秘密をあげる
ちょっとだけBL入ってます。
苦手な方は逃げて下さい ε=(ノ゜Д゜)ノ
訝しい顔を向けるゼツガに、索は冷たい視線を送る。
「‥‥‥‥別に君に信用されなくとも僕は一向に構わないけど?」
「名波、お前は何かおかしい。何か秘密があるんじゃないか?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
「おい、何とか言えよ。謎の転校生だとか言うなよ?」
「‥‥‥‥‥‥‥」
索は、じわじわとしつこく攻めて来るゼツガが面倒になって来た。
くるりと後ろを向いた。
「はぁ‥‥‥」
ここまで執着されると、ゼツガは卒業するまで、自分のことを忘れることはないだろうと思うと、げんなりと大きなため息が出てしまう。
生徒にはなるべく関わらないように心掛けてはいるが、稀にこんな事は起こる。
数年前、索はいきなり女子生徒から恋文を手渡されたのをきっかけに雲隠れし、今年になってやっと再び校内に姿を現したばかりだと言うのに。
この思い出深き地に落花生高校が設立されてからは、生徒に紛れつつ学園生活に触れ、孤独を癒しながら現世に留まっていた。
索にとって、ミア以外からの接近は迷惑だ。
「だんまりかよ? 益々怪しいよな。もしかしたら名波って‥‥アレ?」
「‥‥‥‥‥」
これでまた雲隠れか‥‥と、索は目を瞑る。
「ほら、生徒に紛れ込んでる先生側のエージェントとか? よくあるよな。こういうの。会長から直々に任命されて会社の内部事情を社員として潜入リサーチ、報告する調査員とか、現場に作業員として潜入して内部をすっぱ抜き告発するフリーライターとか。生徒側にいれば先生が知り得ない情報だって流れて来るわけだし」
「‥‥‥‥‥」
索の覚悟は杞憂だった。が、このままでは。
首だけ振り向いてゼツガを見ると、バチッと目が合い咄嗟に前に戻す。
「ミアのために表に出過ぎたな。‥‥‥仕方ない。こんな手は使いたくなかったけど‥‥‥雲隠れは避けたいし‥‥‥」
索は口の中だけで呟いた。
覚悟を決めた索はくるりと向きを変え、再びセツガに向き合った。
「久瀬ゼツガ」
索は地面を向いたまま、ゼツガの両肩に手を乗せた。
「‥‥‥ゼツガはそんなに僕のことを知りたいの?」
「ゼ‥‥って? あ‥‥まあな。真夏多さんの安全のためだから」
索はフッと顔を上げた。真正面でゼツガと顔を合わせる。
真顔でゼツガの目をじーっと見つめ続ける。
索の真意がわからず、ゼツガは動揺する。
「ゼツガって‥‥‥‥僕にそんなに興味があるんだ?」
クスリ‥‥と、かすかに嗤った。
誘われているようでゼツガはドキッとする。
「‥‥興味っていうか、どっか変に思う」
「嬉しいな。そんなに僕のこと気にかけてくれてたなんて‥‥‥」
至近で見る索の、どこか金色を帯びた神秘的な瞳にゼツガは目を奪われる。
「いっ、いやその‥‥‥‥名波には何か秘密があるはずだと思う。学校側から与えられた特別な身分とか。だからクラスが無いんじゃ‥‥‥?」
「ゼツガ? 誰にだって‥‥‥秘密はあるものだよ? 何もかもさらけ出してる人なんているわけないだろ? ゼツガだって‥‥‥‥?」
上目遣いで探るように見て来る索。
「お、俺は別にそんなものは‥‥‥‥‥」
索の甘いボイスと視線に絡まれ、ゼツガは心ならずもドキドキしてしまう。
耐えられなくなってゼツガは横を向いた。
ゼツガの鼓動は大きく波打っている。
「ふーん‥‥‥それって単調。毎日つまらなくない?」
索はニヤリと意味深に嗤う。至近にある整ったその顔は、男のゼツガとて照れてしまう。
「そ、そんなこと言われたって‥‥無いったら無いっ!」
索が後ろで一つに結んだ髪を片手でほどき、首をフッと振ると、さらりと黒髪が風にそよいだ。肩にかかる髪。
突然、中性的な美しさが漂い出す。
「‥‥‥ねぇ、ゼツガ?」
