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内気少女といにしえの恋  作者: メイズ
諸行無常な恋をして
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三兄妹 冬雅 雅秋 シュカ 

 「ミア、俺はもうこんなの我慢出来ない! ミアが誰よりも、名波より、久瀬より俺を選んだという(あかし)が欲しい。ちゃんと俺と付き合うって明言してくれ!」



 雅秋が自分のことを真剣に想ってくれていることは今までで十分伝わっている。ついにキレた雅秋の心の叫びに、ミアは応える決心をした。


「‥‥‥わかりました。でも、それは久瀬先輩に謝ってからです。甲斐先輩も私も」


「わかった。そのかわり久瀬に謝罪が出来たら俺のこと、雅秋(がしゅう)って呼べよ。いつまでも甲斐先輩じゃあな‥‥‥雰囲気出ねーし」


「‥‥言えるかわからないです。急には恥ずかしいかも‥‥‥」


 赤面しうつ向くミア。


 雅秋との本格的な交際スタートがほぼ決まり、ミアの心がそわつく。


 雅秋は、うぇーい系とは無縁なミアの反応にじわる。


 ミアと雅秋はこの時、ようやくお互いに心が繋がったような気がしたのだった。





 昇降口を出たところで待っていると、間もなく雅秋が二人分の荷物を持ってミアの元に戻って来た。



「ありがとうございます。あーあ、午前に終わらせようと思ってた問題集のページ数が全然減らなかったです」


 雅秋が手渡すバッグを受け取りながらミアは苦笑いした。


「ミアは真面目だな。なあ、腹減っただろ? どっかで食おうぜ」


「あ、はい」


「ならさ、その後は、俺んち来いよ。二人なら落ち着いて勉強出来るだろ?」


「え? 甲斐先輩の家に? 突然お邪魔したらご迷惑になるし‥‥‥」


 いきなり男子の先輩の家に行くのは気が引ける。いきなり二人きりと言うのも気まずく思う。



「親父は仕事でいないけど、兄貴はバイト今日は休みって言ってたし、妹も だらだらして家にいるはずだから紹介する。だって俺ら付き合ってんだからな」


 雅秋はミアとの繋がりをこのまま強化しようとグイグイ行く。


 ミアは押されぎみだ。


「本当に私が行ってもいいのかな? 急過ぎて緊張する‥‥‥」


「いいに決まってんだろ、決まりっ! えっと昼、何食べたい? ミアが決めて」



 ミアがはっきり返事をしないまま、行くことが決まってしまった。


 少し気が重く感じるミアだったが、黙っていた。



 二人は、駅前のファストフードでお腹を満たした。


 途中一回乗り換えて20分も掛からずに雅秋の家の最寄り駅である印原(いんげん)駅に着いた。


 ミアはもうすぐ会うことになる雅秋の兄妹がすごく気になる。


 特に妹という存在は、兄の彼女には辛いイメージがあって怖い。


 二人並んで家に向かって歩きながら、ミアはさりげなく情報を探る。


「3人兄妹なんですね。甲斐先輩。兄妹がいるってうらやましいです。私、一人っ子だから」


「うっざいだけだけど? ミアは、多分無い物ねだりだな。俺の方がうらやましいって」 




 閑静な高級そうな住宅街だった。


 その中の一つ、モダンな造りの家の前まで来た。


「ここ、俺ん家」


「キレイで大きなおうちですね‥‥‥」



 ミアは玄関へのアプローチを歩きながら、緊張でドキドキだ。


 雅秋は鍵を開けドアを開いた。


「ただいま~。人連れて来たから」


「お邪魔します‥‥‥」


 ミアはまだ見ぬ人たちに向かって緊張の第一声を放つ。


 奥からめんどくさそうにショートヘア、短パンTシャツの女の子がスマホ片手に出て来た。


「あ、ガッシュ、おかえりー‥‥‥あ? おおっ!? こんにちは」


 驚いた顔でミアを見た。


「こんにちは。真夏多ミアです」


 ミアは軽く微笑んで会釈する。


「これ、俺の妹のシュカ。中3」



「これはっ‥‥‥! ガッシュが女子を1人だけ連れて来た。我が家の歴史上初。しかもそれはガチの清楚な美人、かつ礼儀正しい。着用は落花生高校の制服。‥‥‥そして、ガッシュによる『人連れて来た』とかっていう、さりげないうちらへのアピール‥‥‥これらを総合すると‥‥‥」


