正しい評価
「やったじゃん。凄い事じゃない」
ダリアが2人をハグする。
「ダリア~」「ウワー!!」
2人がダリアに抱き付き大声を上げて泣き出す。
「うれじいぃ」「うれじいぃ」「うれじいぃ」「うれじいぃ」
カーサレットが言葉にならない声を上げて喜んでいる、その最中に学園長が俺の元に来る。
「初めてましてじゃな。
よくぞこの2人をここまで鍛えてくださった。学園長として、ここで子供達を預かる者として感謝します」
「よしてくれ。俺はそんな凄い事はしていない。ただ、何かと逃げ癖の有る2人だ。
無理矢理逃げ場の無い状況に置いただけだよ。正直にここまで追い込まないとやらない奴も珍しいけどな」
「ナルフレットとカーサレットは半ば諦めていたかも知れません。
学園の授業料を働きながら支払い、短い自分の時間に勉強をしていました。これが平民の子達なら、諦める環境じゃなく誇りに思う事かもしれません。
人は生まれた環境によって受け取る印象がこうまで変わるもの、それは我々大人の責任です」
「そこまで難しく考える必要は無いさ、誰しも平等にチャンスは恵んでくる。みんなそうだ、そのチャンスをいかに掴むかだ良くも悪くもそれをいかすだけだよ。
そして、2人は運が良かった。例え俺達が同行しなくても別の者でも同じ結果を得ただろう」
「若いのに達観した考え方をされるのだな」
「頑張ったのはナルフレットとカーサレットの2人だ、そこを褒めてあげないと。俺達はただ付き添っただけだ」
「頑張ったのは2人。そうですな」
学園長がナルフレットとカーサレットの元に行く。
「2人とも、とても良く頑張りました。
試験の前と今では別人かのように自信に溢れている。良く、同行者を信用して努力をしました。
それと貴女達は運が良い、これ程の同行者は珍しいだろう。そしてこの短期間でレイスを倒す程の努力、それは想像を絶する努力だったはず。本当に良く頑張った。
君たちはワシの経験上、最も優秀な生徒だ」
「「せんせい」」
ナルフレットとカーサレットが立てない位に泣き出す。
「ありがとうございます。こんなに評価された事が無くて」
「私もです。初めて、生まれて初めて評価を頂きました」
「さあ、ナルにカーサ。
いつまで地面にへばりついてるの。これから親方と司祭のところに行って報告でしょ」
ダリアが2人を立たせる。
「「うん」」
「ねえ、ダリアかタツキさんがどっちか付き合ってもらえないかな? 私一人で司祭様に会うのはちょっと怖いかも」
カーサレットの深刻な表情を見て俺が付き合うことにした。
「カーサレット。俺が行こう」
「ありがとうございます」
カーサレットが深々と頭を下げる。ナルフレット達のいる鍛冶屋とは反対側に行くとギルドがあり、そのギルドの隣に教会があった。
教会の外でシスターが立ち前を通る人を睨みつけていた。
「カーサレット。あのシスターは何をしてるんだ?」
「あの人は、ああやって教会に人が近よらないようにしているんです」
「何故?」
「反対側を見て下さい、反対側は聖マリーンナ教会で行っている治療院です」
「変な奴」
ボソボソと話をしながら教会にくる。
「お兄さん達は冒険者かい、治療なら反対側の治療院で受けれるよ」
「治療院に要はない。こっちの教会に用がって来た」
「は?」
そう言うと突然、単刀を両手に持ち俺達を威嚇する。両手にスラッシュをのせてシスターの両手を切り落とす。
スパ!!
「ギャァー」
「あんた治療院の人間だろ、治療院で治してもらえ」
治療院に駆け出すシスターの両足にスラッシュを飛ばす、足のケンが斬れたのか倒れてしまうが運良く治療院から人が出てきて助けてくれていた。
「さて、カーサレット。入るか?」
「は、ハイ」
カーサレットが凄く緊張感に包まれる、一呼吸置いてから教会の扉を開けると中にはシスターがいた。
「司祭様。カーサレット戻りました」
シスターが震えている、何があった?
