過去の思い
グリフォンとホワイト羽タイガーの討伐が終わり、馬車にかけていた光壁を外すと人が降りてきた。
「あの、ありがとうございます」
「え? 良いよ。ただグリフォンとホワイト羽タイガーの素材が欲しかっただけだから」
そこにいたのは二十歳前後の夫婦だろうか、かなり仕立の良い服を着こなしていた。嫌みの無いその着こなしは貴族ではなく何処かの大商人だろうか、勝手にそう思い込んでしまった。
すると夫婦が俺とダリアの前に来る。
「すみません、我々夫婦はユーリシア辺境伯領からマダラカス国に向かう途中です。
よろしければ護衛として我々の馬車に付いて来ていただけませんでしょうか?」
「護衛? 護衛も付けずに旅してるの?」
ダリアが夫婦に聞いていた。
「いえ、ルルダンルで護衛を雇ったのですが、気が付いたら何処かに消えておりました」
ダリアが俺を見て、一緒に行ってもいいんじゃないか? そう言って来た。
「良いよ、俺達も同じだユーリシア辺境伯領からマダラカス国に向かっていた。
別に護衛する数が増えても何も問題無い」
そんな話をしていると兵士達が集まってきた。
「すまない、せめて君達の名前を教えてもらえるか?」
「名前? 何故だ、たいしたこともしていないのに」
「たいしたことしてない?」
兵士達がポカンとした顔をしている。
そこにタッカン近付いてきた。タッカンも俺達の事を見て少し呆れてはいたが、身だしなみを整え兵士達に言う。
「我々はアップルランド国、ミライザ公爵の使いだ。前もってお忍びでマダラカス国に向かう旨は報告済みである。
申し訳無いが先を急いでいる」
その言葉にユーリシア辺境伯兵団の隊長とおぼしき兵士が敬礼する。
「大変失礼しました。
今回のご助力感謝いたします」
兵士達と別れ、新に夫婦の乗る馬車の従者をダリアが勤めた、夫婦の馬車の後に俺達がついて移動する。
移動してお昼頃になり、手頃な広場をのような場所を見つけ休憩を取る。
馬車から夫婦が降りてきて我々の前に立つ、その顔は少し緊張している。
「私は、マダラカス国の辺境伯の長男。ラッパシュ ドント リンツ。
こちらは妻のアッパス。
先程は挨拶もできずすみませんでした」
俺が代表して前に立つ。
「こちらこそ挨拶出来ずに申し訳ございません。
こちらは私の妻です。我々2人はアップルランド国、ミライザ公爵より正式に依頼を受けてこの2名をマダラカス国に届ける依頼を受けています。
我々4人は、共に隠れながらの移動を行っております。
我々の失礼を先にお詫びします」
ラッパシュが不意に何かに気付いたようだ。
「確か、勇者認定を受けた夫婦が国外追放されたとか?
