大好きな幼馴染が告白されてるのを目撃したので彼女へのポジションチェンジを企む
その握った手は違う。横に立つのも違う。全て相手が違う。
自分でない他の女と誓いの口づけをする姿を見たくないと顔を背けた瞬間に目が覚めた。
いつまでも共に横に並んで過ごしていくと思っていた。何も変わらずにいつまでも同じ関係でいると思っていた。
子供が大人になるように周りはどんどん変化していく。そして二人の関係が変わらないとしても、いや、変わらないからこそ、その間に入り込んで来るのだ。
悪夢を見たのは、前日の放課後に彼が下級生から告白されているシーンを目撃したのが原因なのは明らかだった。
大事な物は失った後に後悔しても遅く、取り返せない。大事な物を守ると決めた覚悟の前には、羞恥心や処女性なんて関係無い。
まだ間に合うはず、きっと間に合うはず、いや、間に合わせるのだ。
握りしめた拳に力が入った。
*********
よし!気合を込めて目の前で回ってみせる。
「へへへ、良いだろう?」
くるりと回るのにあわせてスカートがひらひらと舞う。
「そうだな、よく似合ってる」
当然だ。ターゲット本人に選べさせた本人の好みの服装である。
「だろう?まあ、素がいいから何着ても似合うんだけどね!」
「まあな」
もとより似合わないという回答は受け付ける気はない。
「溢れる笑顔、ほとばしる若さ、ぴちぴちの肌、ふくよかな胸にキュッと締まったくびれ、とどめに弾力のあるヒップ!男性陣の視線を独り占めだよ」
渾身の笑顔で問い掛ける。
「うんうん、異論はない」
無難な返事に胸を撫で下ろす。少し物足りないのはいつもの事だ。
「でもまあ、この身体触れても良いのは彼氏だけだけどね」
挑発するような口調で言う。
今回の目的は異性と認識させる事である。何として幼馴染のカテゴリーを脱却するのだ。
「いや、幼馴染でもいいだろ?」
残念ながら予想通りの回答にNGを突き返す。
「残念!幼馴染が気安く触っても良いのは思春期前までなんだな」
「いつも手を繋いで学校に行ってたじゃないか」
「小学校の頃の話でしょ!あれ?中学でも繋いでたかな?」
手を繋ぐどころか、転倒しそうになると手を引っ張られ抱きしめられる。その度にドキドキが止まらなくなる。あれは反則だ。
「小さい頃は一緒の布団に寝た事もあるというのに薄情な!というか、彼氏なんて聞いていないぞ?」
「へへへ、これから作るのさ!本気を出せば直ぐにゲットだぜ!」
何としても落とす。ちょっとはしたなくてもお色気攻撃で幼馴染の殻を撃ち破るのだ。手段を選ぶ気はない。すでに戦闘の火蓋は切って落とされたのだ。
「くそ!そのオッパイを好きに触れるとか彼氏が羨ましいぜ」
「そうだよ。ただの幼馴染は指を加えて見てれば良いよ」
彼氏になったら触り放題だよ。口に出しかけるがやっぱり躊躇してしまう。
「本当に羨ましい、じゃなくてけしからん!俺だってずっとB子が好きなのに」
「ふへぇ?!」
いきなりの不意打ちに頭の先から変な声が出る。
「いつ好きだと告白しようか悩んでいたのに、俺以外の彼氏を作るのか、、、」
「いやその、、、え?」
「距離感が近すぎて告白するタイミングが分からない。それが最近の寝不足の原因だ。おかげでろくに頭が回っていない」
「ふぉぉおお!!??」
本当かな?ドッキリじゃなくて?嬉しすぎて考えがまとまらない。
「どうかしたのか?」
「いやいや、普段から女の子とか全然興味なさそうだったよね?」
心を落ち着かせるのだ、冷静に、冷静に。慌てるにはまだ早い。
「当たり前だろ?昔からずっとB子一筋だ」
「ふぁ!?いやいや、そんな素振りなかったよね?」
逆にいつも私が行動を束縛しているという自覚しかない。
「いつも『良い乳してるね!』って言ってる」
中1から大きくなり出してコンプレックスだった胸を直接的に褒めてくれるのはAくらいだった。幼馴染の枠を超えて好きになったのも必然だ。もちろんそれだけが好きになった理由ではないが。
「それセクハラだからね!他の女の子に言ってたら大問題になるやつ!」
「B子だと相手だとセクハラにならない?」
胸どころか他の女には一瞥すらして欲しくない。それが束縛したい乙女心。
「それは!?あれよ、あれ!幼馴染の軽口ってやつで!もう慣れっこになってるからね」
「本心から褒めてる」
「そこは『いつも可愛いね、って言ってる!』じゃないの?」
頑なに可愛いとは言わなかったA。コンプレックスの胸を褒めてくれても差し引きゼロだぞ。そこんとこ勉強してよ、と心の中で呟きながらAの背中を叩く。
「うぐっ!そうです」
『おはよう、今日も可愛いね!』
『知ってる』
顔真っ赤になるからこっち見るな。
『今日も良い乳してるね!』
『当然だよ!』
毎日念入りに手入れをしてるのは誰の為だと思っているのさ。
「まさか幼馴染が本気でエロい目で見ているとは思わないよ!?」
ガッツポーズを取りたい気持ちを抑えて、胸を隠す仕草をする。
「エロい目で見るわけない。揉みたくなるほど良い形してると褒めている」
「本当かな?」
いやいや、褒めても進展しないよ?手を出さないと!どれだけ待ち焦がれてると思ってるの?
