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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
73/76

変わりゆく内気少女

1年1組 真夏多まかだミア‥‥‥内気な美少女


     切取きりとルイマ‥‥‥イケメン女子、小6から密かなるミア推し(キリル)


  2組 土方ひじかたミチル‥‥‥ミアの幼なじみ、ミアに恋心 (ミッくん)


  8組 座家ざかリアス‥‥‥わりとイケメン、成績悪し 中1からミアに片想い(ザッカリー)



     中村一深ヒトミ‥‥‥陽気な男子



 夏休みが終わり新学期が始まった。


 朝の校舎には、久々に会った友だちと、夏休み中の出来事をわいわい報告し合う声が響いている。



 ミアのいる1年1組の教室の中も、朝から賑やかだった。



「ミア! さっき聞いたんだけどっ、あっ、あの噂は本当なの?」


 ミアが教室の扉をくぐった途端、親友のルイマが、ミアに突撃して来た。


「おはよ。キリルったら、どうしたのよ? 落ち着いて。あの噂ってなあに?」



 久々に会ったルイマの、日に焼けた顔を見ながら、ミアは机の上に荷物を下ろした。


「何って! あの美術部部長のチャラ男子の新たな彼女がミアだっていう噂よ! しかも超ラブラブで、人前でもイチャイチャしてるって‥‥‥‥これ、私は今知ったとこだけど、夏休み中から既に広がっていたらしいよ」


 夏休みの間中、長らく写真撮影の旅及び、撮った写真整理に没頭していたルイマには寝耳に水の情報だった。


 ルイマは登校早々、夏休み中リアルでは会うことの無かったミアに彼氏が出来ていて、しかもそれがあの入学直後から、ミアを絵のモデルにしつこく誘って来ていた男だと聞き、衝撃を受けていた。


 ルイマは、我こそが隠れミア推しの先鋒だと自認している。


 噂が本当のことだったら嫌過ぎる。


 愛するミアのお相手は、せめて自分が認める人ではないと納得いかない。

 そんなポッと出の男に、長年ウォッチして来たミアを奪われたなんて!


 ルイマの眉は無意識につり上がっている。



 親友のルイマに黙っていたのは良くなかったかなと、ミアは思う。他から聞かされて心外そうな顔をしているように感じた。


 ──キリル、怒ってる? 私が甲斐先輩と付き合うことになったこと黙っていたから。


 そうよね。甲斐先輩たちに毎朝のように人物画のモデルの勧誘に教室まで来られて迷惑してた時は、ずっと私の盾になってくれてたのに。その甲斐先輩と私が噂になってたなんて、困惑するに決まってるよね‥‥‥


 ミアにとっては彼氏は初めてのことで、そこまでは思いが至らなかった。ルイマに隠すつもりはなかったのだけれど。

 


「‥‥やだ。なにそれ。恥ずかしい。でも、甲斐雅秋先輩のことなら、うん、本当。今度キリルにも改めて紹介するね」


「大丈夫なの? なんか遊び人って噂だけど‥‥‥。私、ミアが心配で。いや、彼氏いない歴年齢の私が僻んで邪魔しようってわけじゃないからねっ!」 


「ありがとう、キリル。甲斐先輩はみんなが思っているような人じゃないよ? 会えばわかるから」



 すっかりチャラ男の術中にはまってしまったらしきミアに、ルイマは絶望する。


 最初の頃は甲斐雅秋を、あれだけ拒否して避けてたのにこの180度の変わりようは想定外だ。


 ──ああーっ!! 私がちょっと目を離した隙に、あの男めっ!! 


 いいわ、こうなったからにはミアを裏切ったり、泣かせるようなまねをしたら、許さないんだからッッ!



 密かにミアに焦がれながら親友しているルイマ。


 親友としてはミアの恋を応援するべきなのだが、ジレンマだ。


 しかも、ミアには言えないが、先ほど聞いたばかりの噂に寄れば、ある写真が一部の生徒たちの間に拡散されているらしい。


『ピッカー! 中庭の巨木が電撃倒れた!』という触れ込みの写真なのだが、そこにはミアと雅秋が抱き合っているところが写り込んでいるという。


 わざとらしい、嫌がらせのようだった。



「ねえ、その甲斐先輩って校内では人気だし、上級生にも推しは多いんでしょ? イロイロ気をつけた方がいいよ。なんかやらかされたら嫌な目にあうのはこっちだもん」


 ミアに何らしかの嫌がらせを更にされるのではと、ルイマの懸念は広がる。


「キリル、心配してくれてありがとう。私、別に悪いことしているわけじゃないし、何か言って来る人がいてもどうってことないよ。た、たぶんだけど‥‥‥」


 頬を染めながら気弱に強がるミアに、ルイマの庇護欲がくすぐられる。


「フンッ、ミアには私がついてるからね! なんかあったら私にすぐに言うのよ?」


「うふ、ありがとう。どうしてもの時は頼りにします。だから、キリルが困った時は私に言ってね。絶対に。私もキリルやミチルの役に立ちたい。対等でいられるために。ずーっと友だちでいたいから‥‥‥」


