冤罪
ダンジョンを隅々まで確認するとフロアーの一番奥に上の階層に上がる階段を発見した。そこで今日のダイブを終了する。
一階フロアーに出たモンスターがブラックウルフ、岩猪、スモールベアだった。
スモールベアは体長40cmに満たないサイズで大人しいモンスターだ。
こっちから攻撃を仕掛けても逃げるだけという事も多い。
代わりに厄介なのが岩猪。頭に岩がくっ付いている猪で、岩は少しづつだが成長すると言う物凄く珍しいモンスターだ、その肉は国王に献上される程美味しいと評判でもある。
岩猪は頭に付いた岩が成長すると前が見えなくなる事もあってダンジョンの壁や大岩等に頭をぶつけて定期的に岩を小さくする。
冒険者は岩猪にとって格好の相手で、硬いメイル等を着ている冒険者にわざと突進して岩を砕いたりするのだ。
サイズはでかいもので2mをこえるものいる。そんなでかい体に付いている岩はそれこそでかくて硬い、当たり所が悪いと即死するレベルだ。
我々が対戦したのはまだ小さいサイズで約1m位、頭に付いた岩も10cm程度だった。
頭に付いた岩を狙わなければ簡単に倒せるサイズだった。倒したモンスターを卸す為にギルドに行く。
この間いなかったマーチさんがカウンターにいて暇そうにしていた。
「マーチさん。お疲れ様です。モンスターの買い取りをお願いできますか?」
「あら、裏切り者のタツキさんじゃ無いですか?
私以外の女に手を出しておいて、良くこれますね」
マーチさんの営業スマイルがまぶしい。
おそらく家探しの事を言ってるのだろうと思うけど、手を出してってどういうことだ?
「この間、龍源と言うお店を紹介してもらいましたが、その事ですか?」
何故か睨んでくる。なんの事だ?
ダリアを見てもダリアもキョトンとした顔をしている。
「マーチさん。お兄ちゃん何かしたの?」
ダリアがマーチさんに話を聞く。
「ダリアちゃん。貴女って本当にけなげね」
そう言うとカウンターから出てダリアを抱き締めた。
さらに混乱してくる。
マーチさんが俺を睨み指をさす。
「タツキさん。貴方昨日1人で街なかで買い物してましたね。
私は見ましたよ。買い物のあと知らない女と高級旅館に入って行くところを」
そう言うとさらに睨んできた。
いや昨日家にいたぞ。まる1日かかって農機具の整理やいらない物を仕訳して、畑の一部の草刈りをして終わったぞ。
当然ダリアと2人で作業してたからダリアも知ってるぞ。
「いえ、先週借りた家の片付けに追われて昨日はどこにも出ていないですよ。
今日も片付けしてましたが、流石に疲れてダリアと一緒にダンジョンに行きましたけど。
先週から家を出ていないですよ」
「フン、私は騙されません。おまけに私以外にもタツキさんを見た人がいます。
その人もタツキさんがダリアちゃん以外の女を連れていたと言ってました。
速やかに白状しなさい。今なら優しくトドメをさしてあげます」
知らんがな。何を言ってるんだこの人は。
「おお、タツキ。良いところに来た、ちょっと俺の部屋に来てくれ」
そんな喧騒の最中、空気を読まないギルマスのレインが来た。
「マーチ、お前何いらついんだ? ギルドで暴れるのは駄目だぞ。
タツキ、ダリア。2人にお願いがある、部屋まで来てくれるか?」
「「はい」」
良くわからないままレインに連れられてギルマスの部屋に入る。マーチさんが音もなく俺達についてギルマスの部屋に入ってきた。
まだ、俺を睨み凄い殺気を放っている。
「タツキ、座ってくれ。紹介したい奴がいてな少しここで待っててくれ」
「それとマーチ。勝手な事をするなよ、お前後悔するぞ」
レインが部屋を出るとガルルルルルとマーチさんの唸り声が聞こえてきた。
俺が何をしたって言うのよ?
