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昔日

 良太は帰宅早々、自室にこもり、怜音の報告を待ちながら裏取りの成果をまとめ始めた。


 久我硝子の話した内容のうち、確定的なのは六年二組でイジメがあったことこと、祭祀という儀式で今のウカガイ様が決まったこと、それは投票式の儀式であったことだ。


 他方、どちらかが嘘をついていると思われるのは、イジメの対象となっていた生徒がウカガイ様に何をしていたのか。中村由佳は当該生徒がルールを盾にウカガイ様に危害を加えていたとし、久我硝子はウカガイ様こと松本千春を救おうとしていたと語る。また肝心の松本千春は、久我硝子しか知らない。

 

――それにしても、と良太はシャーペンの先でノートを叩く。


 久我硝子に気を付けろ、とは?


 中村由佳が去り際に残した言葉だ。久我硝子、中村由佳、萩原沙織の三人は教室で過ごす間は常に一緒だ。てっきり仲が良いものと思い込んでいたが違うのだろうか。


 良太は三角形の頂点を取るように三人の名前を書き、それぞれの間に線を引いた。入学して自己紹介をした日から今日までを可能な限り思い出していく。


 三人の立ち位置。喧騒の最中に聞こえた会話。洋介も交えた朝の挨拶に帰り際。嘘を重ねて秘密主義的を貫く久我硝子の涼し気な目。本人も好むたぬきに似たのか警戒心が強く臆病な中村由佳。そして群れを守る番犬のようでもある萩原沙織。


 あ、と良太は自らに呆れてため息をついた。


 散漫な思考を続けるうち三人の名前に重ねてキツネとたぬき、犬の顔を落書きしていた。これでは気持ち悪いという評に文句は言えない。消しゲムをかけようと手にとり、ケースの端に滲む黒色に気づき、koshokosho_3のアカウントを教えてもらった頃の記憶が閃く。


「由佳。中村さん。沙織――久我さん。硝子。由佳。あれ?」


 キツネとたぬき、犬から互いに延びる線に矢印を書き加え、それぞれの呼称を書き込んだ。


 中村由佳は、久我さん、サオちゃん。

 萩原沙織は、硝子、由佳。

 久我硝子は、中村さん、沙織。


「中村さんと久我さんって、仲良くない、とか?」


 宙に問い、互いの呼称であると書き足し、写真を撮って怜音に意見を仰いだ。

 しばらくして、


 怜音:白宮って森の学校だったりするの?


 という軽口の返信を受け取り、良太は落書きを消し忘れたことに赤面した。何かに気づいた瞬間はいつも慎重さを欠いてしまう。


 良太:違うよ。

    そういう雰囲気の人たちってこと。

    

 怜音:だとしたら仲良くすべきは萩原さんだね。

    狐や狸と違って犬は家畜化されてるし

    狸が懐いているようなら安心だよ。


 良太:落書きのことは忘れて。


 怜音:ごめんごめん。

    でも萩原さんと仲良くするべきなのは本当。

    狸さんは同じ六年二組だったのに狐に気を付けろと言ったんだから。


 良太:どっちの言ってることが真実なんだろう。


 怜音:真実が一つとは限らないよ。

    どっちも嘘か、どっちも本当かもしれない。

    六年二組の真実より重要なのは、

    ようやく調べがついた良太のおじさんの話だよ。

    聞く気はあるかな?


 良太:聞く気がないなら頼んでないよ。

  

 苦笑交じりに返信し、良太は怜音の調査報告を待った。うまくはぐらかされてしまったような気がしないでもないが、怜音の判断は正しい。久我硝子たち三人の関係がどうであれ、良太には関係のない話だ。それに――、

 

 怜音:ではまず、おじさんの怪談話ね。

    結論から言うと、元ネタらしい事件はあった。

    それも大量にあった。


 という意外すぎる報告に、三人への疑問などあっさり吹き飛ばされてしまった。

 無数に浮かんでは消える疑問を脇に置き、良太は震えてしまいそうな指で話の続きを促した。


 良太:元ネタがいっぱいあるってどういうこと?


 怜音:まあそこ気になるよね。

    でもまずは一番クサい記事を紹介しようか。

    なんと我らが地元の地方紙、マイクロフィルムにあったよ。


 わざわざ教員に頼んで図書館まで乗せてもらい、帰りは親に怒られたという。

 そうまでして見つけた新聞記事とは、三十年も前の地元紙の、三面記事の、さらに片隅――地元で起きた未成年者による暴行事件と関連して、つい先ごろ東京で起きた事件としての記述だった。良太は複写したものを写真として受け取り、タブレットで拡大、確認する。


 ……直近では六月、都内の中学校に通う十四歳の少年が複数箇所を刺され全治三か月の大怪我を負わされる事件も起きている。県警察では本件も影響下にある可能性があると指摘し、事件報道については内容も含め慎重を期するよう通達した。本紙では報道自粛の検討も……


 本題は県内で起きた中学生同士の諍いで、中学二年生の男子生徒がスクリュードライバーのようなもので同級生を刺したという事件だった。こちらは教員がすぐに制止し、警察へ引き渡した後、動機などの取り調べが行われているとだけ書かれていた。


 良太:たしかに父さんの怪談と似てる。

    でも他にもあるって?


 怜音:実はこの時期

    全国的に似たような事件が報道されてるんだよね。

    

 良太:似たような事件?


 怜音:中学生による同級生への傷害。

    ざっと送るよ。


 送られてきたのは九〇年代末期から〇〇年代初期に地方で起きた、少年を主犯とする様々な犯罪報道だ。目を覆いたくなるような凶悪事件が並び、見出しには世代という語があった。


 怜音:実は父さんにも聞いたんだけど

    すごい時代だったらしいよ。

    大人がみんなピリピリしてて、

    あんまり酷いから少年法が改正されたんだってさ。


 良太は父・直幸からも母の奈々子からも当時の話を聞いたことはなかった。ふいに語られることすらなかったように思う。そういう意味では、あの怪談話が、当時の空気を象徴しているのかもしれない。


 良太:ざっと見た感じ元ネタは最初のだね。


 そう返信を送る間も良太の脳内では言語化しにくい思考が走っていた。断片的に得られた情報がつながっていく感覚と、喉元まで何かがせり上がってくるような予感。ほとんど自動的にノートにあれこれ書きつけては横線で消して書き直す。繰り返す間に、メッセージが届いた。


 怜音:それはそう。本命だよ。

    でも言いたいのは別のこと。


 良太:別のこと?


 怜音:送ったの見て気づかなかった?

    実は東京で起きた事件は少ないんだ。

    ないって言ってるんじゃないよ。

    地方で起きた件数に比べて少なすぎるって意味。


 瞬間、良太のなかで情報がつながり言語化された。


 良太:ウカガイ様?


 そんなバカな、と送ってから思った。けれど、怜音のいうことは正しい。

 二〇〇〇年当時、東京にはおよそ三千万人が暮らしていたのだ。いくつも並ぶ少年による傷害事件がおきた地方の人口をすべて足しても東京の半分にも満たない。にも拘わらず、東京で発生した同種の事件が半数以下というのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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