「カーサ! あんた。私って者がいながら男を連れて帰る何ていい度胸してるじゃない」
立ち上がるとそこにはシスターの格好をした髭を生やしたおじさまがいらっしゃった。
「カーサ、いつも言ってるでしょう。司祭じゃなくてシスターとお呼び」
プリプリと怒るその姿は女性そのものだ。でもその髭面に俺にも負けないマッチョなシスターは絶対にいない気がする。
「で、カーサ。あんたの後ろの男は誰よ。
ここは男子禁制よ」
なんだろう? 俺じゃなくダリアならうまくこなしてくれた気がする。
俺、確実に人選間違えた気がする。
「この方は私とナルフレットの協力者の冒険者の方です。学園から、ワザワザ私の護衛の為について来てくれただけです」
ふと、建物の奥に人の気配を感じる。
「そ、なら3ヶ月も教会を明けたのよ。仕事しなさい」
「司祭と言うのはあんたなのか? それとも後ろで隠れている奴なのか?」
「あらあら可愛いお兄ちゃんね。でも余計な口出しは不要よ。
これは私達、聖母教会の問題なの。お・わ・か・り」
「話し合いがしたいなら殺気を向けてくるな。俺は優しい奴じゃない」
司祭が動き構えを取る、おそらく騎士だろう、それも相当の腕前だ。俺に対し牙を向いて突きを出しながら距離をつめてきている。
司祭の突きを交わしカウンターを合わせる俺の突きがシスターの顎をとらえた。
「ぶご!」
司祭が足から落ちて動かなくなる。
ガチャッ。
奥の部屋から眼鏡をかけた少女が出てくる。
「司祭長」
カーサレットが平伏する。
この世界に眼鏡をつける人がいることに驚きを覚えた。それも牛乳ビンの底眼鏡だ。
「司祭長、またその趣味ですか? 何処で仕入れたのですか?」
「カーサ。良いだろう? メルボルス立国のキョウコ アラビアータ殿がくれたのだ。ただ、これをつけるとめまいがしてくる」
「それは眼鏡と言う物だろう。普通の視力の人がそれをつけていると、逆に目が見えなくなるぞ」
「「な?」」
「そなたは誰だ?」
眼鏡を外した司祭長が俺を見る。
「カーサレットの友達だ、学園の試験に協力した冒険者でもある」
「なに、貴様かカーサを拐った男と言うのは?
は、ま、まさか。カーサ、女になったのね、大人の階段を上がったのね」
「拐われていませんし、そんなやましい関係ではありません」
「ふん、ならどう言う関係だ?」
「ナルと2人で協力をお願いしました」
「嘘つけ! お前達に支払い出来る金なんか有るはずがない。やはり、禁忌を破って体で払ったな」
「司祭長!!」
カーサレットの怒った顔を見て司祭長が大人しくなってしまった。
「はい、ごめんない。
ちょっとからかってしまいました」
見た目が少女の司祭長がシュンとしてしまった。
「それで、結果はどうだった? まさかと思うが、だめでしたは無いだろうな?」
「ハイ、授業の免除と特別特待生の資格を頂きました」
「あはは、そ、そうか。そうかそうか、なら働かなくても良くなったと言うことだな。
いや、良く頑張ったよ、ほっと良くやったよ。
ホレ、持っていけ。
それと部屋の物も持っていけ」
そう言うとお金が入った袋をカーサレットに渡す。
「あ、あの?」
「いつでも来たい時に遊びにおいで。ナルと一緒に住むんだろう、それは餞別だよ」
「ありがとうございます」
「カーサ。今までふてくされること無く良く頑張った。
そのお金は今までの貴女の働きに対する正当な報酬だよ」
カーサレットが泣き出してしまう。
「ぐずぅ。司祭長、ありがどうごさいます。う~、うわ~ん」
その後カーサレットの荷物をマジックバックにしまいナルフレットの待つ宿屋に行く。鍛冶屋の裏でみんな揃って待っていたようで、鍛冶屋の裏でバーベキューとなる。