「触りたいと思うのはB子だけだ」
「えへへ」
思わずニヤけてしまう。いや、これで満足しちゃ駄目だ。
「側に居るといい匂いがして思わず抱きしめたくなる」
「ふぇ!?」
まったくの初耳だ。変な声が出ても仕方ない。
「柔らかいのは以前に抱きしめた経験上知ってる。ずっと抱きしめていたくなる柔さと匂いだった」
Aは目が良い。どれだけ良いかというと、私が側で転びそうになると100%受け止めてくれる。通学途中で転びそうになった時。学校の階段を踏み外して落ちそうになった時。
「んんん!幼馴染が変態さんだった!?」
「変態が嫌いだから俺以外の彼氏を作ろうとするのか?」
正確にはAを彼氏にする!というのが今回の目標であり、普段はAに彼女が出来ないように妨害工作ばかりしている。
朝夕はもちろん一緒に登下校するし、休日も家に押しかけて勉強を教えろと迫る。
いつも独占していたくて。いつも側にいる、一番大事な人になりたくて。
「Aは小さい頃からの幼馴染だし」
「側にいる努力はした」
下校時間の自由が効くからと個人競技を選択したのは知ってる。追いかけて押し掛けてマネージャーになったから。
「小1までおねしょしてたのも知ってるし」
「内緒にしてたけど小2でもやらかした」
そうなんだ?ふふ、また一つ秘密をゲット!
「おっぱい星人だし」
「B子のが小さいなら貧乳星人になってた」
本当かな?嘘だったらおっぱいで顔を挟んで窒息させてやる!
「いつも勉強教えてくれてるし」
「何聞かれてもいいように結構頑張って勉強してる」
高校で部活入るまではどちらかと言うとガリ勉タイプでヒョロっとしてたもんね。おかげで一緒の高校に入るのに死ぬ程勉強した。もちろんAに教えて貰ってだけど。
「私、わがままだし」
「知ってる」
自覚あるけど、即答されるとちょっとへこむ、ショボン。
「きっと束縛するし」
「したいだけすればいい」
今以上だよ。将来、子供が出来て可愛がってたら嫉妬しちゃうくらい。
「(Aの)筋肉フェチだし」
「知ってる、だから部活に入って鍛えた」
『(Aの)筋肉ってちょっと好きかも』って発言が運動部入部の動機って聞いてトキメイたのは内緒。たまに抱きしめらたくて、わざと転びかけるのも内緒。
「面食いだし」
「見捨てられないように努力はする」
もちろん他の男なんて眼中にない。やきもち焼いて欲しくて他の男の子の話題を持ち出してるのは内緒。
「結婚式のお色直しは3回はしたいし」
「頑張って二人で結婚資金貯めよう」
幸せで綺麗な姿を見て欲しいけど、お金貯まるまで我慢出来そうにないかも。式無しでもいいかな?うん、無しでいいかも。
「子供は3人は欲しいし」
「そうだな」
うなずくAに似た子供達の姿を想像するとニヤけ顏が止まらなくなる。
「返品効かないんだけど、本当にいいの?」
「こちらこそよろしくお願いします。B子が大好きです。よかったら俺と結婚して下さい!!」
「!!??何か途中をすっ飛ばしてるよ?」
手は繋いだ。抱き合った(転ぶのを防止)。キスもした(子供のママゴト)。デートもした(一緒に買い物)。一夜を共にした(お泊まり保育)。告白(現在進行中ナウ)。
あれ?抜けているのは恋人としての交際期間だけだった。
「これだけ長く側に居たんだから恋人も婚約者も大して変わらないだろ?」
確かに異論はない。というか、今すぐ入籍でもOKだよ。
「逃げれなくなっちゃうよ?」
「こちらこそ、逃す気はないよ」
「えへへ!」
言質取った!あとは押し倒すだけだよね?
ニコッと微笑むと全力でAの胸に飛び込む。えへへ、逃さないんだからね。