横を向いたゼツガの頬を両手で挟んで強制的にこちらへ向けた。
目線がキョドる。赤らめた顔のゼツガはされるがままだ。
「じゃあ、ゼツガ‥‥‥‥希望通りキミに僕の秘密をあげる。秘密って楽しいって教えてあげるよ」
索の冷たい手は顔から離れたが、ゼツガは逃げようとはしなかった。
この先の展開に期待している自分がいる。
「あ、あの‥‥‥」
「ふふ、目は開けてるタイプ? 僕は構わないけど?」
索の綺麗な顔が、そろりとゼツガに近づいた‥‥‥‥
*******
ゼツガは、中庭の池の脇のスズカケの木に背中をもたれて座り、眠っていた。
「おい、キミが久瀬くんだろ? こんなところで寝ているなんて」
「う‥‥ん、あれっ? 俺は‥‥?」
肩を索に揺り起こされ、ハッと目が覚めた。
「久瀬くん、今日は僕の実験の話を聞きたくて来たんだろう? ミアからそう聞いていたけど」
見上げると、そこには名波索が困惑顔でゼツガを見下ろしていた。
「うっ、うあっ! 俺は お前とっ!」
ゼツガは慌てて立ち上がった。
ゼツガの様子に驚いて当惑している索が、目の前に立っている。
「名波! い、いやすまん。名波も捨てがたいが、俺は未だに真夏多さんのことが‥‥‥‥」
ゼツガは顔を赤らめ、索におどおど語る。
索は怪訝な表情をゼツガに向けた。
「何を言っている? 寝ぼけているの?」
「えっと‥‥俺たちの秘密のキ‥‥‥」
「秘密? 何のこと? 僕たち今、初めて会ったところなのに。それより、時間を指定した僕の方が遅れてしまってすみません。久瀬くん、待ちくたびれてうとうとしてしまってたみたいだね‥‥‥」
「‥‥‥俺は、なんでこんなところで寝て?」
ゼツガはきょろきょろと辺りを見回した。
「20分も、待たせてしまったからね。じゃ、開始時間も過ぎてしまったことだし、久瀬くんの質問に早速答えるよ」
ゼツガは索を改めて観察する。
キチンと髪は後ろで結ばれ爽やかでキリリとした佇まいの索。先程の妖艶な索では無い。
「‥‥‥俺、夢を見てた?」
「どうかしましたか? 久瀬くん、顔赤いみたいだけど熱中症とか大丈夫?」
心配げにゼツガを覗き込む索は、ゼツガが以前思っていたイメージのままの爽やかイケメンだ。
ゼツガに秘密を与えたセクシー索とは全く重ならない。
──俺をゼツガって‥‥呼ぶわけないか‥‥‥
ゼツガは恥ずかしくなり顔を背ける。
「あ、俺はなんともないよ。大丈夫だから‥‥‥」
「そう?‥‥‥じゃ、久瀬くんの質問に答えるよ。でも事情があって。内容は誰にも言わないって約束して欲しい。あれはある実験だったんだけど、まだ結果を発表する段階じゃなくて」
「‥‥わかった。約束する」
「ありがとう。久瀬くんがあの夜見たのは、夜間における水面上での映像投影の実証実験だったんだ。暗い水面をスクリーンにして美しい3D的な影像美を映し出そうと思ってね。何か他に質問はありますか?」
爽やかに微笑みを向けて来る索は、今のゼツガには眩し過ぎた。
「いっ、いや、わかったよ。俺、理解したから‥‥‥もう大丈夫‥‥‥」
このまま索と二人きりでいては心臓が持たない。
「‥‥‥そう。では、くれぐれも約束は守って下さい。じゃあ僕は行きます」
索は身を翻し、ゼツガには目もくれず、さっさと消えた。
残されたゼツガは、索の顔を見ずに済むことに取り敢えず安堵した。
──あれ、夢‥‥‥だよな。俺はあんな夢を見るってどういうこと?
妙に意識しちゃったじゃないか。これじゃまともに顔見て話せやしないって。
真夏多さんを甲斐から救うための話もしたかったけど。
‥‥‥俺、真夏多さんを見ているつもりが無意識のうちに名波のこと見てた‥‥?
え? ウソ。まさか‥‥俺‥‥‥名波のこと‥‥?
「あ、久瀬先輩! おはようございます」
入れ替わるようにゼツガの前に現れたのは意中の人、ミアだった。