意味も解らずレインがくるのを取りあえず待つ。
レインの戻る時間が1分が1時間にも2時間にも感じる緊張感の中で待っていると、ついにマーチさんの我慢の限界が来た。
チョークスリーバーのように首を絞められ、マーチさんの腕をタップしているとこにレインが来た。
「マーチやめろ、タツキを殺すつもりか?」
ガルルルルル!! レインに対しても威嚇をするマーチさんをレインが納める。
それはこの世の終わりかと思う程の殺気と威圧だった。
睨み会う2人の殺気は、正直に俺もダリアも人生を諦めた程のものだ。
バチバチと火花を照らすレインとマーチ。
「おい、タツキは無罪だ。マーチ、後悔するぞ。
お前に対して、ここまで普通に接する奴は2度と現れない」
「ガルルルルル。女の敵はいらない」
「言ってる意味がわからないな? 女の敵はお前だ」
「んへ?」
マーチさんの間抜けな返事がが聞こえる。
「だから、タツキは何もしてない、唯の冤罪だ。
それでもお前の勝手な想像でタツキに何かしてみろ、この世のすべての女性がマーチ。お前の敵だ」
少しマーチさんが後ろに下がる、そして緩んだ腕を抑えダリアが助けてくれる。
「ちょっとマーチさん。酷すぎる。
私とお兄ちゃんは、マーチさんの誕生日のプレゼントのために一生懸命にモンスター退治してるのに。
お兄ちゃんが何かしたの?」
マーチさんがオロオロとしながら話す。
「だってタツキさんが女と…」
「マーチさんはそれを直接見たの!!」
ダリアの怒りが爆発する。
「だって後ろ姿が一緒だったもん…」
「呆れた、お兄ちゃんが大好きなのにちゃんと本人か確認もしてないの?
ちゃんとお兄ちゃんに聞いた?
どこで何をしていたかって?
何も確認もしないで勝手に決めつけるなんて、マーチ。あんた、最低だよ」
ダリアが強気に言い放つ。そこまで言われるとマーチさんが泣き出してしまう。
「いい、お兄ちゃんは嘘が下手なの。嘘を付くと耳がパタパタと動くの。
知ってる?(フルフルと顔をふるマーチさん)
そんな事も知らないなら、余計なことを言わないで!!!!」
感情を剥き出しにダリアが言い放つとマーチさんが固まってしまった。
「だってぇ、タツキさんそっくりだっしぃ。私本当に…えーん…(泣)。
私やダリアちゃんじゃないのか悔しかっただけだもん」
おいおい、マーチさんって何歳よ。
それより、俺はダリア以外の女性はやっぱりいらない、なんなのこのヒステリックな人は? 本当に勘弁だよ。
「ダリア、ありがとう。やっぱり俺の仲間はダリアだけだよ」
ダリアが真っ青な顔をする。
「お兄ちゃん、ちょっと待ちぃ!!
しっかりせいや!!」
そう言うとバン、バン!! と俺のほほを何回も叩く。
「気を確かに、しっかりしろ!!」
何度も何度も俺に話かけるが反応が無いことを確認する。それもそのはずだ、俺はチョークスリーパーから解放されるのが少し遅かったのだ。失神してしまっていた。
「レイン、貴方は残って。他の人は直ぐに部屋から出て!!」
レインとマーチさんが緊張する、そこに畳み掛けるようにダリアが言う。
「いいからマーチ、あんたは早く部屋から出なさい。連れてきた奴も一緒にだ」
「あ、は!ハイ!」
マーチさんが男女2人を連れて部屋を出る、それに合わせてレインが緊張して腰に下げた剣を抜く。
「なあ、ダリア。これが本当のタツキか?」
「責任取りなさいよ。こうなったら誰にもお兄ちゃんは止められないよ。
お兄ちゃん、百人隊長の試験の時にこういう状態になって、Sランクの冒険者4人とAランクの冒険者を14人殺してるからね。
勇者だと言っても油断できないよ」
「マジか、俺より強いじゃねえか。俺死ぬかも。
でも何でダリアはそんなに落ち着いてんだ?」
「当たり前でしょ、お兄ちゃんは私に絶体に攻撃しないの。
この状態のお兄ちゃんを止めれるのは私だけよ」
レインが構える。
ドガン!
「オオオオー」
ガギャン!!
ギャイン!!
「オラー!!」
フー。フー。
「おい、ダリア。いい加減止めろ」
「おい、お前かダリアを泣かしたのは?」
レインが呼吸を整える。するとマーチさんが部屋に来た、手にはレイピアを装備している。
2対1の構図になりお互いに見合うと、そのタイミングでダリアが前に立つ。
「お兄ちゃん、もうお家帰ろ。全部終わったよ」
「ダリア。怪我してない?」
「私は大丈夫。後でお兄ちゃんの怪我も直してあげるね」
「うん」
そう言うと倒れてしまう。