「ミア‥‥‥」



 ほんの小さなきっかけから人が変化して行くのを間近に感じ、ルイマは内心驚いている。



 ミアは昔から教室の隅っこで目立たぬように過ごしていた内気な女の子。



 入学して間もなく、蓮津姫に一瞬憑依されたのがきっかけだった。


 ミアは人物画のモデルを引き受け、美術部に通うようになった。


 目立つことを究極に避けていたミアが、イケメンで有名で噂の多い美術部部長の甲斐雅秋と堂々と付き合うなんて、以前のミアでは考えられなかった。


 ルイマは密かにミアに恋していた。


 一目見た時から、神様がひいきして作ったみたいな この女の子に憧れを抱いていた。


 そのミアは、ルイマの知らない間に彼氏なんかを作り、その男子には嫉妬が湧く。


 ミアにも置いてけぼりを食わされたような気がした。


 が、ミアに『ずっと友だちでいたい』と、言われたことで、そんな些末なことは凌駕された。



 ──ミアの親友はこの私! ミアに選ばれて、この立ち位置をゲット&キープ!


 人生、彼氏は数回変わる公算が大きいけど、親友なら、大好きなミアとずーっと繋がっていられるもん。



 ルイマは、友だちとしてミアの側にいられれば、それで満足だ。



「私ね、夏休み中に美術部と錦鯉研究部でいろんなことあったの。本当にいろんなこと‥‥‥。すごく思い出深い夏休みになった。これってキリルとミチルのお陰でもあるのよ?」


「私の? リアルでは全然会わなかったじゃない。私は兄貴と写真を撮る旅にあっちこっち行っていたし、残りも写真の整理と宿題で、てんてこまいで。土方だって、ずっとハワイだったんじゃなかったっけ?」