 シュカは眉根を寄せ、こめかみに右手を当て、その肘をもう片手で支えている。まるで名探偵が何かを思案しているように。



「そうだシュカ。俺の彼女だ」


「クッ! ガッシュよ。うちが正解を言う前になぜ言う? トーガ! たいへんだっ! トーガ兄貴っ! ガッシュ初、彼女を連れて来た。しかもすっげー美人」


 シュカが階段をかけ上がる音が響いた。


「‥‥ったく、シュカの野郎。ごめん、ミア。シュカが興奮して。いつもはもうちょいまともなんで気にすんな‥‥‥さあ、上がって」


「はい、楽しそうなおうちで素敵です」


 ミアが想像していた妹と全然違う。もっとツンツン高飛車な澄ました子を想像していた。フレンドリーそうで、取り敢えずはほっとした。



 ‥‥ダダダダダッ

 ‥‥‥タタタタッ



 ミアが脱いだ靴を隅に寄せ揃えていると、階段をドタドタ降りてくる音が2重奏になって響いて来た。


 雅秋から毒が抜けたような爽やかな男子が現れた。すぐ後ろにはシュカもいる。


「こんにちは。ようこそ。俺は雅秋の兄の冬雅(とうが)です。雅秋が迷惑をかけていないといいけど」


 冬雅は雅秋に似ているが、やはり大人びている。


「‥‥俺が付き合うことになった真夏多ミアさんだ。よろしく。はい、紹介は済んだ。もう、お前らに用は無い。ウザいからあっちで籠ってろ」


 雅秋がしっしと手を振った。


 ミアを雅秋の彼女だと認識させたらもうそれでいい。



「なんだよ。いいじゃん。雅秋が初めて彼女を連れて来たんだ。もっと紹介しろよ。ねえねえ、雅秋って学校ではどんな風なの? ミアちゃん、教えてよ」


 冬雅は雅秋の兄だけあってグイグイ来る。


 ミアはとりあえずは差し支え無きように挨拶した。


「こんにちは、冬雅さん。私、真夏多ミアと申します。今日は突然お邪魔してすみません」


「あー、今日は俺、バイト休みで家にいて良かったよ~。さあ、ミアさん。洗面台はこっちだ。どうぞ、手拭きペーパーはここ」


 冬雅が雅秋を差し置きミアを案内した。ついて回るシュカ。


「あー、ほっんとお前らうざいんだけど?」


 雅秋の声のトーンが低くなっている。



「まあまあ、ほら。雅秋も手洗いしっかりね」


「そうそう、ガッシュも丁寧に手を洗えよ」



「ミアちゃん、ほらこっちこっち」


 雅秋が手を洗い始めると、シュカと冬雅はさっさとミアを二階に連れて行ってしまった。



「ちっ、何なんだあいつら。俺の客だっていうのに‥‥‥」



 雅秋が階段を上る途中、冬雅の部屋から楽しげな話声が聞こえて来た。


 自分を差し置いてミアと話すなんてムカつく。



「おい、お前ら! 何でミアを兄貴の部屋に連れて行くんだよ?」



 待ち構えていた冬雅は、ドアを半分開けて内側から顔を出し、手のひらで鼻と口を覆った。


「うっ、雅秋。ヤバッ‥‥‥さっきからお前汗臭いぞ。シャワーでも浴びて着替えろよ。ミアさんは俺たちがお相手してるから」


 冬雅が顔をしかめた。


「あー、うちも思ったー。ガッシュ汗臭い。そういうの女子には嫌われるから」


 床に座って後ろ手をついたシュカが、背筋を反らし首を伸ばしてドアの隙間から顔を覗かせた。


「マジかよ‥‥‥悪い。ミア、ちょっと待ってて。お前ら、ミアにつまんねーこと吹き込むなよ!!」


 雅秋はドアを閉めた。



「‥‥‥行った。相変わらずチョロいな」


 シュカがニヤニヤした。


「ふふ‥‥‥雅秋は自分大好きだからな」


「さっ、うちらだけで話そ! ガッシュ小うるさくて邪魔だしー。ミアさんは高1なんだー。あたしは中3で、トーガは大学2年なんだ。ガッシュとトーガは顔は似てるけど違うよね。ガッシュはこだわりがウザいくない? 彼女さんに言うのもなんだけど」


「‥‥‥そうですか?」


 それは少し感じているけれど、まさかここで肯定していいものか戸惑う。


「何言ってんのー。ミアさん。嫌なことはちゃんと言った方がいいよ。ガッシュはうちらのことウザがるけど、こっちだってあの自意識過剰はめんどいってば」


 シュカはサバサバ系らしい。


「どうせならガッシュじゃなくて、1人はミアさんみたいなお姉さんだったら良かったのにー」


「そうだよ。俺だってミアさんみたいな妹がいたら良かったなー」


「う? 兄貴‥‥‥うちにケンカ売ってる?」


 シュカが肘を脇に拳を構える。



「違うって。雅秋が女の子だったら可愛かったと思わない? めちゃ美人の妹自慢出来る」


「くっ‥‥今は自慢出来ないとでも? どうしても一発必要らしいな。トーガ‥‥‥」


「えーと‥‥シュカもかわいいって! うわっ、落ち着け!」


「口は禍のもとっ! ハイッ!!」


 シュカは雅秋の目の前でパンチを寸止めした。


「ふっふーん。これからの世の中女子もね、強くなくっちゃやっていけないよ!」


 ミアを見てにかっと笑う。


 この兄妹はじゃれ合うのが好きな中々の仲良しのようだ。




「ねえ、ミアちゃん。ふふふ、君をここに呼んだのはね。‥‥‥早速見てもらいたいものがあるんだけど」


 冬雅が立ち上がった。


「トーガ‥‥‥そうだったのか? アレを自慢したくてガッシュを巻いてミアちゃんをここに」


「せっかく我が家に足を踏み入れたんだ。これは義務と言える」


「私あれ、苦手‥‥‥また迷惑かけられるじゃん」


 先ほどまで楽しげだったシュカの顔が曇る。


「そんなことあるわけないよ。それに普通の女の子はああいうかわいいものが好きなんだから」


「そうかも知れないけど。私はパス。あー、ミアさん、喉渇いてるよね。あたしコンビニにジュース買いに行って来るわー。お茶系の方がいい?」



 ミアには二人が何の話をしているのかさっぱりだ。



「あの、私にお構い無く。シュカちゃん」


 なんだかここにいるのが不安になってきたミアだが、遠慮して強く言えない。


「ちょっと待っててね。ミアさんまた後でねー」


「いえ、本当にいいです。今日は甲斐先輩と勉強するために来ただけで‥‥‥」

 

「いいから、いいから」


 シュカは、いかにもな作り笑顔を張りつけながら器用な後ろ歩きでシュルっとドアを抜けてバタンとドアを閉めた。



ドアの閉めた音にミアは小さくびくりとした。



「あ‥‥‥」



 ミアは冬雅と二人、部屋に取り残されて‥‥‥







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