第三話 “聖剣”の実力、“悪魔”の暴虐
短めです。
追記:12月13日に加筆修正し、長くなりました。
数時間前、“聖剣”フォスキア・フォティーゾは冒険者組合から受注した翼竜討伐の依頼を完了し、町への帰路に着いていた。
しかし、その途中で彼はある事に気付く。遠くから血の臭いがする事に、臭いを辿りながら進んで行くと、やがて、血に塗れた奴隷鉱山と、その血を塗りたくったであろう少女を目撃した。
***
『不味イぞ、「聖剣」ダ。』
男の姿を目にした少女は無意識に臨戦態勢を取っていた。少女の細胞全てが目の前の男と剣…聖剣に恐怖している。
「お前、何者?」
少女が震えた声で問い掛ける。
「俺はただの人間だ。ただちょっと人より強くて、あんたみたいなのを殺す仕事をしてるだけだよっ!」
男は言い放つと同時にその場で聖剣を振るった。
次の瞬間、
かなりの距離があるはずだが、少女の両腕が地面に落ちていた。飛ぶ斬撃だ。
「えっ……」
理解出来ない現象に混乱する様子を見せたが、ならばと腕を再生しようとするが、何故か腕は再生されなかった。
「無駄だ。こいつは特別製でな。」
男は剣に視線を向ける。
「なんで!なんで再生しない!?」
少女は叫ぶように問う。その問いには吠え声のような囁きが答えた。
『「聖剣」ダカらダ。オ前は、取リ敢えズ逃ゲろ。』
その声を聞き、少女は逃走を決意したが。
「おい、待てよ、まだ死んでねぇだろ?」
気付いた時には男は少女の目の前に居た。
「ひっ!」
少女も思わず悲鳴を上げてしまう。
「まあいいか、どうせ殺すんだしな。」
少女は残された足で距離を取ろうとするが、
「逃げちゃ駄目だろ。」
男の剣が即座に両足を斬り落とし、未然に終わる。
四肢を失っても、少女は必死で暴れ抵抗しようとするが、何の意味も無い。
「いい加減諦めて、死んでくれよ。」
男が剣を少女の首に振り下ろし、止めを刺そうとした、その時、少女の耳元で吠え声がした。
『リベルタス、変ワレ』
それを聞いた少女の意識は深い、闇の中に沈んでいった……
***
俺こと、フォスキア・フォティーゾは久しぶりの興奮を感じていた。
「ほう……」
恐らくは、契約していた悪魔が乗り移ったのだろうと予想する。
少女の首を刎ねた時、少女の心臓の鼓動は確かに停止していた。しかし、確かな鼓動が聞こえ、さらには、その死体から悍ましいキリングオーラと、異常な程の血生臭さが立ち昇る。
「面白くなってきたな……」
『「……我が名はサングィス・ウィンクルム。血の繋がりによって、人を絆す者也。」』
俺の呟きに応えたのは、先程までとはまるで別の存在のような雰囲気を放つ少女、いや、“悪魔”だった。
刎ねた筈の首や手足は再生し、さらに、頭には濃い紅の捻れた角が新しく生えている。更には、斬った覚えは無いが腹からいくつかの臓腑が溢れ出している。
『「さぁ、人間よ、来い。」』
悪魔の呼び掛けに応じ、俺は首元への一閃で答える。すると悪魔は長く鋭い爪で剣を受け止めた。そのまま鍔迫り合いになるが、徐々に俺の方が押され始める。
「おおっ、中々の力だ。」
『「お前こそ、人間にしては素晴らしい力を持っているな。」』
互いに称賛を送り合うが、それはすぐに終わった。
「なら、これはどうだ。」
俺は剣を滑らせ、剣先で相手の脇を突く。悪魔は避けようとするが間に合わず、腹を貫かれる。
それでもなお、悪魔は余裕の笑みを浮かべている。
『「この程度か?所詮は人間だな。」』
速い!一瞬で懐に入られると、腹に拳が飛んできた。咄嵯に剣でガードするが、勢いを殺しきれず吹き飛ばされる。
『「どうした、そんなものなのか?」』
地面に倒れたまま動けない俺を見て、悪魔は嘲笑う。
『「お前は我に勝てぬぞ。」』
そう言うと悪魔は槍のように鋭い飛び蹴りを放ってきた。
それもなんとか防げたものの、体勢が崩れたところに追撃が迫る。
今度こそまともに受けてしまった俺は、大きく後ろに吹っ飛んだ。
何とか受け身を取れたが、もはや満身創痍。このままではただ殺されるだけだ。
『「諦めろ。お前だけでは我に敵わぬ。」』
悪魔は勝ち誇ったように告げる。
その時、俺の“聖剣”が光輝く。
