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第十一話 軍靴の足音、不穏な因子

待たせたな。(ビッグボス)


新年あけましておめでとうございます。

今年も『屍山血河のリベルタス』をよろしくお願いいたします。

城塞都市ザッサスのはずれ、薄暗い地下牢にて、生還した兵士長は冒険者組合長ノミズマ・アルギロスに尋問を受けていた。


「よし、始めるぞ。」

ノミズマが格子越しの椅子に着席する。

「分かりました……」

勇猛果敢と有名だった兵士長はすっかり、意気消沈して項垂れている。

無理もない、たった一晩で何人にも及ぶ仲間を失い、更に帰還したとは言えど、拷問にかけられかける寸前であったのだ。彼の精神状態はかなり酷く衰弱していた。


「単刀直入に聞くが……お前達は、あの夜に一体何を見た?」

「あ、あぁ、そ、それはまるで……人食いの……」

兵士長は動揺を隠せない、声は震え、目は泳ぎ、呼吸と鼓動は暴れまわっている。

「……おい、おい、やり手だったお前がらしくねぇじゃねぇか。」

兵士長の様子は明らかに異常だ。これ以上は、彼を追い詰めてもロクなことにはならないだろう。ノミズマはそう判断し、踵を返そうとするが。


「いやだぁ!やめてくれぇ!」

背後からの大声を聞いて振り向くと、

兵士長が鉄格子をありえない程の腕力で引きちぎっていた。

「グゲッ!」

奇声を発し、兵士長はまた、人間とは思えない程の瞬発力でノミズマとの距離を縮める。


「危ねえな、この野郎!」

ノミズマは慌てて懐に忍ばせた短剣を取り出し、兵士長の関節部の靭帯を切断し、無力化しようと斬りかかる。

スパッと鋭い音を立て、容易に切断されるはずが。


「硬えっ!」

皮膚の下に鉄板のような手応えを確かに感じ、咄嵯の判断で刃を引っ込めることには成功したものの、兵士長の攻撃を阻止する事は不可能であった。


「ぐえっ!」

首を掴まれ持ち上げられる。

首が締まって苦しい、肺の中にある空気が全て絞り出され、酸素を求めるように口が大きく開き、必死の抵抗のため手足をバタつかせることしかできない、そんな状態でも、彼は思考し続けていた。(ま、まさか、こいつらが壊滅したのは……)

考えたくないが、自分の仮説を証明するかのように、目の前の兵士長の目は深紅より深い赫を称え、瞳孔は猫のように横に伸びていた。そして、口からは血とも唾液とも区別がつかないような液体が漏れ出していた。

まるで、人食いの化物のようであった。ノミズマは自分の終わりを悟った、目を瞑り最後の時を待つのみとなる

(俺の人生ってやつは、どうしてこうもついてないんだ?)

そう思った直後、急に呼吸が楽になった。どうしたことだろうか?不思議に思って目を開くとそこには……。


絶命した兵士長の亡骸と、

「おじさん。今まで、ありがとう。」

美しい銀髪の女が居た。

「ど、どうして……。」

ポリティマ・アルギロス、城塞都市ザッサスにて、特に有力な銀級冒険者。または、元“銀の槍”リーダー。そして、ノミズマ・アルギロスの愛しい姪っ子。


しかし、どうしてここに。彼女への質問が喉まで出かけるが、先にポリティマの声が響く。

「そして、ごめんなさい。」

ノミズマに剣先を向ける彼女の頬には、幾つもの涙粒が流れていた。


***

その頃、サレムニール、長机の広間にて、

「あぁ、可哀想に。」

何処か遠くに視線をやりながら、上座に座る少女は愉しそうに呟いた。

「ホッホ、そろそろ起爆しましたかな?」

「あぁ、大体のセウルスはもう、動かしたよ。」

アクアの問い掛けに対し、少女は答える。


「しっかし、アクアもいい策を考えつくじゃん。まだボケてなかったの?」

アクアの隣に座っていたヴェントゥスが茶々を入れる。


「ホッ、私もまだまだ現役ですぞ。そういえば、君は今回の作戦にて、居てもいなくてもいい位置ですなぁ。」

アクアも抜け目なく言い返す。


「うるさいなぁ、ジメジメ爺が。」

「ホッホッ、これでも、ワシは君のことをとても正確に評価しているのですよ。」

「ああ、そうかい、やっぱりボケてんじゃあないか。」

ヴェントゥスの額に分かりやすくシワが寄り、猛禽の翼が震えだす。

「ん〜?君は年上への礼儀ってのを知らないみたいですの。」

アクアの身体が末端から液体化していく。

「あんたは『子供は宝』っう意識を忘れちったみてぇだなあ?」

二人の間で火花が散る。


「うるさい。」

しかし、その火花は少女の鶴の一声で消火された。

「申し訳ありません。」

「サ、サーセン……」

二人は即座に謝罪した。

「分かれば良い。」

少女は満足げな笑みを浮かべる。

「では、イグニス、再度作戦の説明を頼む。」

「はい。お任せください。」

少女の側に立っていたイグニスと呼ばれたメイド服の女は、恭しく礼をして説明を始めた。


「まず、今回の作戦目的は二つあります。一つ、今後に備え、本格的な拠点を築く事。もう一つは、王国への威嚇です。」

自らが立案した作戦を他者に解説され、アクアが嫌そうな顔になる。

「それで、具体的な理由はあるのか?」

少女の問いにイグニスは正確な早口で答える

「はい。まず一つ目の目的の理由はこの作戦の標的、城塞都市ザッサスがその名の通り頑強な城塞を有している事です。

正面からの攻略は至難になるとはいえ、我々が占領すれば大きなメリットとなるでしょう。そしてこれは、二つ目の目的に繋がります。辺境とはいえ、城塞都市ザッサスは王国からしてもかなりの重要度があるでしょう。よって、占領さえできれば、我々の存在と、恐怖を王国中に知らしめる事が出来るのです。」


「成程、実に理に適っている。続けてくれ。」

「はい。ありがとうございます。」

イグニスは一度頭を下げてから続ける。


「そして、ここからが本題なのですが、現在、我々は一つの問題を抱えています。それは、“聖剣”の乱入の可能性です。」


「……“聖剣”か。」

少女は実に忌々しそうな表情を浮かべた。

感想嬉し……嬉し……

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