」
そう言って部屋を出る。だが、レインが絡むとやはり面倒だ。あの男、面倒事しか俺に持ってこないようにしてるだろう。
そう思うと腹が立ってきた。
翌日、Fランク昇級試験のためにギルドに来た。まあ、試験官としてだけどね。最低三年は試験官をしないといけない。
今回の試験に集まった人数は約30人。中には何度か試験を受けた者もいる、もろもろの説明を終えて試験に入る。
最初は三度目の試験を受ける男だ。
「よろしくな」
「ふん、今度こそ倒して合格してやる」
そして5分後にはその受験者が背中を地面に付け大きな口を開けて息をしていた。
「合格だ。今まで一番良かった。これなら狡猾なモンスターにも対応出来るだろう」
そう言って手をつかみ体を起こす。
「へ? ご、合格?」
「そうだ。合格だ。良く頑張ったな。めざましい進歩だ」
「は、はは。やったぞ」
その日は何度か試験をうける者を中心に15人程の合格者が出た。
最後は警備隊に所属する男女2人だ。
「準備が出来たら始めよう」
「俺はいつでもいい」
「私もです」
長木剣を持ち、2人と対峙する。男がいきり動いた。その動きは不意だったのだろう、女が驚いた顔をしていた。
男の上段からの振り下ろしを交わし腹を打ち抜く。すると、俺の動きが止まったところをめがけ女の突きが入る。
体を回転させながら剣をいなすと前のめりになった女の顔めがけ蹴りを入れる。
2人がよろよろと立ち上がった所で止める。
「2人共に失格だ。
動きが単調すぎる上に直線的でひねりがない。
モンスターは狡猾だ。2人がモンスターに近づいただけでやられるのが目に見える。
今のままでは昇級は無理だ」
「なぜ俺達が無理で、はるかに弱そうな奴が受かる?」
納得いかないような顔で文句をいってくる。
「これは冒険者のための試験だ。
お前達はモンスターの事を知らないのだろう。
奴らは狡猾だ。
今のお前達の実力では、今以上のレベルのモンスターを倒すのは無理だ」
「納得いかない。貴様は俺達が警備隊の所属だからと言って不利な判断をしただけだ」
警備隊の男が騒ぎだす。
「そう思うなら初級ダンジョンにでも入ったらどうだ。
俺の判断は初級ダンジョンに入ってぶしに帰ってこれるかどうかだけで判断している。
今のお前達じゃ、入る事は出来ても永遠に戻る事は無いだろう。
まあ、部隊で入るなら問題無いだろうけどな」
パン!! 俺の体に手袋が当たる。
「貴様に決闘を申し込む。俺はこれでも伯爵家の子息だ。
貴様のような奴にここまで馬鹿にされて黙っているわけにはいかない」
「断る。悪いが俺には何もメリットがない、俺が勝ったとしてお前に何が出来る?
お前達の給料で何が保証できる?
地位も権力もないお前達に何が出来る?
決闘を申し込むならそれなりの覚悟と金が必要だろう」
「なら、これをかけよう」
そう言って出したのが伯爵家の家紋が付いた剣だ。
「お前は本当に世間知らずだな。貴族にとって家紋は命より大切かもしれない。
だが、俺達からしたら二束三文にもならない。価値の無い物だ。
そんな物は釣り合わない」
震えながらまだ何か言おうとした男を女が止める。
「大変失礼致しました。本日は退かせて頂きます」
「そうしろ。
稽古がしたいなら、Fランク昇級まで訓練の受付はしている。
試験に落ちた奴が基本だ。すでに2人の訓練を実施しているから残りの枠は4人だ。興味があるなら受付に言っておくように」
何時ものように試験を終えて闘技場を後にする。