「随分待たせたじゃないか、この寝坊助野郎。」
それを見た悪魔は呟いた。
『「やはり、“覚醒”したか。」』
邪悪な悪魔の呟きに反応するように、聖剣は更なる輝きを放つ。
眩しい光が辺り一面を照らした。
「さぁ、始めようぜ、聖戦だ!」
その声に呼応するかのように、聖剣がさらなる力を解放させる。
『「これが、魔を滅ぼす、聖なる剣か。」』
悪魔の感嘆の声を聞きながら、俺はゆっくりと立ち上がる。
身体中に力が溢れるのを感じる。
窮地になる度、何度も感じた感覚だ。
これならば、あの悪魔にも勝てるはずだ。
「行くぞ!」
俺は地面を蹴って飛び出す。
『「速くはなったが、まだ遅いな。」』
悪魔の姿が消えたと思った瞬間、背後に気配を感じた。
「チッ」
俺は振り向きざまに剣を振るが、空を切る。
『「“聖剣”よ、持ち主には恵まれぬか。」』
今度は正面に現れた。
俺はすかさず剣を振り下ろすが、またもや避けられる。
『「では、我の番だ。」』
悪魔は嘲るように笑うと、呪文を唱え始めた。
『「血の子らよ、我が意に従え。」』
悪魔の周りの血溜まりから何かが現れる
、それは、5匹程の血で出来た赤子、またはナメクジのような化け物だった。
『「殺せ。」』
悪魔が命令すると、血の赤子達は一斉に、笑いながら襲いかかってきた。
「ハァア!!」
俺はそれらを一閃で斬り伏せた。
「こんなもんか?」
『「ほう、多少はやるではないか。」』
悪魔の賛辞に答えず、次の攻撃に備える。
『「血よ、我が闘いの備えとなれ。」』
すると、俺の足元の血溜まりから幾つもの剣や槍が生成され、俺を串刺しにしようとした。俺はそれを跳躍し、回避するが、空中で身動きが取れなくなった俺に、悪魔が迫る。
『「死ねぃ!」』
悪魔の爪が俺の心臓目掛けて放たれる。
「……ッ」俺はギリギリで体を捻り、間一髪避けることに成功した。
しかし、その代償は大きく、このままだと俺は、血溜まりに生えた剣と槍の串刺しになってしまうだろう。
しかし、俺には奥の手がある、
「聖剣よ、邪悪な魔を祓え。」
その時、“聖剣”が聖なる光を放った。
すると、血の武器は消え失せる。
『「お前如き未熟者でも“力”を、使えるか。」』
悪魔は驚きの表情を見せたが、すぐに元の余裕を取り戻す。
『「ならば、我とて本気を見せてやろう。」』
悪魔の周りに禍々しい魔力が集まる。『「大いなる血よ、我の為に大海を創れ。」』
悪魔が詠唱を終えると、辺りの血溜まり全てが集まり、大きな津波と成った。『「潰れろ!」』
悪魔が叫ぶと同時に、津波は俺に襲いかかる。
俺はその大波を一刀両断するが、しかし勢いは止まらず、そのまま押し流されてしまう。
『「どうした人間、その程度か?」』
悪魔は嘲笑いながら、再び魔法を唱える。
『「血よ、我が敵の血を見出だせ!」』
今度は大量の血液が針となり襲ってくる。
俺はそれを避けながら悪魔へ向かう。『「愚か者め、我が近寄らせるとでも?」』
悪魔は嬉々として嘲笑い、血の針を更に増やそうとするが、
「何!?」
俺の姿はそこには無かった。
『「馬鹿な、一体どこに……」』
血の大波の残滓に紛れ込み悪魔の背後を取った俺は、悪魔の心臓を狙う。
「死ねぇ!」
『「グッ」』
悪魔は辛うじて避けたが、完全に体勢が崩れている。今なら行ける!
俺は悪魔の首目掛けて剣を振るう。
ガキンッ!!
「クソッ!」
しかし、悪魔は左腕を犠牲にして防いだ。
悪魔の片腕は切断出来たが、首を落とせなかった以上、“聖剣”でも致命傷ではない。
「なんて硬さだ!」
俺は思わず毒づいた。
『「やはり、“聖剣”は悪魔の弱点になりうるか……。」』
悪魔は自分の腕を見て呟いた後、俺を睨みつける。
『「この身体ももう限界だ、遊びは終いにしよう。」』
そう言うと、みるみるうちに、悪魔の身体はドロドロに溶け始め、周囲の血溜まりと一体化していった。
「逃がすかっ!」
俺は急いで追撃するが、間一髪間に合わず、悪魔の気配は完全に消えてしまった。
「逃げられたか。」
まあ、取り敢えず冒険者組合に連絡しておくかと思い、俺は懐から通信用の魔導具を取り出した。
リベルタス<フォスキア<憑依ウィンクルム=覚醒フォスキア