 ルイマの頭の上にクエスチョンマークが浮かんでる。



 ──キリルが私と学校の七不思議を結びつけてくれたから。ミチルが私を錦鯉研究部に誘ってくれたから。そこから始まったのよ。ありがとう‥‥‥



「ううん、全ては繋がっているの。それよりほら、キリルの写真、見せて。すごく楽しみにしてたのよ!」


「私も、見せるの楽しみにしてた! 私の一番のお気に入りはね‥‥‥」



 ルイマはスマホをミアに差し出した。


「うっわー! キリルのSNS未公開写真? 僕も一緒に見ていいよねー? ミアぁ、キリルぅ」


 ルイマと仲のいいクラスの磯部(いそべ)柊也(しゅうや)が、ミアの横にくっついて並んだ。




 間もなく始業のチャイムが鳴り、担任の先生がやって来た。


「みなさん、元気に過ごしてたようですね。では、全校で始業式です。体育館へ移動です」




 ********




 体育館での始業式後、各教室でのSHRで、この日の日課はおしまいになった。



 早速、仲良し同士で寄り道する相談する生徒もいれば、部活動にいそしむ生徒もいる。



 ミアとルイマが教室で話していると、隣のクラスの土方ミチルと8組の座家リアスが揃ってやって来た。


 二人とも顔が暗い。



 おそらく二人はミアと美術部部長の恋の噂を聞いたのだろうと、ルイマにはすぐにわかった。


 もしかしたら例の、拡散された悪意のこもった写真を見たのかも知れない。


 ミアのことを密かに慕っている この大小デコボコ コンビの二人は、可哀想なことにもれなく失恋だ。


 二人は入学直後、ミチルのコンプレックスから生じたリアスへの嫉妬で、気まずくなったこともあったが、今はよき友だちに戻っている。



「久しぶり! キリル、真夏多さん」


 リアスはカラ元気で笑顔を作る。



「ミア、キリル、久しぶり。僕、二人にお土産があるんだ」


 ミチルも今まで通りを心がけた。気持ちが漏れないように。



 揃って失恋したと知ったミチルとリアスが、事前に話し合って決めたことだ。


 自分たちの気持ちを漏らさぬことが、このグループに置いては最善だろうと。


 気持ちが届かない今は、このまま友だちとして過ごしたほうが良策だ。



 ミアは変わってしまったかも知れないと、ミチルは、少し怖い。


「ミア、鯉のエサ当番ありがとう。ごめんね、たくさん一人に任せてしまって」


「ううん、エサ当番は楽しかったし。鯉もなついてくれてかわいいし。ついでに図書室で勉強してたよ」


 ミアは屈託無くミチルの顔をニコニコと見ている。


「私はご覧の通りよ。この日焼けを見て!‥‥‥ミチルは長期ゴージャスリゾートだったよね~? どっか見た? 天文台の方は行ったの?」


 敏感に察知しているルイマは、意識していつもと同じに振る舞う。が、演じ過ぎていささか口調がおかしくなっていることに本人は気づいてはいない。



「‥‥あ、うん。でも僕もココも本当は早く日本に帰りたかったんだ。ずっといても飽きるし。はいこれ、お土産だよ。ありふれたチョコだけど」


 ミチルはミアとルイマに箱の包みを渡した。


「私、これ好きよ。ありがとう、ミチル」


 ミアが自分に対し特に変わっていないことに、ミチルはホッとする。



「ありがと、土方。家で家族といただくね」


 ミチルは、ルイマの目に同情がこもっているのを察知する。



 その後、今一つ盛り上がらない談笑を少し。



 ルイマは思い切って先に言ってしまうことにした。お土産を渡すのは本来の目的じゃないのは明白。彼らの目的はこれをはっきり確かめるために来たのはお見通しだ。


「あのね、重大発表だよ! ミアに彼氏が出来たの。ねっ、ミア」


 ニカッと笑顔でミアを冷やかす。


「や、やだ、キリルったら! いきなりそんなこと。私、恥ずかしいよ」


 頬を赤らめオドオドし出すミア。


「‥‥そっか、3年の美術部の部長だろ? その人、あんまいい噂は聞かないけど。真夏多さんマジ大丈夫?」


 きっかけを得ると、リアスは待ってたとばかりに斬り込んだ。


「あ‥‥‥そうみたいだけど。大丈夫だと思うよ」


 本当のことだけにミアは苦笑いだ。牧野のばらのこともあったし、否定は出来ない。


「‥‥‥‥ふーん」


 リアスからは不機嫌駄々漏れだ。



 ミチルは幼なじみとして、ここにいる誰よりも長くミアだけを見て来た。ミアに恋をしながら。この高校3年間のどこかで思いを伝えるはずだった。



「ミアに彼氏って‥‥なんだか、男子の僕はミアに話し掛けづらくなるのかな‥‥‥もしかして」

 

「何言っているの? 私とミチルとの友情がそんなことで変わるわけないじゃない。やあね」


「あはっ、だよね! よかった~‥‥‥」


 全然良くはないが、無理に笑顔を作った。本当は泣きそうだ。



 ルイマとリアスはチラリと目を合わせるとミチルの心情を察し、声をかけた。


「ねぇ、土方。あんたこの後、用あんの?」


「‥‥‥うん。僕、今日は錦鯉研究部の部長の仕事があるんだ。名波先輩はもう夏休みいっぱいで引退したからね。4人になってしまったんだ。また研究会に戻ってしまうんだ。その手続きがあって」



「名波先輩‥‥‥」


 ──ミチルは名波先輩のことを覚えている!


 ミアは、ハッとしてミチルを見た。



「ミアは会ったことないかもね。名波部長。錦鯉研究部部長だったのに、結構な幽霊部員だからさ。僕だって数えるほどしか会ったことは無いんだ。でも、その数回で中庭の鯉のことはたくさん教わったけどね」



 ミチルはミアと索のことは何一つ知らない。この夏休みに始まった、いつ成就するともわからないミアと索の恋の物語のことは。



「‥‥‥いえ、よく知ってる‥‥ミチルよりも。私、絶対に忘れないから!」



 ミアはガタンっと椅子を響かせて、力強く立ち上がる。



「ミア?」


 ミチルはミアの態度の意味が解せずにあっけに取られる。


 ミアが教室の時計を見て言った。


「あっ、私、ちょっと。もう行かなきゃ。ごめんね。ミチル、お土産ありがとう。ココちゃんにもよろしくね。じゃ、また明日、キリル、座家くん」




 ミアがいなくなると三人は気まずく顔を見合せた。






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