それとタッカンと言うアップルランドの元伯爵家の者がマダラカスに亡命を望んでいると聞いています」
その言葉にみんなが緊張する。
「そんなに緊張しなくて大丈夫です。我らもマダラカス国のリンツ辺境伯家の事は隠してこうして移動しております。
どうでしょう。ここから先、貴方達はマダラカス国に入るまでの間ですが、リンツ辺境伯家が雇った護衛と付き添いの荷物持ちとして同行していただけ無いでしょうか?」
ラパッシュの言葉に少し戸惑う、もし本当なら有り難い限りだ。
「それは本気で仰っているでしょうか?」
「我々もお忍びではあったのですが、ここから先はリンツ辺境伯家の印を立てての移動が必要になります。
これはリンツ家とユーリシア家との取り決めです。正式に国境を接するユーリシア辺境伯領に入ります、我々が礼を欠くわけにはいきません。
それと同行して頂くにあたり、我々が直接雇った方としたほうが手続きが楽に進みます」
タッカンが俺を見て頷く。
「では、改めてよろしくお願いします。
我々の事をお教えしたいと思います。
先ず、俺がタツキ アンダルシア、こっちが妻のダリア アンダルシア。
後ろの男性が元アップルランド伯爵家のタッカン。そして娘のレタスです。
よろしくお願いします」
ラパッシュが俺とダリアを見て、納得した顔をしている。
「やはり貴方達が勇者の方達でしたか、それとタッカンにレタスだったな。
よろしく頼む」
それから数日進み、ユーリシア辺境伯都市の少し手前で最後の野営の準備をしている時だ。アッパス婦人から、こんな疑問が出た。
「タツキさんは何故そんなに料理がお上手なのですか?」
そこにラッパシュが入ってくる。
「ああ、それは私も気になっていました。
私も騎士団と共に野営を行いますが、基本的に保存食が多くこのように本格的な料理を食べるなんて無かった気がします」
そこにレタスが加わった。
「あ、それは私も同感です。私はEランク冒険者です。
野営でこれだけ豪華お食事は初めてです」
料理の手を止める。
「我々もダリアと2人の時は保存食で済ませる事が多いですよ。
時折、ダンジョンのセキュリティゾーンを拠点にする場合等は、料理を豪勢にする事はありますけど。
それと料理は慣れです、俺もダリアもメルボルス立国の軍出身です。
食事の準備は子供の頃からしてましたから、最初は簡単な物を作るのに凄く苦労しましたけどね」
タッカンが俺を見て何か神妙な顔をしていた。ラッパシュも何か思う事があったのか少し大人しくなってしまった。その日の夜、女性達が会話に花を咲かせているなか火の番をしている俺の所にタッカンとラッパシュ来て話し始めた。
「所でタツキ。
昔の事だが俺がレジェンダス国で暴れた事は知ってるな。
その時だ、俺達の騒ぎの裏で、メルボルス立国の特殊部隊が王妃を救出すると言う出来事が起きた。
この事は俺達とは全く無関係に行われた事だ。後に聞いた話しだが、其処に少年兵が混ざっていた、その話しを聞いた我々はその少年兵が何も出来ないと勝手に決め付けていたんだ。
所がだ、その少年兵は我々の憶測を否定するかのように王妃を無事に救出した。
その事に俺達は歓喜したさ。
あの軍事国家のレジェンダスを出し抜いたんだ、年端も行かない少年があのレジェンダスの鼻っ柱をへし折ったんだ。
俺はただな、その少年兵にお礼が言いたかったんだ。俺達の行動も、仲間の死も無意味じゃ無かった。そう思えたんだよ」
ラッパシュも懐かしそうに話す。
「私もその話しを聞いた事があります、本当に凄い事です。
正直にマダラカス国にもその報告が届いた時は皆信じられない気持ちで一杯でした。
ですが、マダラカス、アップルランド、メルボルス立国。
この三か国において貴重な情報がもたらされ三か国が手を結ぶ事でレジェンダス国からの侵略を未だに防いでいます。
我々もその少年兵には感謝しかありません」
タッカンとラパッシュが俺を見て静かに頭を下げる、そうなると仕方なく俺も話をする。
「これは昔話だ。
その少年兵は事もあろうか、王妃の髪を泥水で洗い。シルクの髪と歌われた王妃の宝を壊した。
それだけではない。自分のミスで、町娘達と一緒に盗賊に拐われた事もある。病気になってしまった王妃をただ看病するしかなかった事もある。
そのうち食料も何かも全て無くなりおんぶして国境を越えたのだ、平民での兵士が王妃の肌に触れ髪を汚したのだ、死罪になってもおかしくない状況だよ。
ただ、その少年は運が良かっただけだ、それだけだ。
国王が王妃をみた時、言葉を失ったと聞く。髪を全て剃り落としやつれた顔をしていた。
当然、国王は困惑した。だが王妃が国王をなだめ、事の成り行きを説明した上で訴えたたのだ。少年兵に恩赦を与え危険な仕事から安全な仕事に変わるようにしてくれたのだ。
全ては王妃の優しさに救われただけだよ」
「お兄ちゃん、交代だよ」
ダリアがきて話が終わる。




